第六(りく)話 アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

瓦礫の山々でキオクを探していた。

瓦礫は忘れられたキオクの山。


「んー。今回はコンクリばっかで特に面白いものは無いなぁー。このキオク辿ると戦争かなぁ?」


見てもコンクリート、曲がった鉄筋、ブロック、捨て去られたタイヤ…


その中に異様に一丁のライフルがあった。大きく重く長く、それは銃というよりさながら砲であった。

灼けて煤けた重心は鈍い光をたたえ、引き金を引けばまた死をもたらせそうなほどに禍々しく無骨。

周りには空き瓶と見紛うほどに大きな薬莢も落ちている。


「カッケェ~♪これなら高く売れるかなぁ?」


興味を示し手を伸ばした瞬間、白刃が目の前を遮る。

咄嗟に手を引き、己の武器を抜く。

得物の先を見には黒い骸の軍人。暗い眼窩に光る赤い目は、此方を睨んでいた。


「ひょっー…?ふーあーゆー?」

『貴様、何者だ?』

「シ、シリマセーン!でーす!」

『何をしている』

「散策ー。というか商売でありマスデス!」


『…変わった者だな』

「え?あ、はい。Oh,いえす!」

『調子が狂う変な奴だ。これは私の物。貴様の売り物にはさせん』

警戒を解かれたのか、骸の男は刀を仕舞い、ライフルが持ち主へと帰る。


(へー。おま、さっきまで何処に居たんだよ?気配が無さすぎんだろ。)


「なぁなぁ、旦那。【アンドロイドは電気羊の夢を見るか?】」

『…何?』


奴に問う。お前は生きてるのか?機械なのか?


『そんなもの知らん。アンドロイドに聞くが良い』

「…はぁ???なんだその回答www斬新www」


闇商人は生命体とも機械とも言えぬ存在に興味を示した。


「良いネ!イイね!その銃はいいから、旦那のキオクを見せてよ!」

『何が知りたかったのか、分からんが。やれるものなら、やってみるが良い。』


表情が見えない筈の骸骨。それが鼻で嗤った気がした。

それをきっかけに、稀な戦闘意欲が湧いた。

無益な争いを好まない闇商人にしては極めて珍しいことである。



ただただ、この骸の男が気に入ったのだった。


『手緩いぞ。貴様の、全ての、隙が、見える。』

「えー? だって、キミ本気じゃ、ないだろ?」

『貴様も、遊んでばかりではないか』

「ワカリマスー?っと、なんで、ガイコツなんデスかー?」

『貴様は、神を信じるか?』


男の刀が静かに鞘に収まる。時間も空間も世界が止まった気がする瞬間

パタッと、手も体も止まる


「…は?」


「信じるか信じないか…?」


戦うことも忘れ、武器を下ろし、思考を巡らし、言葉を探しながら紡ぎ出す。

さまざまな信仰を見てきた。虐げられた密教、血生臭い儀式の祭壇、地獄や天国を想像し信仰するいきもの

キオクの一部を探すために。


「え、んー。俺は…ヒトが思い描く神を好んでいるが、それは多種多様であり、敵を殺せと言う神も居れば、全てを愛せと言う神も居る。」


『それは、なんとも矛盾だな』


「だが、それはキオクの数だけ、人の数だけ違ってくる。畏れ崇め、救いを求めるヒトの神は面白いとオモウ。」


『それを信じると言うのか貴様は』


「いや、信じているのは己の中にある、俺のためだけの思い描く神。それダケ。」


他人の神は、興味があるだけ。面白いと思うが、実在するとは言えない。それは他人の神だから。


『私は神を見た。そして、超越し、殺す約束をつけてきた』


「はぁぁああぁああああ?!?!え?マジでー??」


驚く以外の何があるだろうか。

思考も吹っ飛び、笑いが込み上げてくる。

気に入った。俺はこの男を気に入った。


神に会ったばかりか、それを超越し、殺すとまで言った。

この骸の男、ただならぬ存在だ。


「あはははは。俺、ナマエ無いんだけど、俺のこと、紫之塚って呼んでいーよ。俺の思い描く俺だけの神様の名前なんだ。」


『…貴様は神の名前を名乗るのか?』


「マァ、俺を護ってくれる俺だけの神だけどね。アンタにはカンケーないっしょ?トクベツだぜー?


それとも世間の皆様が語る【電気羊の夢屋の闇商人】とでもお呼びくださいナ」


骸の男は納得の行った表情と読み取れた。


『私はSasugo。…面白い奴だ。また会おう。』


そう言い残し、去っていく。

瓦礫の山を下り、影が見えなくなるまで見続けていた。


だが―

だが――ウズウズする。あの男が言う神とはどんな存在なのか?

そして、アイツの記憶に何があるのだろう?

知りたい、見てみたい。そんな気持ちがはじけるとともに、俺は駆け出していた。


「旦那―!待ってくださいよー!旦那ぁーーー!!!!」


地平の彼方へ消えようとしている男のもとへ、俺は駆け出した。

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