第9話 男はみんな
それにしても今日は風が強い。
一時間目から体育だったが、風で砂ぼこりが舞っていたくらいだ。グラウンドを走れば砂ぼこりが舞っていたが、それが少し離れたところで同じく体育の授業を行っていた女子の集団からやってくるのだ。こちらとしてはいい迷惑である。……一部喜んでいた男子がいたが気にしない方がいいだろう。
「なんだか頭がゴワゴワする……」
これは砂ぼこりのせいか。うん、きっとそうだな。なんかじゃりじゃりするし。っつーか女子集団から飛んできてたよな。もしかして夕凪が俺憎さにわざと砂ぼこり立ててたんじゃあるまいな。……いやさすがに他の男にも迷惑かけるような行動はしないか?
「そうか? オレはそれほどでもないけど」
空閑はそうでもなさそうだ。髪の長さは俺とさほど違いがないように思うが、この差はなんだろう。髪質とかかな?
「……おいおい、そんなに見つめるなよ。……照れるだろ?」
髪をいじりながら冗談を飛ばしてくる。……が、まじめに受け取る奴もいるようで。
「……あんたそんな趣味もあったの!?」
「んなわけあるかい!」
青羽と夕凪の席は離れたところにあるので、普段の休み時間などでは会話はない。だがほかの教室で授業を受けるための移動中などは別だ。切っ掛けはあれだが、なんだかんだ言って俺たち四人のグループが出来上がった感じになっている。
夕凪と俺との仲は最悪だが、どうも青羽は夕凪と中学からの付き合いらしく、仕方なくと言っていた。俺としても他に知り合いがいないので仕方なくなんだがな。
「ってかなんで俺だけこんなに砂まみれなんだよ」
「罰が当たったんじゃないの」
当然とでも言いたいのか、きっぱりと断定してくる夕凪を睨みつける。
「んなわけねぇだろ……。むしろお前が俺を狙って砂ぼこり立ててたんじゃないだろうな」
「そ……、そんなことするわけないでしょ」
若干目をそらしながら否定するが、むしろ逆に怪しいぞコイツ。
「ちょっと挙動不審なんですけど」
疑いの目を向けて怪しい点をつくと、ますます目が泳いでいる。
「さすがにそんなピンポイントで狙うなんてできないでしょう」
青羽が今度は遥に助け舟を出しているが、まぁ確かにその通りだ。実際に俺に向かって砂ぼこりを立てていたとしても、本当にこっちに来るかどうかまでは怪しいところだ。届かないとわかっていても本当にやってたとしたら最悪だけどな。
そんなことを思っていると、ほどなく音楽室に到着した。
今日も慌ただしく一日が終わった。外はまだ風が強いらしく、花びらが散って青々と茂った桜の木がざわざわと音を立てて揺れている。
「くぅ~、終わった終わった」
ホームルームも終わり、空閑が盛大に伸びをしている。
「あぁ、さっさと帰ろうぜ」
机を片付けて筆記用具をカバンに詰めると肩に担ぐ。
「腹減ったし、マック寄っていかね?」
非常に惹かれる提案だが、今日はさっさと家に帰って風呂に入りたい。
「すまん。今日は帰るわ」
髪を手で撫で付け、まだじゃりじゃりしていることを確認すると、どうしてもこのまま何か食おうという気が起こらない。腹は減ってるんだけどな。
「それは残念」
まったく残念そうには見えないが、今日は諦めてくれ。といっても別に俺抜きで食いに行ってくれてもぜんぜんかまわないが。
「また今度な」
それだけ声をかけると教室の外へ向かって歩き出す。ちらりと廊下側の席に座る夕凪の揺れるポニーテールが目に入るが、わざわざ声をかけるまでもない。どうせまた何か文句を言われるのがオチだ。
そのまま廊下に出ると階段を降り、昇降口までたどり着く。ここからだと外の様子がよく見える。風が強いのは相変わらずだが、下校中の女子生徒がスカートを押さえながら歩いているのがよく見える。
……おっといかんいかん。
誰かに見つかったらまた文句が飛んでくるところだ。今のうちに早く帰るとしよう。無心になって靴を履き替えると、そのまま寄り道せずに自宅へと帰った。
『やっぱり男ってみんなそうなの?』
その日の夜、夕飯を食べて風呂から上がると『こま』さんからそんなラインのメッセージが入っていた。俺も男なわけだが何が『そう』なんだろうか。この場合はよくない意味で使われていそうな気がするが。
『何かあったんですか?』
男の何がよろしくないのかわからないが、事情を聞かないことには何もわからない。しばらく既読もつかないかと思い、キッチンから飲み物を取ってくるとすでに返信がきていた。
『いやほら、今日って風が強かったじゃない?』
まぁ確かに、天気予報でも全国的に強風になるって言ってた気がするし、実際に風は強かった。
『それで、スカートを押さえつけ歩く女の子がいたんだけど、その子たちを見てる男がどうにも……』
――今日の俺じゃねぇか。
下校時の自分を思い出して思わずツッコんじまった。一応理性を総動員……ってほどでもないが、何も考えないようにして堂々と帰宅したつもりではある。だが周囲から見てどう思うかは別だよな。視線が行かないように意識はしていたが、きちんとできていたかどうかはわからない。
「さてどうしようか」
返信内容を考えながら、頭を抱えるしかなかった。
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