第5話 メイドインアビス

■王立海軍研究所 主任研究員サーサ=クレールの記録(記録者は行方不明のため、アーカイブより復元)


6月3日


先日内々に処理された事件の原因となる寄生生物の検体が届いた。

先の事件では人間に寄生し、港湾地区の人間、家畜、建築物を次々と取り込み暴走、

事態を重くみた軍が出動、多大な犠牲を払ったのち鎮圧、捕獲されたものだ。

極低温特殊容器に保管された検体の研究を、本日より開始する。

本検体の呼称を便宜上「検体8号」と呼称する


6月7日


情報部より検体8号事件の経緯のレポートが送られてくる。

深海探査船に取り付き海上の船舶に侵入、そのまま寄港した際に船員に取り付き、

暴食ともいうべき捕食をしたとのこと

レポート詳細については第■■-■■■号(検閲により削除)を参照


6月8日

検体8号本体と寄生された人間体の分離手術を行う。

引きはがされた本体は非常に小さな蛸の姿をしており、先の事件での姿と違った印象を受ける

体細胞サンプルを採取、別班に研究を依頼する。


6月9日

別班より報告。体細胞自体は蛸と同様。しかし大気中の300倍の魔力が検出される。

探査船により海底から採取された魔鉱石から同濃度の魔力が検出されたため、海底の鉱石の魔力により蛸が変化したものと思われる。


6月10日

検体8号の上陸前の姿を確認すべく、大型水槽にて深海環境を再現する。

非常に小型であった本体がクジラと同じサイズに膨張。

同時に研究員を捕食し始めたため、水槽を排水、極低温環境に戻す。


6月17日

この一週間、検体8号を様々な生物に寄生させる実験を行う。

巨大すぎる生物には捕食され、小さすぎる生物では陸上での行動に支障をきたし、

人間に寄生した際に最も活動を活発化させることが判明

しかしながら、どの生物を宿主にしても、蛸以上の知能を持つ事は出来ない模様


研究所本部へ要請。欠員多数のため、研究スケジュールに遅れが発生。早急な研究員の補充が必要。



※以下 サーサ=クレールの個人ダイアリーより復元

6月24日


共和国軍部より要人が視察にやってくる。常に髑髏の仮面を被った、何度か資料で見たことのある男。

名は―Sasugoといったか。

一介の研究者である私にはお偉いさんの名前など興味はない。

彼により、検体8号を「アビスミレント=サーパレ」と名付けられる。

伝承に登場するクラ―ケンの眷属からとった名で、「深海を這いずるもの」という意味だという

全く大仰でばかばかしい。一介の研究者である私にとってあれは8番目の検体でしかない


6月23日

共和国軍部と我が海軍上層部の会談は続く。

アビスミレント=サーパレ…検体8号を軍事兵器として引き渡すらしい。

あれの研究はまだ終わっていないではないか。上層部の考えは理解しかねる。


6月24日

研究室に共和国軍部の人間が出入りするようになる。

共和国への引き渡しは本当らしいが、それには反対だ。


6月29日

研究室スタッフは共和国軍部に入れ替わり、研究データも引き渡しを要求されているが、拒否を続けている。

別チームの人間は逮捕、拘束されてしまったようだ。

私が逮捕拘束される日も近いのかもしれない。



ーーーーー以後の記録なし。(注:サーサ=クレールは共和国軍に6月30日に逮捕、以後行方不明)


■共和国軍情報部資料より抜粋


To:(※機密保持のため削除)

Sasugo閣下より命ぜられたアビスミレント=サーパレの調整が完了。

元主任研究員の検体を宿主とし、実戦投入が可能。

予定通り神殺し作戦―通称「ラグナロク」作戦に投入可能です。

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