10

「盤面見ただけでそれが分かるって事は……ロン、こいつとやるのもやめとけ。また負けるぞ」

「そんなにやってみないと分からないじゃ無いか」

 ライトのどうせ負ける宣言だったが、勝手にハードルを上げるな。

「いや、俺はそんなに強く無いから、1ゲームやろう」

「よし来た。ミュートには負けないよ」

 ロンが意気込んでゲームを始めたが、10分後に決着はついた。

「なんだよ……ライトより強いんじゃないか」

 自称地元じゃ負け知らずのロンは机に突っ伏して完全にヘコんでしまった。

「だから言っただろ」

 それをみてライトも意地悪く笑っている。それを聞いて顔を上げ、俺に迫って来る。思ったより負けず嫌いなようだ。

「ミュートもう1戦しよう!」

「もういい。寝よ」

「そうだ、俺とも4戦もしたんだ。明日ダリルでも捕まえてボコれよ」

「そうだね。もう遅いし今日は寝ようか」

 勝ちに飢えていただけなのか、ライトの提案にあっさりと乗るロン。

 消灯してベッドに潜ると途端に睡魔が襲って来た。長い一日がようやく終わりを告げた。


 朝、ドアが開くが音で目が覚めた。

「……ごめん、起こした」

 それ以外の音は無かったけどライトも起きたようだ。

「おう。まさか朝帰りとはな、何やってたんだよ」

 ライトの質問に意味は無かっただろう。雑談程度で聞いたんだろうが、ダリルは言いにくそうに口籠ったから俺フォローする。

「別にいいだろ、そんな事。それよりも今更だけど朝飯ってどうなってるか聞くの忘れてた」

 思えば昨日も何も食べていない気がする。一晩寝て緊張が解けてようやく生存本能が機能し始めたようだ。腹がなって仕方ない。

「……多分、これだと思う」

 ダリルが扉を少し開けて、廊下を指す。そこには手押し台車に乗ったパンとスープが4人分あった。

「お、いいね。飯見たら腹が減ってきた」

 ライトも飛びつくので、3人で中に運びこんでいると、ロンが起きてくる。

「何……もう朝?」

「おう、早くしないと飯食っちまうぞ」

 飯と言う単語に胃が反応したのか、腹で返事をしてすぐに席につく。

 ライトがパンを噛じったのを合図に一斉に食い始める。

 パンは思ったより柔らかく、スープの味も濃かった。それなりに量のあった朝食はあっと言う間に俺たちの胃袋に収まった。

「食った食った。それじゃあ着替えるか。ロン以外は皮鎧だったな」

 ライトは適当な皮鎧を手に取り、慣れた感じで着込んで行く。それに倣って俺も着替える。

 意外だったのは、ダリルも着替えるのが速くて着替え終えるのは俺が一番遅かった。

「で、朝迎えに来るってもいつ来るんだよ」

「ライトはせっかちすぎるよ――あっ、そうだ! ジャスでも打ちながら待とうよ」

「お前ホントに好きだな。俺は嫌だぞ」

「俺も遠慮する」

 ライトはただの面倒なだけだろうが、俺は勝ち確定の知能ゲームはあまり好きじゃない。

「ダリルはルール知ってる?」

「……ルールは分かる」

「よし! それじゃあ勝負だ」

 その数分後、結果は言うまで無い。


 落ち込んでいるロンを放って、俺はダリルと対戦したが1勝1敗の後、3戦目をしている時にノック音が聞こえドアが開く。

「皆さんおはようございます――おや、ジャスですか。いいですね、この砦には強い人が多いですから、是非手合わせしてみて下さい。準備は出来てるようですね。それでは付いて来て下さい」

 俺たちが向かったのは会議塔だった。てっぺんである6階一番奥の小さな部屋に入る様に促される。

「男子の皆さん、おはようございます。今日も冴えない表情ですわね」

 中に入るなり椅子に座っているミステルの罵声が聞こえてくる。

「よう。お前こそ今日も随分と麗しいじゃねーか」

「あらあら、お褒めの言葉なんて今日は雨かしら」

 昨日同様馬が合っているようで何よりだ。

「いいから、早く席に着きな」

 二人のやり取りを制止したのは、昨日ミカドと呼ばれていた女性だ。

 なんだか怖いので、言われるがままに席に座る。それを確認すると、アタルさんが正面にある黒板の前に立つ。

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