第10話 プリント
胸に突き刺さる言葉に耐えながらもどう返信するか考えてみる。この場合はどういう回答が正解なんだろうか。『男ってみんなそんなもんだ』と同意すべきか、それとも『そんなことはない』と否定したほうがいいのか。
うーむ。
ちらりと脳裏をよぎるのはクラスメイトの夕凪と青羽だ。夕凪は見てわかるようにこういうことに耐性はなさそうだ。同意したら俺も同類と認定されて変態呼ばわりが加速しそうだ。
逆に青羽は耐性がありそうだが、それならそれでこういった問いかけはしてこないか……? いやそう見えて実は心の奥底で思っている疑問が出てきたのかもしれないな。そういえば兄貴が何かどうのこうの言ってたな。耐性が付いたのは兄のせいと察することもできるが、どこか納得できないところがあるのかもしれない。
『まぁだいだいの男はそういうものだってわかってはいるんだけどね……』
返信内容を考えているうちに『こま』さんから諦めともとれるメッセージが追加で入ってくる。これは青羽寄りと考えてもいいのかもしれないな。
『……自然と目が行ってしまうのはしょうがないんじゃないですかね』
自分を擁護するわけじゃないが、こればっかりは男の
『そうよねぇ』
なんだかんだと俺に愚痴をこぼしつつも、『こま』さんも心の中では気が付いているんだろうか。
『そういうギンくんはどう? やっぱり目の前でスカートがひらひらしてると目がいっちゃう?』
相手の顔はわからないが、なんとなくいたずらっぽく笑う美人のお姉さんが脳内で再生されてしまう。過去を思い出せば、『目が行ってしまう』側の人間ではあるが、ちょっとカッコつけてしまいたい気持ちもある。
しかしさっき自分でも『男ならしょうがない』と言ってしまった手前、すぐにばれてしまう可能性が大である。
『そりゃ……、俺も男ですからね。否定はしないです』
ここは素直な自分を出す方向でいっておこう。変に嘘ついたところでいつボロが出るかわかったもんじゃない。
『あはは、正直だね。……でもそういうのは、嫌いじゃないよ』
よし、方向性は間違っていなかったようだ。第一印象もあってか夕凪には嫌われてしまったが、人間誰しも好き好んで嫌われたくはない。まったくあの女はどうしていつも俺に突っかかってくるんだか。『こま』さんみたいにもっとおおらかに構えていて欲しいもんだ。
まったく対照的な人物を思い浮かべながら、今夜も『こま』さんとの会話が続いた。
「あれ……? うちの制服?」
翌日、登校中の電車に乗りながらも一瞬で通り過ぎた神社の境内を振り返っていた。最近見かけることが減ったと思いつつも何気なく眺めていると、セミロングストレートを靡かせた後ろ姿が目に入った。……が、よく見慣れた制服を着ていたことに気が付いた。
グレーのブレザーに、濃い目のグレーと紫のチェック柄のスカート。自分の通う学校の制服と似てるが、他にも似たような制服の学校があったかな?
……それにしても誰だろう。ふと去年や今年同じクラスだった女子生徒を思い浮かべるが、遠目で見た後ろ姿と一致する人物は浮かばなかった。さすがに同じ学校といえど全校生徒で千人以上いるし、知り合いの可能性は低いかな。
「おーっす、白石」
通学中の出来事を忘れて学校に着くと、空閑が慌てた様子で声をかけてきた。机の上には珍しく一枚のプリントと何かの教科書が広げられている。
「日本史のプリントやってきた?」
よく見れば教科書は日本史だ。そういえば前回授業の終わりにプリントが配られたんだったっけ。次の授業で当てるので虫食いを埋めてくるように言われたような気がする。……そういえば俺もやってねぇな。
「……」
無言で答えると隣に倣って俺もプリントと教科書を広げた。
「くっ……、お前もか……!」
空閑は白紙になっていた俺のプリントを見て嘆くと、自分のプリントと格闘するべく教科書に視線を戻す。
まったくもって俺も完全に忘れてた。『こま』さんのせいにするつもりはないが、昨日遅くまでラインをしていたせいでもある。それ以前にも時間はあったはずだ。
……っていうか日本史の授業って確か一時間目じゃなかったっけ? もう時間がねぇぞ!
「おはよう。……あれ、もしかしてプリント忘れたの?」
そこにいつものように青羽が現れるとハッと顔を上げる空閑。そして両手をすり合わせてさっそく卑屈な態度に出た。
「おおお、もしかしてプリントやってきてる?」
「それは……もちろん?」
空閑の勢いに若干引き気味なのか、回答が疑問形になっている。
「まじでっ! ぜひとも見せてください青羽様!」
「いやちょっと待て!」
そうはさせるか! 俺だってプリントが白紙なんだ。空閑に先を越されるわけにはいかない。日本史の授業はこのあとすぐなのだ。
「いや待たないね! オレが先に声かけたんだからな!」
「あはははは! まぁ時間もないし、空閑くんからね」
「っしゃ!」
「なんてこった!」
こうなったら地道にやるしかない。授業が始まったとしても、最悪隣の席の空閑なら見せてくれるかもしれない。青羽のプリントが空閑の元へ手渡されるのを横目に、俺は教科書へと集中するのだが。
「ええっ、なに、二人ともプリント忘れたの?」
そこに夕凪の驚きの声が割って入ってきた。
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