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実は自分でもタオルを持って来ていたので、ダリルには悪いが一人で大浴場に向かう。
「少年は始めて見る顔かな」
脱衣所で服を脱いでいると、筋肉ムキムキの人に絡まれた。
「はい。今日からお世話になっています」
「そうか、君が噂の少年か。今回は皆優秀だと聞く。君のスキルを聞いてもいいかな」
「剣術ランク2です」
「おお! それじゃあ僕と一緒だね。僕は剣術4だから、同じ部隊になるかもね」
そして、ハンク・バンクスと名乗った彼と一緒に風呂に入る。
「分からない事があれば何でも聞いてくれたまえよ」
そう言ってくれたので、素直に疑問を投げかける。
「敵っていうのはどんな奴らなんですか」
ハンクは思っていた質問とは違ったのか一瞬フリーズした――かと思うと口の端を吊り上げる。
「なるほど、アタル君が褒める訳だね。教えてあげたいんだけど、それは明日聞くことになると思うから僕の口からは教えてあげれないんだ。残念だけど」
「ああ、その答えで十分です。明日分かるっていうことが分かっただけでもありがたいです」
「そうか、そう言ってくれると助かるよ。何でも聞いてくれと言った手前で申し訳ないんだけど、聞きたい事がある。君は剣術をどこかで習っていたのかい」
「ああ、本格的なのは習ってなかったですが、知り合いの人――いわゆる近所のお兄さん的な人に半年くらい」
「それはすごいな。少しかじったくらいでランク2なのであれば、君は凄いセンスがあるって事だ。もしくは、その人の教え方がうまかったかだ」
「そんなにですか」
「そうだね。通常ならランクを1から2に上げるにはちゃんとした師に教えて貰って1年くらいかかる」
「確かにモルタ兄さんの教え方は上手かったと思います」
納得して頷いていると、ハンクさんが凄い勢いで俺の肩を掴んだ。今日はよく肩を掴まれる日だ。
「モルタだって! 君はあいつはと同郷なのかい!」
「ええ、モルタ兄さんは子供の頃からよく遊んで貰いました」
「そうか! 実は僕とあいつは同じ道場だったんだ。丁度同じ時期に入ってね。良き友でありライバルだったんだ」
そこからハンクさんは思い出話をいくつもしてくれた。
先にランク2になったのはモルタ兄さんだったとか、腹が減って二人で厨房に乗込んだら見事にバレたとか、師範の孫娘に告白する権利をかけた決闘に勝ったけど二人とも振られた話とか、色々と聞かせてくれた。
「それで、モルタは今どうしてるんだい」
ハンクは友達の近況を聞くような軽い気持ちで聞いてきたのかも知れないが、俺はことばが詰まってしまった。誤魔化そうかと思ったけど、どうやら顔に出てしまっていたようだ。
「そうか……何かあったんだね」
「はい」
言うか迷ったが、隠す必要も無いだろうと思う。
「モルタ兄さんは村を襲ってきた魔物と戦って相討ちに……」
俺の目の前で死んだ事までは言わなくてもいいだろう。
「そうだったのか。故郷を守ってか……彼らしい最後かもしれないね」
「はい」
「そうか。だから君は敵が誰か知りたいんだね」
敵討ちとまでは行かないけれど、処理しきれない複雑な感情がある事は否定出来ない。
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