AM10:45~

 俺は寝た。完膚なきまでに寝た。


 実際、疲れてたし。今後の授業、特に五限の体育とかは確実にヤバい予感しかしないので、体力は回復できるときに回復させといたほうがいい。


 理想は、11時25分のチャイムで起きる事。実際、教師の小酒井が来ない事が確定している以上、邪魔は入らないはずだ。


 あるとすれば、他の生徒が俺を叩き起こそうとするぐらいか。そんな真似をしてくるくらい仲の良いヤツは世界史の授業にはいないので、大丈夫だとは思うが。


 ……あ、津島さんの可能性もあるな。彼女は生真面目で居眠りもあまり良くは思っていないはず。ただでさえ俺は今朝遅刻した身なので、注意してくる可能性は無きにしもあらずんば。


 まぁ、その時はその時だ。誠心誠意謝れば津島さんはきっと許してくれるはず。あ、でも罰ゲームロシアンは勘弁してくださいお願いします。


 そんな事を考えながら、俺の意識はすぅっと融けて行った――――




 ――――そして、覚醒。


 チャイムが鳴ったとかじゃなく、自然に目が覚めた。これは……多分2、30分くらいしか経って無いな、多分。


 二度寝するか、ひとまず起きるか。少し迷ったが、起きたところで黒板に書き写すような事は書き記されていない。寝よう。


 そう決意したところで、気づく。俺の周囲から、くすくすと笑い声のようなものが聞こえるのだ。


 顔を伏せているので確かな事は言えないけど、その笑い声は俺に向けられている気がする。


(……なんか悪戯でも仕掛けられてんのか?)


 居眠り野郎、みんなでイジれば怖くない、ってか?


 さすがに顔に落書きとかそんな古典的なレベルなら気づくはず。いや、待て。このイカれた世界にとって、『寝ている人への悪戯』の標準が分からん。


 急に不安が募ってきた。もし本当に俺がイジられてるのなら、俺が目覚めて驚きでもすれば向こうの思う壺だろうけど、そうも言ってられない。


 時限式の手榴弾でも仕掛けられていようものなら、即昇天だ。俺はまだドナドナと対面するわけにはいかないのだ。


いやまぁ、死んでも先輩が生き返らせてくれるのかもしれんが、できればそんな臨死体験の上位互換体験はしたくない。


 よし、起きるぞ? 起きるからな? 頼むから平和的なオチを……、


「って、うわっ!?」


 恐らく周りのヤツらが期待していたように、俺は盛大に驚いてしまった。椅子の上で跳ねてがたん、と大きな音が鳴る。


 が、そこにあったのは俺がまったく予想もしていなかった存在だった。


「……せ、先輩……?」

「はぁい、ニクス先輩ですよぉ?」


 先輩はのほほんとした顔で俺を覗き込んで笑っていた。


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