天使のウインク(3)

グラスらしきものが割れた音が響き渡った店内には、どうということもなく、その後も当たり前のように時は流れている。

しかし、一箇所時間の流れが異なる空間があった。


ここぞとばかり裕之は物影から姿を現す。それに雄二も続く。

「あ、遅れて済みません。待たれましたよね?」

そう、いかついおっさんに問いかける。

「お、おう。遅ぇじゃねえか」

いかついおっさんは明らかに動揺しているのが分かった。

「約束のお金、お持ちしましたが、ここで手渡ししたほうがいいですよね?」

「あ、ああ」

と、おっさんは金の入った封筒を受取ろうと手を伸ばす。裕之は封筒をさっと引いた。

「実は、あなた方より先に到着しまして、行動を観察させて頂きました」

おっさんの左頬がピクつく。

「まず、あなた方は、ここに到着してバーカウンターでドリンクを注文しましたね?何を注文されました?」

「何でそんな事を訊く?関係ねえだろ」

「まぁ、落ち着いて下さい。一般的な質問をしているだけです」

美人さんの口元が一瞬緩んだ。

「カルアミルクだが、それが何だよ」

「確認です。それは事実です。我々見てましたから」

「それとバーテンダーと何やらお話されてましたが、何を話されていたのですか?」

「何でもいいだろうが!早く金を寄こせ!」

「そう焦らないで下さい。我々も納得してからでないとお渡しできません」

「グラスが割れたと同時に隣のレーンの方が矢を投げていましたが、偶然ですか?」

「当たり前だろうが!何が言いたい!」

「お金はお渡しします。その代わり、受け取ったら質問に答えてください」

「変な奴だな。金を寄こせ!」

そう言うと、裕之に差し出した封筒をかっさらった。

「では、質問にお答えください。貴方はバーテンダーと組んでグラスが割れることで動揺させ、故意的に隣のレーンの客に難癖付けてこの様な言い掛かりを付けて金を請求してますね?」

「それがどうした」


不意に、美人さんが「恐喝罪の現行犯で逮捕します」と手錠をいかついおっさんに掛ける。

三人が呆気に取られた。

〈あれ、この人警官さん?〉

おっさんは、じたばたする暇もなくあっさり降参した様子だった。

「ハニー、そりゃないぜ〜警官だったのか〜」

雄二と裕之は見合った後、握り拳を作ってグータッチする。


「ごめんなさいね、泳がせるような事をして」

にこやかに美人警官は二人に話掛けた。

「いいえ、前にお会いした時のウインクが少し気になって」

「わかった?やるわね」

頭をポリポリかく裕之。

「このお金はお返しするわ。ありがとう。大事なお金ね。後で改めて連絡するわ」

そう言うと、100万円の入っている封筒を裕之に手渡した。

いかついおっさんは、美人警官とともにその場を去っていった。

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