AM11:25

 つまるところ俺は今、先輩の圧倒的個人的な好奇心を満たすために、こうやって晒し者にされてるってわけだ。


 しかも、この状況で何もせずに帰るのはひじょーに居た堪れない。別に俺は何も悪い事をしていないのに、この場でギャラリーを沸かせる魔術を披露しなければ死刑、みたいな空気が漂っている……気がする。


 なぜこんな目に。それもこれも、のほほんとした態度で俺を油断させて追い詰めた先輩のせいだ。汚い、さすが悪魔きたない。


「分かりましたよ……」


 俺は折れる事にした。子供のように喜ぶ先輩を横目に、ネクロノミコンの表紙に手を掛ける。


 開けた途端、ヤバい何かが飛び出してくるようなパンドラ的要素とか、ないよな? 俺は緊張で汗ばんで指に力を入れ、ぱらと最初のページをめくった。


(……うん、何も出てきてないな)


 まずは一安心。さて、中に目を通してみよう…………、


「……先輩。読めないんすけど」

「ん~? あらぁ、ホントねぇ」


 頬に手を添えて、先輩は溜息を吐く。


「基本の字体は古代フェルガノリシポステミジャジャコルヤルンパッパ文字に似てる気がするけど、ちょっとアレンジされてるみたいねぇ。さすがはネクロノミコンってとこかしらぁ」


 古代何とか語とかいうツッコミ待ちとしか思えない言語は華麗にスルーするとして、先輩でも読めないのか。じゃあどうしようもねぇじゃん。


「でも大丈夫よぉ。読めなくても魔力を引き出せさえすれば発動できるのは、普通の魔術書と一緒のはずだからぁ」

「はぁ」


 じゃあ、デーモンサモンの時みたいな詠唱は必要ないって事か。この魔術書ってヤツ、大分最適化された便利な代物みたいだ。


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