第8話 ケンカするほど仲がいい?
桜の花びらも散り始めた四月半ば。通学中に通り抜ける神社の境内で女の子を見かける頻度も減ってきていた。近所なので興味本位で学校帰りに神社へ寄ってみたりもしたが、もちろん会えるはずもなく。かといってちょっと早起きしてまで通学前に神社へ行こうという気が起きるわけでもない、そんな微妙なところだ。
会って何がしたいわけでもないので、きっと見つけても何もしなかっただろうが。……だったらなんで学校帰りに寄ったんだろうな。自分でもよくわからないが、何かを期待していたんだろうか。
もしかしたら……。いやそんな偶然があるわけでもないし、間違っていたら気まずすぎるだろう。
「おいーっす」
「おっす」
考え事をしながらだったからか、いつの間にか学校に着いていた。教室に入って自分の席へと着席すると、隣の空閑からいつもの挨拶がやってくる。
「おはよう」
続けて青羽が後ろからやってくる。
「あぁ、おはよう」
「おいーっす」
空閑の挨拶は相手が誰でも変わらないらしい。
それにしても眠い。大きなあくびをして机へと突っ伏すと目を閉じる。学校に着いていきなり寝るつもりはないが、正直目を開けていると眠いんだからしょうがない。隣からごそごそと音がするが、そもそも寝るつもりはないので気にはならない。
「おーい白石、置いていくぞー」
と思っていたら空閑が気になるセリフを残して、俺の後ろを通り抜ける気配がした。
「白石くん、遅刻するよ?」
青羽らしき声が聞こえたので、起きて周囲を見回してみる。教室に入ってきたときからかなり生徒の数が減っていた。……一時間目の授業ってなんだっけ?
後ろを振り返ってみると、空閑と青羽が何か袋を持って立っている。……あれは体操服か。そういえば一時間目は体育か。着替える時間を考えると確かにそろそろ動かないといけない。
「おっと……、忘れてた」
机に引っかかっている体操服の入った袋をつかんで席を立つ。
「遥ー、行くよー」
青羽に声をかけられた夕凪がこちらを振り向くと、俺と目が合ってしまう。途端に眉間にしわを寄せながら、自分の体を隠すようにして体操服の入った袋を持つ。もはや反射になっている気がするな。
「なんだよ……」
「……なんだか着替えを覗かれるような気がしたから」
若干呆れを含んだ声音で問いかけると、夕凪の戸惑いを含んだ答えが返ってきた。
「んなことするわけねぇだろ」
反射的に切り返すが、もちろん聞く耳を持ってくれるはずもなく。
「そうやって否定しても騙されないんだからね!」
「誰がお前なんぞ……」
貧相なやつを覗くかよと言いかけて改めて夕凪を睨みつける。売り言葉に買い言葉だが、よくよく見れば貧相なわけでもない。標準的な身長に、出るところは十分に出ているのだ。むしろ美人の部類に入るのではなかろうか。こうして俺に突っかかってこなければの話だが。
「ぶはははは! 相変わらずの嫌われっぷりだな」
肩をポンと叩きながら腹を抱えて大爆笑する空閑を睨みつける。まったく笑えないんだが、一回殴ってもいいか?
「もう……」
何度か夕凪を諫めてくれている青羽もそろそろ諦めの境地に入っている。青羽は小柄でスレンダーな体型だが、むしろ見た目なんて関係なくダントツで青羽だな。夕凪なんかと違って人ができていると思う。
「むぅ……、陽菜子はなんでこんな奴の肩を持つのさ」
「それはむしろ……遥のせいじゃない?」
「えええ!?」
四人で並んで体育館横にある更衣室へと向かいながら、なんともよくわからない会話が続く。
「だって、いつまでも攻撃される白石くん見てると、気の毒になってくるんだもん」
「うっ……」
「それにうちは兄貴がアレだからね……」
なにやら遠い目をしながら呟いている青羽に、夕凪もたじたじである。そこで言葉に詰まるってことは、自分に非があるとでも自覚してんじゃねぇだろうな。
それにしても青羽にはなんかすごいやらかしてる兄貴がいるのか。
「へぇ、どんな兄貴なの?」
興味津々で空閑が聞いてるが、答えてくれるのかね。まぁ俺もちょっと気になるけど。
「……変態だね」
機嫌が悪そうにぼそっと夕凪が答えているが。
「その言葉は信用ならんな」
俺を変態呼ばわりしたことのある人間の言葉だ。変態ではない俺を変態と呼ぶ奴の言葉なんぞ、素直に信じられるわけもない。
「何よ」
「ああん?」
やんのかおいこら。
「ちょっとやめなさいよ」
なんとなく夕凪とにらみ合ってると、青羽から静止の言葉がかかる。
「なんだかんだ言って、仲いいんじゃないの?」
「なんでこんな奴と!」
空閑の言葉に反応して夕凪が反論しているが、まったく同じことを心の中で思ってしまっていた。いやまったく、意見が一致するのはアレだがお互いに相いれないというのであれば問題ない。
変態呼ばわりしてくる人間と仲がいいとかマジ勘弁してほしいところだ。
……にしても、青羽の兄貴がどんな人間かはちょっと気になるところではあるな。今度聞いてみよう。
「ぬぅ……、ここは白石とセリフが重なるところだろ。面白くないね」
「何がだよ!」
誰がお約束やるかっての!
心の中で同じことを思っただけに、八つ当たり気味に空閑にツッコんでしまった。
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