僕の罪
「…っ、お兄ちゃん…お兄ちゃん…どうして、私を独りぼっちにするの?約束したのに…お兄ちゃんがいない世界なんて、生きている価値がないよ」
あれから一ヶ月が経ち、お母さんやお父さん、親戚中が気持ちの整理をつけ、またいつもの何気ない生活に戻っていったのに、私はまだ、心の整理が出来ず、相変わらずお兄ちゃんの写真を大切に抱いて、物が散乱した、暗い部屋に引き篭もっていた。
コンコン…
「悠芽、お母さんよ…ユキ君がね。来てくれたの。ねぇ…だから、部屋から出て話さない?」
バン…っ
「いやだ…っ、帰って!」
悠芽はお兄さんが死んでから、学校にも行かず、ずっと部屋に引き籠るようになった。僕の部屋は、悠芽の部屋の向かい側にあるのだが、最近は、ずっとカーテンが閉まっていて、まるで誰もいないかの様に、静かで暗い。
「由紀弥君、せっかく来てくれたのに、ごめんなさいね。そうだ!昨日の肉じゃがの余りがあるんだけど、持って行く?」
「いえ、ご迷惑でしょ?」
「そんな事言わないで、悠芽はあの通りだし、まだ蓮がいたときの感覚が抜けなくって、つい作り過ぎてしまったから…」
悠芽のお母さんの春子おばさんは、お兄さんの事を思い出したのか、涙を目に浮かべた。その姿を見て、また僕の心はギュッと、苦しくなる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
―数年前
僕の両親は有名な科学者で、二人共、あまり家にいる事がなかった。だから僕はよく、隣に住む悠芽達の家にお世話になった。
僕のお母さんと春子おばさんは、高校からの親友で、父同士も大変仲が良かった。そして僕達子ども達も同様に。
悠芽は、いつも太陽みたいに明るく、読書が好きで根暗な僕をよく、外に無理やり引っ張って行ってくれた。そして、僕達より二つ年上の蓮さんは、そんな僕達を、いつもお月様の様に優しく見守ってくれていた。
あれは僕がまだ15歳だった頃。悠芽と過ごす日々が、ただの幼馴染と言う感情から、片思いへと変わり、日々の付き合いが昔のように当たり前に出来なくなった頃。
病院に入院し始めたお兄さんに面会に行った時、お兄さんに一瞬で見抜かれて、クスッと笑われてしまった。だが、僕はそんな笑顔の中に、一瞬愁いを見てしまった。今思い返せば、お兄さんはあの時から気づいていたのかもしれない。
僕は今、延命治療の為の装置の研究をしている。そしてそれが、まだ試作品の段階ではあるが、遂に完成した。
多分、お兄さんは僕がそんな研究をしていたとは知らなかったと思うし、知っていたら、きっとまた悲しい顔をしただろう。でも、悠芽の様子を見ていたら思ってしまう。これで悠芽が喜ぶなら、また、僕の太陽が戻ってきてくれるなら、僕は罪を犯そう。きっと、それが正しい事だと信じて。
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