第4話 この世界の片隅に

俺は狼男。名前はまだない。

―いや、つけられる前にご主人が死んじまった。

俺のご主人様は吸血鬼だった。

身寄りのない俺を拾って育ててくれて、よく狩りに連れてってくれた。

俺のすばしっこさを生かして獲物を獲るたび、ご主人は褒めてくれた。

そんな時、アイツがやってきた。

ヴァンパイアハンター、って奴だ。

名前はそう、忘れたくても忘れねぇ、「ベルモント」って奴だ。

これまでもご主人を倒しにやってくるやつはたくさんいた。

だけど俺が片っ端からのしてやった。

だが、奴は他の奴らとは全然違った。段違いに強かった。

ボロボロのぼろ雑巾みたいにやられちまった俺の目の前で、奴はご主人を焼き殺しやがった。


『それで泣き寝入りしたってのか?この腰抜けワン公!』ってか?

もちろんそうじゃねぇ。復讐のために人間の街を襲った。

だけど人間側も知恵をつけたんだ。俺の苦手な銀の弾丸で武装するようになったんだ。

そんなものを撃ちこまれちゃあ俺ももたねぇ。

ベルモントに復讐をするどころか、腹を満たすために人間を食うことすらできねぇ。

俺は人間の乞食のふりをして、路地裏でごみ漁りをするようになったんだ。

人間の残飯ごときじゃ俺の腹はふくれねぇ。

なにも食ってなくて十日ほどが経った時、新しいご主人様は俺の前に現れたんだ。

骸骨の何だか不気味な野郎。

俺は骨には目がねぇ。久しぶりの食いもんだと思って飛びかかったね。

でもな、捕まらねぇでやんの、これが全然。

腹が減って力が出なかったとはいえ、どんなやつより速い俺のスピードをいとも簡単にかわしやがるんだ。

やっぱりダメだ、もう力がでねぇ。

倒れちまった俺に、骸骨野郎はマントから鶏肉を差し出してくれたんだ。

丸々太った七面鳥。十日ぶりの食いもんだ。俺はがっついた。骨まで食っちまったよ。

そんな俺に骸骨は次々と食いもんをくれた。

やがて俺を狩りに連れてってくれた。獲物を獲るたびに食いもんをくれたんだ。

俺は決めたんだ。こいつが俺の新しいご主人様なんだ、って。


ご主人はこことは違う世界に行くなんて言い出した。難しいことはわからねぇけど、ご主人が行くところには俺もついてくぜ。

それからご主人は俺に名前をくれたんだ。

「ジェイムズ」って名前を。

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