16

 俺とダリルで先制攻撃を入れようと思ったが甘くは無かった。

 俺達が目の前まで行くと、一飛びで1メートル程の距離を空けられる。

「くそ、やっぱり簡単にはいかない」

「……ミュート気を付けて、一回の跳躍で1メートルの間合いがなくなる」

 言われて気付く。

「ああ、わかった」

 ウッドウルフは近くでみるとよりデカい。2メートル、尻尾までいれると2.5メートルといった所か。

 だけど、相手もこちらが3人いる事を警戒しているのか唸り声を上げるだけで飛び込んでは来ない。それにしても何故か後衛のロンまで飛び出しているが、まあ考えがあるのだろう――いや、むしろ都合がいいかもしれない。ロンの回復魔法は確か深い傷ぐらいなら数十秒で塞げるぐらいだったはずだ。

「ロン。俺が突っ込んで深手を負ったら回復頼む」

「任せて!」

 その自信ありげな声で安心を得た。全力で間合いを詰めてかかると、ウルフも全身のバネを使いこちらに跳躍してきた。

 気を付けてるべきを爪と歯だ。振り下ろしてくる前脚を剣で捌いて、体を回転させ横に逃がす。そのままの勢いでウルフの横っ腹に一撃を入れたが、手応えが悪い。

「岩かよ!」

 皮が丈夫なのか、鍛えられた筋肉なのか。こっちの刃が欠けそうなくらい硬かった。

「魔物は毛も硬いから、薄そうな所を狙って!」

「無茶言うな! 戦いながらそれ探すとか神業だろ」

 攻撃した所に血が滲んでいるから、ダメージが全く無い訳では無いのだろうが――

「何万回攻撃すりゃいいんだよ」

 しかも、俺が飛び込んで攻撃を捌いた事でウルフの警戒度合いが上がったように感じる。間合いの取り方がより慎重になった。

 にらめっこをしていると、サイレンサーの小気味いい音が聞こえた。その音を拾った瞬間、ウルフの眉間に銃弾が吸い込まれるのが

見える。

――貰った。

 そう思ったが、敵の装甲はそれ以上だった。着弾するとウルフの頭が弾かれた様に上を向く。一瞬の硬直後に雄叫びを上げてこちらに全力の殺意が伝わってくる。

「ミュート! 逃げろ!」

 ライトの声と俺の思考は一致していたが、体が反応出来なかった。本能的に剣でガードしたけど、衝撃は俺を襲う。

 猛烈な痛みと地面を転がる感覚とで、呼吸することすら出来ない。平衡感覚なくなって、まだ転がっている感じがするが痛みが引いていくのを感じて立ち上がる。

「ミュート! 大丈夫!」

 すぐ隣には泣きそうな顔をしたロンがいた。どうやら約束を守ってくれたみたいだ。

「ああ、大丈夫。ありがとう」

 ウルフの方をみると、ダリルが必死に食い止めてくれているが時間の問題だ。

「ロン。頼みがある」

「何」

「――――伝えてくれ」

 状況が分かっているのかロンの行動は素早かった。俺もすぐにダリルの加勢にいく。

「……大丈夫?」

「ああ、ロンのおかげで何とか」

「……作戦は?」

「ダリルの方に正面を持って行ってから、一瞬でいいからアイツの脚を止める」

「……わかった」

 ダリルは牽制しながら挟み込む様に俺の対角に移動する。ウルフは俺達が視野に入る様にどちらに体を向けずに俺達を警戒している。今のままだとまだライトに狙撃ポイントに入らないのだが、考えがあるようだ。

 ダリルが明らかに不要に飛び込むと、ウルフが迎撃の為にそちらを向き俺にケツを向ける形になる。その瞬間を見逃さず、後ろ脚の関節部に斬りかかる。胴を斬った時よりも明らかに手応えがあったが、ウルフの動きが鈍る気配ない。

「……ミュート下がって」

 絶妙な間合いで槍をつきだしているダリルからギリギリ聞こえる声が届く。それと同時に、ウルフの足元に黒くて丸い物体が転がってくる。

「!?」

 それを確認した一瞬、転がる様に後ろに逃げる――が間に合わずに爆風に吹き飛ばされる。地面とキスをしているとダリルに腕を引っ張られて起こされる。

「お前! 無茶しやがって!」

「……でも、足は止めた」

 その言葉の意味に気付いた時には、ウルフは左目を抑えてのたうち回っていた。

 その姿が見えると同時に、俺は吸い込まれる様に走りもう一つの目を突き刺した。

 

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