放たれた矢の行方

雄二と裕之は「取り敢えず」の生ビールで乾杯した。あまり知られていないであろう、この店にまあまあの客数がある事に気が付いた。

「おい、結構と客が居るな」

「そうだな、まぁそんなに案じるな。普通に振る舞っていれば良い」

そう言う裕之の方がキョロキョロ辺りを見回して、皆の動向をチェックしている。

「最初は無難にダーツだな」

何処から来るのか妙な自信を持って雄二に伝えた。

「お、おう」

喉がカラカラの二人は、早々のビールを飲み干すと、ダーツコーナーと歩を進める。


店員と思われる黒服の女性からダーツの矢をレンタルする。5本セットで¥1000と高めの値段だったが、二人は気にしない素振りをしてさっと野口英世を彼女に差し出す。

ダーツの的は、今どきの電気的な台が3つ並んでいる。しかも結構客が遊んでおり、少し待つ必要があった。二人は背後にある、3人掛けのソファーで待機する事にした。しかもふわふわの感触が半端ない。二人はかなりびっくりして腰掛けたが、何でもない体でいたが、おのぼりさん具合が消えていない。


「おい、真ん中の的が空きそうだぜ」

「一丁やるか!」

裕之は意気込んで真ん中の的に向った。雄二もそれに連れ立った。


真ん中の的のレーンの両端には、既に他の客がダーツに興じていた。右のレーンには女性が二人、左のレーンには男女が矢を投げている。カップルでは無い様だ。しかも男の方は体格も大きくかなりいかつい。それを見た二人は少したじろいたが、多少ビールが効いているせいで、その時はどうとも思わなかった。

早速二人は交互に的に向かってダーツの矢を投げ始めた。

先攻は雄二。スポーツ系はからっきしなので、自信はなかったが、一投目はそれでも的の右上に矢は刺さった。

「おー、それなりに当たるもんだな」

「まぁ、そんな事で喜んでるんじゃトーシローだな」

「お前は誘ってくるくらいなんだから、相当なもんなんだろうなぁ」

顎を擦りながら皮肉たっぷりに雄二が言う。

「俺にぃ、任しとけぇ」

何処かで聞いたフレーズだったが、無視する。

裕之が的に向かって矢を投げる。

言うほどではないが、そこそこ真ん中に矢は刺さった。

「ほぅ、言うほどあるじゃねぇか」

「まぁな」

それ程中心近くに刺さっている訳ではない。


右隣の女性二人は、一投する度にキャッキャ言っている。他方、左の男女は、いかつい男の腕前がかなり良いらしく、真面目に矢を投じている。中心に矢が刺さると機械が何やら言うようだ。その声が場内に響き渡り、何度も聞こえてくる。

「隣のおっさん、かなりの腕前みたいだな」

雄二が肩越しに裕之に囁いた。

「大した事ねぇって」

また訳の分からない、自信たっぷりで裕之は言い放つ。

雄二の二投目。少し要領を得たのか、さっきより真ん中寄りには刺さったものの、中心からはかなり外れている。雄二は満足げに的に刺さった矢を抜いてニヤニヤしながら裕之のもとへ歩いていく。

「お前は何をニヤニヤしてるんだ。そんな程度で嬉しいか」

「ああ、嬉しいね。低レベルでも上手く行けば嬉しいに決まってんだろうが」

「まぁ見ておけ」

そう言って裕之は、的に向かって二投目を投じる態勢に入っている。少し酔いが冷めたのか、目つきがマジになっている。

投じられた矢は、見事に真ん中の丸い部分に命中し、機械が何やら言葉を発した。

「それ見た事か。これが俺の実力だ」

「褒めてやるよ。あ~すごいね」

またも裕之に、皮肉たっぷりに言ったつもりだったが聞いていない。

左のレーンのいかつい男は調子を落とすことなく、真ん中近くに矢を当て続けている様で、間隔を置いて機械の音が聞こえてくる。女性二人は相変わらずキャッキャ言っている。


雄二の三投目。投じられた矢は、見事に中心にかなり近い箇所に刺さった。

「うおっしゃー!」

控えめだが、握り拳を作って喜びを表現した。

「うーん、まぁまぁだな」

「良いんだよ、所詮自己満だろうが」

「まぁ、そう僻むな。上級者はそんな事では喜ばん」

「うっせぇな。さっさと投げろ」

「言われなくても投げる」

徐にダーツの矢を構える裕之。相変わらず目つきはマジになっている。矢を投じようとした瞬間、バーカウンターの方でグラスが割れる音が場内に響いた。動揺したのか、裕之の放った三投目の矢は大きく左に逸れた。丁度いかつい男が、刺さっている矢を的から取ろうとしていた。

「う、いってー」

いかつい男の背中に、思いっきり裕之の投じたダーツの矢が当たってしまった。

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