AM11:24

「試し撃ち……魔術の、ですか?」


 予想もしていなかった提案に、俺は口を半開けで尋ねた。


「そうそう。ほら、君たちって昼から体育あるでしょぉ? その時に初めて魔術を使うのって、ちょっと危険だと思うのぉ」

「はぁ……ホントよく覚えてますね、クラスごとの時間割なんて」

「先輩ですからぁ」


 それでもっともな理由に聞こえてくるのがすごいな。さすが先輩。


「まぁ、提案は分かりますけど……まだ時間的には授業中ですよね? 一応」

「大丈夫よぉ。ほらぁ、ね?」


 見計らったかのように鳴り響く3時限目終わりのチャイム。ホント、学校の事なら何でもお見通しって感じだな、この人。


 あちこちの教室からがたがたがた、と椅子を引く音が聞こえてくる。3階を見上げると、津島さんを始めとした世界史組の連中が物珍しげに俺達を見下ろしていた。


 ネクロノミコンの魔術に興味があるんだろう。まぁ気持ちは分かるが。


 やがて、隣のクラスの日本史組が出てきたり、他の学年のヤツらが先輩と一緒にいる俺を怪訝な感じで見てきたりで、あっという間に俺は悪目立ちし始めていた。


 アカン。完全に危惧した通りの目立ち方してんじゃねぇかよ俺。


「ほらぁ、ギャラリーの方も待ちくたびれてるわよぉ? 早く早くぅ」

 

 そう言って俺にネクロノミコンを手渡す先輩。


「……先輩。なんだかんだ言って、一番楽しみにしてるの先輩じゃないっすか?」

「ぎくぅ……そ、そぉんな事、ないわよぅ? 私はただ生徒の授業の手助けをしたくてぇ」


 先輩、分かりやすいっす。あと口笛で誤魔化すのなんか古いし、そもそも息が掠れてすぅすぅ言ってるだけっす。



 

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