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実際寝る場所なんてどうでも良かったので、後は任せて部屋を出る。
おそらく上の階は同じ様な部屋があるだけだろうと思い来た道を戻る事にする。階段を降りようとした所で後ろから足音が聞こえたので振り返る。
「……俺も行く」
驚いた事にそこにいたのはダリルだった。
「ああ、一緒に周ろう。最後に風呂行くけど大丈夫か」
俺は初めからそれが一番の目的だったので確認すると、ダリルはいつの間にか持っていたタオル2枚を見せてくる。思わず顔がニヤける。
「ダリルとは話が合いそうだよ」
二人で頷きあってから階段を降りていくと男塔の広間には、まだ数人の人達がいた。テーブルでカードをしている人や、エールを飲みながら話している人もいる。
軽く様子を確認してから出ていこうとすると声をかけられた。
「お、新人。今から探索か」
そう言いながら近付いて来たのは、金髪でタレ目がちの甘いマスクの人だった。何故か横には女の人がいる。
「はい。少し場所に慣れておこうかと思いまして」
その答えに満足したのか目を細めながら頷いている。
「そうか、なら俺たちが色々案内してやろう。女子塔もお前らだけで行くと痛い目に合うかもしれないしな」
「アタルさんも言ってましたけど女子塔ってそんなに危険なんですか」
「まあ、危険っちゃ危険だ。でも大丈夫、コルンがいればな」
どういう意味かは分からないけど、案内してもらうに越したことはなさそうだ。
「それでは、お言葉に甘えます。よろしくお願いします。先輩」
「おいおい 、先輩は止めてくれよ。俺はクリスだ」
「はい、クリス先輩」
困った様に頭をかいているが、まあいいかと言って俺たちの前に出る。
「よし、それじゃあ行くか」
こうして、便利な案内係を手に入れたのだ。
「来るときに通ったと思うが、この中央塔の大広間が一番広いんだ。何かあった時は基本ここに集まる」
「会議塔は基本的につかう事は少ないな。腹黒メガネとか隊長、各トップとかは週に一度くらい集まってるけどな」
「訓練塔はまあ、筋肉馬鹿達でいつも賑わってるよ。模擬戦とか決闘もたまにあるかな」
「各塔には5階まであって、全塔の屋上は見張り台になっている。もしかしたらお前等も立つ事があるかもな」
クリス先輩は丁寧に一つひとつ案内してくれる。
「それで、ここが問題の女子塔だが――基本的に来る時は女性と一緒に来た方がいい。じゃないと捕まっちまう。例外はメガネと隊長くらいか」
「……捕まるっていうのは、どういう」
「飢えた獣にだな――って言ってるそばから来たぞ」
クリス先輩があからさまに嫌な顔をすると、向こうから歩いて来たのは二人組の派手な女性だ。別に何がという訳でも無いんだが派手だ。
「相変わらず仲のいい事ですね、お二人さん」
「ええ、ホントに。今日も4階でしっぽりとするのかしら」
「ルルカ、ミルナ。下品ですよ」
「そうだぞ。新人もいるんだ、少しはわきまえろ」
結果的に言うと、クリス先輩のその言葉は失態だった。
「やっぱり、その子達は新入君なのね」
「いいわね若くて」
ギラつく瞳で見られて思わず一歩後退る。そのおかげか、俺は助かった――が気付けばダリルの両手腕に女達が巻き付いている。
「あら、君は逃げないのね」
「ホント、でも赤くなっちゃってカワイイ」
その光景に恐怖を感じていると、クリス先輩は天を仰ぎ、俺の肩に手を置く。
「新人……あいつは諦めろ。ああなったら終わりだ」
「諦めろって――一体」
俺がそう言っている間にも、ダリルは二人に引きずられて行く。
あっと言う間に階段を上って行き姿が消える。
「クリス先輩……」
「すまない。俺達の力不足だった」
呆然とする俺だがクリス先輩はすぐに立ち直る。
「お前は気をつけてすぐに帰れよ。ああいう事するヤツは他にも結構いるから」
「マジですか……」
「それじゃあな、俺はコルナと話があるから」
そう言って二人仲良くダリルが連れて行かれた階段を上って行く。その光景をみて何となく察しが付いた。
「ダリル――お前は生贄だったんだな」
そして俺はすぐにその場から逃げたのだった。
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