おかえり
コン、コン、…
誰かが、私の部屋の窓をノックする音で目覚めたあの日。私が、久しぶりに部屋のカーテンを開けて、ベランダに出たあの日。
私は、向かいに住む幼馴染によって攫われた。
否、攫われたは語弊があるかもしれない。
正確には、ベランダに出た警戒心の薄れていた私は、軽々と陰に隠れていた幼馴染に持ち上げられ、隣の彼の部屋に連れ込まれてしまった。そして、動揺する私に、彼は落とし込むように
「お兄さんが生きてるって言ったら、君は喜ぶかい?」
と言った。
そして現在、私の目の前には大好きなお兄ちゃんがいる。
顔色は蒼白で、喉には延命治療の装置で、同時に栄養摂取の為の首輪があって声は出ないが、私を見た時の笑顔や優しい仕草は、紛れとなく大好きなお兄ちゃんだ。
お兄ちゃんは普段、ユキの家の空き部屋で生活している。
生き返ったとは言え、定期的なメンテナンスがいるし、誰かに見られたら大変だからだそうだが、私はお兄ちゃんとずっといたいし、独りぼっちじゃ可哀想だと言って、ちょいちょいユキの家に行くようになった。そして、私のいつもの日常が戻って来た。
悠芽がいつもの悠芽に戻った。それは僕の何よりの幸せだ。そしてお兄さんも、生きていた時と何も変わっていなくて、僕は安心した。
だが、その喜びの反面、僕は父によく言われている言葉を思い出して、思ってしまう。
本当に、これで良いのだろうか…?
もし装置の誤作動で、お兄さんが暴走するような事があれば……いや、今はそんな最悪の事より、今の幸せのことを考えよう。
悠芽が笑っていれば、それでいい
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