五ノ章 雨障み 九

「朱葉様!こちらです!」

 降りしきる雨の中、足早に数人の男女が、息絶えた青葉のもとへ駆け寄った。不明瞭な視界の先、ようやく彼の姿がしっかりと見える距離まで近付いた時、皆が「うっ」と小さく呻くや足を止めた。

 そこにあるのは、地面に四肢を投げ打ち、腹部には大きな穴を開けて、どす黒く染まった血の海に沈む青葉の姿だった。そんな変わり果てた彼に、これ以上近付くのを躊躇った者達を傍目に、朱葉は無言のまま前に出ると、彼の傍に立膝をついた。

「…」

 冷たくなった弟を前にしてもなお、朱葉は眉ひとつ動かさない。何を言うでもなく、瞬きもせずただじっと彼の顔を覗き込むことしばし。ふと顔を上げ立ち上がると、遠巻きに見る側近達を睨め付けた。

「さっさと青葉を屋敷に運び込め」

 感情の一切を見せない、淡々とした口調で鋭く言いつけると、側近達は弾かれたように動き出し、彼の身体を丁重に担ぎ上げた。

「葬儀は、いかがいたしましょう?」

「内々で済ます。それより、都の復旧が優先だ」

 言うなり、頭上にそびえるようにして佇む神喰の骸を見上げ、苦々しげに言う。

「もう二度と、こんな悪鬼の侵入を許しはしない」

 皮膚に爪が喰い込み血が滲む程に、強く拳を握りながら。

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