第3話 征服王(イスカンダル)は荒野を行く

キン!

―何故だ?―


ガキキン!

――何故、此奴は死なない?―


ぶつかり合う刃と刃、飛び散る火花。

刃を交えるたび、まばゆい火花が我と髑髏の男を照らす。

炎が周囲を取り囲み、無数の死体が山を築く。

奴に何度も深手を負わせたはず。

いかに屈強な戦士とて、これほどまでの深手を負って立ち上がったものはいない。

なのに、奴は立ち上がって我と戦う。

面白い!これほどまでに面白い者は初めてだ!

さあ!我を楽しませろ!もっと!もっとだ!!


誇り高き部族の戦士として数多の物心つかぬころから戦場に立ち、多くの兵を屠った。

強きものと戦うたび、我が心は昂った。

だが、もっと強きものと戦いたい。

もっと我を昂らせるものに出会いたい。


数多の戦をくぐり抜け、狂ったように戦いを求める我を人々はこう呼んだ

―狂戦士(ベルセルク)― と。


立ちはだかる強者は我が刃に屠られるか、我が軍門に下った。

我が軍勢は強大となり、さらなる強者を求め大陸を蹂躙していった。

―つまらぬ、実につまらぬ。

音に聞く強者も、刃を交えてみればまったく歯応えがない。

どうした、そんなものか⁈もっと我を昂らせる戦士はいないのか⁈


そんな時、奴は現れた。

たった一人で我が軍勢を蹴散らし、我がもとへやってきた。

悠々と歩み寄る足取りに、これまでの戦士とは違う気迫を、打ち込む刀に、感じたことのない殺気を感じる。

奴と切り結ぶたび、神経が研ぎ澄まされる。

体中の血が沸騰していく。

―そうだ、この感覚だ。

刃で交わす我らの戦いは激しさを増し、

やがて刃は折れ、我らは拳で語らう。

刃から、拳から、奴もこの戦いを楽しんでいるのが伝わる。

我の蹴りが宙を舞い、奴の拳が我が腹にめり込む。

どれだけ応酬を続けただろう?

右の腕は折れ、足は立つのがやっと。左目は見えず燃えるように熱い。

だが、あと一撃、あと一撃は奴に叩き込める。

人生最高の一撃にしよう。


最後に溜めた力を、奴にぶつける。

同じ速度で、奴も踏み込む。

わずかに早く、奴の拳が我の顔面を捉える。

我の体が宙を舞う。血だまりに我の体が叩きつけられる。

もう体に力が入らない。

だが、満足のいく戦いだった。もう思い残すことはない。

意識を失いかけた我を抱きかかえ、奴は語りかけた。

「此度の戦い、まことに良い戦いであった。

貴殿をまことの勇者と称えたい。そんな貴方に頼みたい。

私とともに、神を殺す戦いに加わってほしい。此度の戦いを超える昂りを与えることを約束しよう」


神。力なき者が信じる形無き「まやかし」か。

だが、また今のような、今を超える昂りを感じさせるのなら―


「承知した。強きものと戦える喜びを、我に与えてくれるなら共にしよう」

我は奴の肩を借りて、時空の裂け目に足を踏み入れた。

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