第4話 調査

 RX28年4月9日 15時 イレクト支援地 大阪府天保山エリア農園ブロック


 常吉大橋、此花大橋、旧阪神高速16号大阪湾線になだれ込むように現れたゴーレムの群れは大阪府に甚大な被害をもたらした。


 イレクト大阪支部の隊員達が活躍した事によりゴーレムの群れは殲滅されたが、防衛の遅れた天保山エリアにある農園ブロックの住人達の被害は大きく、避難に間に合わなかった176名の命は一瞬にして失われた。


 ゴーレム群の移動はここ数年起きていなかった為、原因として考えられるのは大阪城を根城にするG4型ダイダラが目覚めた可能性が最も高いとされており、早急に被害調査と原因究明が必要となった。


 緊急出撃の後、俺は被害調査の為、御出隊長と共に現地に駆り出される事になった。

 あのガキは病院のベッドで寝んねしてやがるのにこっちは残業か。

 それにしてもあのガキのEDELの化け物じみた殲滅力は何なんだ?

 上は一体何を考えてやがる。

 くそが……。


「どうした引臣?」


 前を歩いていた御出隊長が俺の不満丸出しの顔に気づき話しかけてきた。


「いえ、何もありません」


「そうか」


 御出隊長が前を向きなおし、農園ブロックの状況を視察していく。

 建物には被害は少なく問題なく使用できる状況にあるが、道路にはEDELで破壊された血まみれのG1型ゴーレムが道を赤く染め複数の残骸が被害の大きさを物語っている。


 赤い道を進むと住人達はどこもかしこも暗い顔をしてやがる。

 ゴーレムの脅威が薄れつつあった馬鹿どもには丁度いいが……。

 誰かが泣き叫び、うなだれているのを見るのはいい気持ちがしない。


 元女性であったG1型ゴーレムの前で倒れ込んでいた男が急に立ちあがると御出隊長の胸ぐらを掴みかかった。


「イレクトは俺達を守るんじゃないのか!」


 御出隊長は何も答えず、ずっと男を見ている。


「何とか言えよ! この役立たずどもが!」


 男の声はその辺りで暗い顔をしてへたり込んでいた奴らに黒い活力を与えた。

 喪った者達は枯れた瞳で御出隊長と俺を睨み、ぼそぼそと何かをつぶやきながら群がる様に囲い始めた。


 くだらない。

 こいつらはいつも責任転嫁だ。

 何もしないくせに文句だけは一丁前に言いやがる。

 被害妄想の塊で自分たちが正義だと信じて疑わない馬鹿どもが……。


「戦わない奴らが偉そうにほざくな」


 俺の声に御出隊長を掴んでいた男が反応する。


「何だと?」


「弱者が守られるのが当たり前だと思ってるのか?」


 男は顔を真っ赤にして震え始めた。


「妻は死んだんだぞ?」


「だからどうした? 自分の大切なものは自分で守れ」


 男は慣れない拳を振り上げ俺に殴りかかってきた。


「ふざけるな!」


 素人丸出しの大振りの拳をかわし、俺は男の顔面に向けて拳を打ちぬく。


 しかし、御出隊長は俺の拳を片手で止めると重い口を開いた。


「引臣、やめろ」


「はっ!」


 俺は拳を収め、気をつけの姿勢を取った。

 御出隊長はよろめいていた男をもう片方の手で支えると落ち着いた声で話し始めた。


「我々にはできる事とできない事があります。次はあなた達の手で誰かの大切な人を守ってあげてください。その覚悟があるのならイレクトはいつでもあなた達を歓迎します」


 御出隊長は話し終えると前に歩き始める。

 囲っていた者達は道を開けると俺も後に続いた。

 しばらく歩き続け、誰も居なくなったところで御出隊長は歩みを止める。


「すまなかったな」


「いえ」


 御出隊長は強い瞳で海の向こうを見始めた。


「この国の再生が他国と比べ遅れているのは他人任せだからだ。見たいものだけを見て臭いものには蓋をして先送りにする。誰かがいつか変えてくれると未だに信じて疑わない。変えなくてはならない」


 俺もずっと思っていた事だ。

 九州解放戦線の英雄が同じことを言ってくれていると思うと俺は嬉しくなった。

 俺は一歩前に出ると敬礼する。


「どこまでもお供します」


「ありがとう。……お前に頼みがある」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る