AM7:41

 穏やかな朝に全くそぐわない、禍々しい空気。いや、ここはあえてオーラと呼ぶ事にしよう……やべぇ、俺もイカれてきたか?


 ともかくも、リビングに充満するそのオーラはこの後にどんな凶事が起きるのか、容易に想像が出来る。


 逃げるか、立ち向かうか。そんなことをあたふたと考える俺の前で、唐突にオーラが凝縮された。


『……我を呼んだのは、貴様か』


 悪魔王ルシファー、降臨。


 4本の長くて捻じ曲がった赤黒い角。コウモリのそれを何十倍にもしたかのような巨大な翼。人間離れした厳つい相貌に、筋肉質のがっちりした肉体。

 その姿は俺の思う悪魔像と寸分違わない。俺と父さんは固唾を呑み、彼をただただ見ていた。


 口を開いた瞬間、殺される。そんな予言めいた確信があった。


「こーら、初対面の相手を貴様なんて呼び方したらダメ!」


 一方、ルシファーに語りかけられた母さんは、駄々をこねるガキを叩き伏せるノリでそんな事を言う。母は強し。

 

 一瞬の沈黙。口を開いたのは、悪魔王。


『む……すまぬな。どうにも魔界での習慣が抜けぬ』

「分かればいいの。あと、その言葉づかいも直した方がいいわ。ほら、例えばそこの修二みたいなしゃべり方にしてみたらどうかしら」


 悪魔王、ぎらりと光る赤い目で俺を睨む。


「な、なんで、ございましょうか、悪魔王様」


 反射的に媚びへつらう俺をじろりと嘗め回すように見た悪魔王は、


『うむ、理解した』


 一つ頷き、母さんに向き直った。


『我をお呼び下さったのは、貴方様でございますか?』

「そうそう、私が呼んだの! これからよろしくね? ファーちゃん」

『こちらこそ、よろしくお願いいたします。契約の名のもとに……我が主マイロード


 悪魔の王が母さんをロードとか呼んでますけど! しかもファーちゃんって! あとごめん、その言葉遣いに関しては俺が悪いわ多分!


 悪魔王の威厳が一気に薄れた気がする。オーラよ、どこいった。


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