15

「まるで迷路だな」

 大木が多く道は広め――とは言っても獣道だが、枝葉で光はほとんど遮られていて薄暗く分かり辛い。

「おい、誰か道覚えてるんだろうな」

「……大丈夫。僕が覚えてる」

「ああ、俺も記憶しとくから問題ない」

「私も微力ながら」

 まあ、3人記憶力のある奴がいれば道に迷う事は無さそうだ。

「そ、それにしても、不気味な所だね。魔物もいるんだよね」

「いるっても、眼鏡の口ぶりだと獣の方が多そうだしな。気を付けてりゃ大丈夫――」

 ライトがへらへらと言っている途中で手を広げる。刹那、銃を構えたと思った瞬間に風を切る様な細い音が耳を刺激した。

「急にどうしたんですの」

 その答えはすぐにわかった。ライトが銃を構えた方から枝葉を揺さぶる音が聞こえてくる。

「え? ホントに?」

 ロンはその音の正体に気づき目を丸くしている。俺も正直驚きを隠せない。

「……よく見えたね」

 ダリルだけは関心した様につぶやいている。

「これくらいはな。急げ、回収に行くぞ」

 そこからの動きは実に早い。目標に辿り着くと体長1mくらいの鳥が横たわっていた。

「バルーンバードだ。やったね」

 上機嫌に袋に入れようとしているロンだったけど、ライトが制止する。

「おい馬鹿。それは回収しなくてもいいんだよ。ミュート、ちょっとそっち持ってくれ」

 ライトがそう言って頭を掴んでいるので、足を持つ。

「そこのちょっと広めの空間に運ぶぞ」

 その指示に通りにして、そこに死体を寝かす。

「あとは腹と首を切って血を撒き散らしてくれ」

「ああ、そういう事」

 その意図を察して言われた通りにする。

「それじゃあ、その辺の木にでも登って待ってるか」

 これまたライトが選んだ大きめの木に登り待機する。こちらからは見やすく、あちらからは見にくい絶好の場所だった。

「よし、じきに来るだろ」

 その予想は的中する。血の匂いに誘われて、2匹のハイエナがやってくる。

「ミュートとダリルは素早く降りてから挟み込んで遠い方をやってくれ、手前は俺にまかせろ」

 ハイエナは初めに周りを確認して注意深く耳すませていたが敵がいない事を確認して獲物に喰らいつこうとする。

「今だ」

 木を飛び降りると同時にハイエナの逃げ道を塞ぐが相手もすぐに方向をかえるが、それよりも前にダリルの槍がその喉を貫く。

「ミュート! そっちに行ったぞ!」

 もう一匹のハイエナが逃げようするが、ライトに脚を打たれたのか動き鈍い。

「楽勝」

 すぐに追いつき首を落とす。次も同じようにハイエナを放置して虎を3匹仕留めた。

「随分と簡単でしたわね」

「お前は何もして無いけどな。それに本命はこれからだしな」

「そ、そうだよ。魔物を狩らないといけないんだよ」

「そもそも、魔物ってなんですの」

「はあ!? お前魔物をしらねぇーのかよ」

「正直、先程までの獣との違いが全くわかちませんわ」

 確かに、厳密に何が違うのかと言われると難しい。

「魔物ってのはそれっぽい名前がついてる。ただ、さっきの鳥みたいに例外もあって、名前が付いてるけど無害な奴らは獣扱いだ。基本的には人を襲うか襲わないかだ。ハイエナとか虎は俺達を見て逃げただろ。ああいうのは基本的に獣だ。人を襲って来る奴らは名前が付けられる。ある程度見た目で判断出来る。魔物はデカいし見た目から凶悪そうだからな」

 そう、見ればわかる、会えばわかるのだ。剥き出しの殺意は対峙すれば嫌でも感じる。

「それで、どうやって探すんですの」

「……これだけ広いんだ。もう少し奥にいくといると思う」

「だな、進もうぜ」

 ライトの声で俺達は奥に向うが、魔物はなかなか見当たらない。しばらく歩き回った所でロンが急にしゃがみ込む。

「どうした、バテたのか。休憩するか」

 ライトが聞いているのに返事が無い。

「おい。ホントに大丈夫か」

「近くにいる。多分ウッドウルフだよ、この足跡は」

 ロンが見つめている地面には確かに、ネコ科の足跡がある。

「間違いないのか」

「うん。多分ここで踏み切って木に登ったんだと思う」

 そう言って隣の木を見上げる。

「ほら、そこに爪をかけた跡もあるし間違いないよ。ここから傷のある所を追って行けば多分」

「いいじゃねーか。よし、腕がなる」

「それじゃあ、慎重に行くよ」

 隊列はそのままで、爪痕を追いかける。木の密集率が高くなって来て暗さが増して来たと思い初めたと同時にロンがささやく。

「ダリル止まって」

 それを言ったきり、口に指をやり黙る様に指示を出してくる。各々が適当ハンドサインを出し頷き合うと、ロンが行くべき方向を指す。

 音をたてないように進むと、周りとは一線を超す更に大きな大木の根本に一匹の狼がいた。

 その姿を見た瞬間を、ミステルが俺の肩を叩いてくる。

「あれはどう考えても無理ですわ」

 耳元なのに聞こえるか聞こえないかの声で囁いくるが俺は正直大丈夫かだと思った。ライトに聞いて見ろと指で指示すると、頷いてそちらに向い、同じように耳打ちをしている。ライトは邪悪な感じで口元を歪めると首を降った。

 それを見た瞬間、ライトも俺と同じなんだと確信した。今日は調子がいいのだ。いつもより振り下ろす剣がスムーズだし、体が軽い。それが自分の体の一部のようなのだ。

 ミステルはダリルにも撤退を進言した様だけど、そこも断られていた。

 そして驚く事にロンまでもやる気になっていて、目標に襲いかかるカウントダウンをするように両手を広げて指を折っていく。全員でアイコンタクトをして頷きあい、ロンが拳を握りしめた瞬間に目標に飛びかかった。

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