3. ぜんや、ぜんや

「今日で最後よ」

 水面台に落ちる雫が、オレンジの蛍光灯を反射する。

 その後には、ぽちゃんと空虚な音が薄暗い部屋に静かに響く。

「明日はきっと来ないわ」

 簡単に君は言う。それが本当なら僕は居ても立ってもいられないが、テレビのニュース番組は案外どうでもいい事件ばかりを取り上げていて、平凡は簡単には壊れないと思った。


 きっと僕は明日も詰まらなく生きて詰まらなく死んでいくんだ。

 それでも何だか満足できてしまう僕だからこそ急激な変化が怖い。

 それがたとえ万物の死であっても。

「明日はきっと来るさ」

 確信はなかった。それでもなんとなくそんな気がしている。

「嘘よ、きっともう少しでナラヨサンナミが来るわ」

 天気予報が流れる。明日は傘が必要になるだろう。

「そんなことはないよ、来てもせいぜい雨が降るくらいさ」

 傘は二本もなかった。一本でもいいかな。

「本当だもん、ナラヨサンナミが来るもん」

 もう、そろそろ今日が終わりそうだった。

「こんな時間だ、もう寝なさい」

「わかった」

「そしたら明日も太陽におはようをしよう」

 寝かしつけた後で溜めていた洗い物をした。

 すべてを洗い終えるまでには意外と時間が掛かってしまった様で、時計の針は午前二時を指していた。

 僕も急いで眠りにつこうと服を着替えた。

 布団の中に片足を入れたのと同時に玄関の方で呼び鈴の音が騒々しく響いた。

 こんな時間に誰かが来るのは非日常だった。

 それでも出ないわけにはいかない。何故だかそう思い、そのままの格好で扉の前まで行き覗き穴を覗いた。


「あっ、ナラヨサンナミだっ」

 

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