二ノ章 あい言葉 序

昔から人が好きだった。

懐の深い優しい心。

実直でひたむきな姿。

真面目で揺るがない強さ。

そんな彼らの姿に憧れた。

そして望んだ。

彼らと共に生きたい、と。

けれど

神として祀られることになってから知った。

神は、人と接触してはならないということ。

手を触れるどころか、声さえ交わすことも許されない。

人と共に生きているのに、

人と同じには生きられない。

どうして?

人に信仰され、祀られているというのに。

神は人の生活を守り、慈しむのが役目だというのに。

人と声を交わさないで、どうやって人と心を通わせることができよう。

人と触れ合わないで、どうやって慈しみの心を育てることができよう。

その『決まり事』がどうしても、わたしには理解できなかった。

だからあの時。

「青葉」と名乗る少年と出会ったあの時、最初こそ驚き、緊張もしてしまったけれど、本当はとてもとても、嬉しかった。

初めて聞いた人の声は暖かくて、真直ぐだった。

初めて触れた人の手は優しくて、柔らかかった。

無表情で、感情をあまり表に出そうとしない神々とは違う。

生き生きとして笑みを絶やさないその人の表情に、わたしの心は大きく高鳴った。

もっと彼と話がしたい。

もっと人のことー彼のことを聞いてみたい。知りたい。

「また、此処には来てくれる?」

『決まり事』が、『破ってはいけない掟』だということは知っていた。

それでも、人と交流をもちたいという望みの前では、そんな掟は何の意味もなさなかった。

彼は少しだけ思案して、それから力強く頷いてくれた。そして「ただ、」と続ける。

「これは二人だけの秘密にしましょう」と。

陰陽師である彼もまた、「妖怪や神と交流をもってはいけない」という掟があるのだという。

お互い誰にも言わないこと。気が付かれないこと。

それが、わたし達の間で交わされた約束。

その約束と掟の重みを、その時のわたし達はまだ何も知らなかった。

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