第2話あの日の思い出(2)
RX22年4月9日20時 イレクト東京支部研究所 所長室
雪雲所長、東雲、叢雲、白雲、アザミが新たに置かれた丸机を囲っている。
机の上には四等分されたホールケーキが置かれている。
子供たちは机の上のケーキや雪雲所長が持っている四つの包装された箱にちらちらと目移りしている。
雪雲所長が笑いをこらえながら口を開く。
「ケーキの前にみんなにプレゼントがある」
子供達はそれぞれに喜ぶ。
「今年もありがとう!」
叢雲は素直に感謝を口にする。
「やった!」
東雲が絶叫気味に騒ぐ。
「なになに?」
アザミは箱の中身に興味深々である。
「みんな同じもの?」
白雲はツインテールをぴょこぴょこ動かせ雪雲所長に尋ねる。
「お前、去年の誕生日プレゼントの事をまだ恨んでるのかよ?」
東雲が白雲に食って掛かる。
「違うよ! またケンカしたくないだけ!」
「やっぱり根に持ってる」
東雲はにやにやと笑う。
「違うもん!」
白雲は頬を赤らめながら否定している。
「うわ……また始まったよ」
アザミがうんざりする様に声を漏らす。
どんどんヒートアップしていく二人を叢雲は止める。
「やめなよ。パパが困るだろ?」
「うるさい! 叢雲は黙って!」
東雲と白雲の声が揃う。
何か言いたそうな叢雲はそれ以上何も言わなくなった。
そんな叢雲の様子を見てアザミがゲラゲラと笑う。
雪雲所長は叢雲の頭をなでると東雲と白雲の間に入り二人の頭を優しくなでた。
「ケンカするなら東雲と白雲のプレゼントをやめようか?」
東雲と白雲の熱が急激に冷えていく。
「パパ、俺と白雲はケンカなんかしてないよ?」
東雲は慌てて弁解すると白雲便乗する様に頷く。
「う、うん。してないよ」
「そうかい。じゃあ渡そうか。それに白雲安心しなさい。今年はみんな同じものだよ」
「ホント? よかった」
「俺はパパからもらえるものなら何でも嬉しい!」
叢雲はあれほどいがみ合っていた二人を一瞬で笑顔にしてしまう雪雲所長に羨望の眼差しを向ける。
「じゃあ配るよ」
雪雲所長はプレゼントを子供たちに渡す。
「開けていい!」
アザミはプレゼントが配られるのと同時に雪雲所長に尋ねる。
「もちろん」
すると東雲とアザミは包装をびりびりと豪快に破り開き始め、叢雲と白雲は包装が破けない様に丁寧に開き始めた。
四人が白い箱を開けて見ると中には黒い腕時計の様な脈打つ腕輪が入っている。
「げえ……」
アザミは眉間にしわを寄せ、あからさまにがっかりしている。
「気持ち悪い……」
白雲もアザミほどではないが嫌悪感を示している。
どうやら少女達には受けていない。
しかし、叢雲と東雲は表情が明るくなった。
「かっこいい! 何これ?」
東雲と叢雲の声がぴったりと重なる。
「これはEDELといってお守りみたいなものだよ。」
「おまもり?」
東雲が雪雲所長に尋ねる。
「そう。EDELの輝きが自分を守ってくれる」
「でも光ってないよ?」
脈打つEDELを指で突きながら叢雲が尋ねた。
「腕につけてごらん」
雪雲所長に言われるまま、叢雲が左腕にEDELをつけると黒い腕輪は青の腕輪に変わって静かに青の輝きを放つ。
「お前がそっちにつけるなら俺はこっちに着けるぜ!」
東雲が右腕にEDELをつけると黒い腕輪は赤の腕輪に変わって揺らめく赤の輝きを放つ。
「へえ、綺麗な色になるんだ」
難色を示していた白雲も左腕にEDELをつけると黒い腕輪は緑の腕輪に変わって優しく緑の輝きを放つ。
「私は何色かな?」
嫌がっていたアザミも好奇心に負けて右手にEDELをつけると黒い腕輪に変化はなく強い灰色の輝きを放つ。
「え! 何で? 私、青がいい。叢雲変えてよ?」
「ええ? う~ん。いいよ」
EDELを外そうとする叢雲を雪雲所長が止める。
「アザミ、誰かの色じゃなくて自分の色を愛しなさい」
アザミは雪雲所長に駄々をこねた。
「でもこの色好きじゃないの。パパ、私の色を変えてよ」
「パパは色を変えてあげられない」
「でも、だって……私だけ汚い色」
アザミは目に涙を浮かべうずくまる。
どうしていいか分からない叢雲はおろおろとして東雲と白雲を見る。
東雲はアザミにお構いなくプレゼントをもらってはしゃいでいる。
白雲はアザミの事が目に入っておらず自分のEDELの色に魅入っている。
頭を抱える叢雲は何かを思いつくと笑顔になると東雲と白雲の腕引っ張る。
「何だよ?」
「ちょっと何?」
困惑する東雲と白雲。
「いいから協力して」
叢雲は東雲と白雲に耳打ちする。
「やってみようぜ!」
「面白そう!」
東雲と叢雲と白雲はアザミの元に近付くと叢雲がアザミに声をかける。
「アザミの色だって綺麗だよ」
「うるさい!」
アザミは叢雲を怒鳴ると顔を伏せる。
叢雲はアザミの腕を引っ張りEDELがつけられた四人の手を合わせると電灯を消した。
東雲と叢雲と白雲は映った光景を見て感嘆の声を漏らした。
「うわ……」
東雲がアザミに声をかける。
「アザミ見ろよ」
「……」
白雲がアザミに声をかける。
「ほらほら見なよ」
「……」
最後に叢雲が声をかける。
「ほら顔を上げなよ」
顔を伏せていたアザミがほんのちょっと顔を上げて目を開くとそこには灰色に赤や青や緑の光が所々混ざり合い幻想的な美しい光景を作り出す。
「綺麗だろ? 僕たちの色は」
叢雲がアザミに尋ねるとアザミは左腕でごしごしと涙をぬぐい無言でうなずいた。
それからしばらくして叢雲が電灯をつけると雪雲所長は涙をこぼしていた。
「あっ! パパが泣いてる」
子供達が雪雲所長の元に集まり、心配そうに見つめる。
「パパは大丈夫。さあ、ケーキ食べよう」
ハッピーバースデーの歌を雪雲所長と子供達で歌い終える。そこは笑顔に溢れていた。
ケーキには9つのろうそくに小さな炎が灯っており、子供達は切り分けられたそれぞれのケーキにある炎を吹き消し、真ん中にあるろうそくの炎を協力して吹き消すとケーキを美味しそうに食べた。
子供達はケーキを半分も食べないで眠りについた。
叢雲所長は一人ずつの頭をなでる。
「いい夢を……」
所長室の扉がガチャリと開くとそこには根路が待っていた。
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