AM7:38

 新聞を閉じて深いため息を吐いた俺は、テレビに視線を流す。

 若い女のリポーターが、集団下校する小学生にインタビューをしていた。


『みんな、これがあればもう怖くないね!』

『うん!』


 いかにも台本通りと言わんばかりのやり取り。どうやら、近年の子供達の登下校が物騒になりつつある中、防犯意識についての話をしているらしい。 

 だけど、何があれば安心だって? 防犯ブザー……にしちゃやけにでかいな。

 子供たちが大事そうに抱えているそれに目を凝らす中、引率をしている先生のインタビュー画面に切り替わる。


『先生もこれがあれば安心なのではないでしょうか?』

『はい。親御さんにもご理解、ご協力いただき、ようやく子供達全員にを携帯して貰う事が出来て、心の底からほっとしています』


 ほっとするかぁ! 全国の不審者が裸足で逃げ出すわ!


『ゆくゆくは全国的に条例で携帯を義務付けられる事になりますので、まだお持ちでない皆様は大切なお子様の安全の為にも、お早めにご準備下さい』


 むしろ子供がそれを玩具にして誤爆して大惨事な未来しか見えませんが?

 通販でジジババが『もう手放せません』的な感じで絶賛してる健康食品とはわけが違いますよ?


 要するに、アレですか。子供達のそばを歩く時には常に誤爆の恐怖に晒され、万が一不審者に間違えられようものなら、『あっち行け~』って無邪気なノリで手榴弾の雨に晒されるわけですか。そうですか。


 叫びたい。叫び散らしたい。色んな事に。けど、


「これで少しでも事件が減ればいいんだがなぁ」


 としみじみ言う父さんの手前、俺は必死に我慢するしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る