第三章 暗躍
第13話 訪問者
「じゃあまた後で行くね。」
「わかった。」
裕美子と別れ、自分の家の玄関の扉を開ける。
「ただいまー。って、今は誰もいないんだけどね。」
家の電気を一つもつけずに靴を適当に其処らへんに脱ぎ捨て自分の部屋に向かう。
暗闇の中、部屋に入るやいなや持っていた学生鞄をそこらに放り投げて、制服にシワがよるのも気にせずベッドに飛び込んだ。
「あぁー疲れた。」
飛び込んだベッドの上で枕に顔をうずめるとそこから微かに洗剤の匂いが漂ってきた。いつも嗅いでるその匂いに今日はなぜだかひどく安心させられる。
(なんか眠くなってきたなぁいっそこのまま寝てしまおうかな、でも裕美子との約束があるしなぁ、、そういえば、明日先輩にも会わなきゃな、、)
色んな事を考えながらも、疲れからか、少し眠くなってきてうつらうつらしてた時だった、携帯がけたたましく鳴った。俺は重たい体をベッドから起こしてスマホがしまってある鞄へと向かう。
「ったく誰だよ、、はぁい」
携帯の呼び出し画面もろくに確かめずに着信に出た。
「あぁすまない、俺だ。一つ言い忘れてたというか、聞き忘れたというか、
御見神、お前まさかと思うが”プラモ”のこと誰かにもうしゃべったりしてないよな?」
伊藤からだ。
「しゃべってないよ。」
俺は嘘をついた。先輩が勘付いてることは事実だったが、神代先輩が探してるものが確実に俺が拾った石だとは一言も言ってないのも事実。仮に違った時に厄介なことになるのも面倒だというのもある。不必要な誤解は避けるべきだと判断してしゃべらなかった。というか、今は先輩の件について一々伊藤に説明するのが億劫だというのもある。
「そうか、それならいいんだ。それだけ聞きたかったから。じゃあ、また明日学校で。」
「おう。」
俺と伊藤は今日、家を去る前にある取り決めをした。
それは気休め程度だが、石を拾った犯人が俺たちと特定されて何者かにマークされるのを避けるために石のことはこれからは”プラモ”と言うようにしようと決めた。
決めたのはいいんだが、慣れないことをしてるからこれが結構言ってるそばから笑えてくるし、すぐばれそうなのとベタもいいとこなのである。
だがそれでも直接的に”石”と言うよりかは幾分マシという結論になった。
ちなみにこれを決めたのは伊藤で、伊藤曰く、なにより学生っぽいし自分に合ってるから違和感がないというのと、仮に誰かに聞かれてそのことを質問されても、
新しく買ったとか適当に言っておけばなんとでも言い訳が立つからというのが理由だった。
なんにしてもこれに俺も賛同した一番の理由は神代先輩の件がある以上、学校で大ぴっらに石の話はできない。それがわざわざ名称を変えてまで話そうと提案に乗った本音である。
ピンポーン
伊藤との会話がちょうど終わったタイミングで、玄関の呼び出し音が鳴った。おれはスマホの明かりを頼りに階段を下りて、リビングにあるインターホンでチャイムを鳴らした人を確認しに行った。
電気をつければいいのだが、家の電気をつけるスイッチが説明は割愛するが自分の部屋以外少々面倒くさい位置にあり、そこに自分の性格もあいまってわざわざ電気のスイッチを押すのが面倒くさかった。
「総くーん、開けてー。」
玄関のインターホンのカメラには裕美子が一人、写っていた。
(なんだ裕美子かよ、)
俺は玄関にドアを開けるために向かおうとした。
(ん?なんで今は俺一人なのにわざわざチャイムなんか鳴らしてんだ?)
普段俺が自分の家に一人でいる時に裕美子が訪ねてくる場合はめったにチャイムは鳴らさない。なぜなら裕美子はウチの家の鍵を持ってるからだ。
鳴らす時は朝、学校に行くのに俺を迎えに来る時と俺の両親のどちらかが家にいる時だけでそれ以外は自分で鍵を開けて入ってくる。
昔から俺の家は両親が仕事で家を空けることが多かった。そこで、面倒くさがり屋で家だと基本ゴロゴロして何もしない俺のことを見かねた母が確実にいつも一緒にいる裕美子にウチの家の鍵を渡していた。ゆえに家に俺しかいないこの状況でわざわざチャイムを鳴らすのはおかしいのである。
(やばい、もしかしてもう勘付かれたのか。くっそ!)
その違和感を確かめるために転身して一度リビングに行く。そして、カーテンが閉まっている掃き出し窓に目を凝らしてみる。すると、明らかに大の大人二人の体の一部ではあるものの人影がこちらの様子を外の庭から窺っているシルエットがカーテン越しに見えた。しかも恐らく手には拳銃のようなものも持っているようだった。
俺は驚いた。勘付かれるのがあまりにも早すぎる。百歩譲って自分の身柄を押さえにくるまでは理解できても、殺すことも辞さないという前提で手に銃を握ってまで来ているというのは、はっきり言って常軌を逸していた。その異様さに恐怖を覚え、立っているのがままならなくなりそうになる。それでもその瞬間、半ば本能的に、とっさに音を立てないよう急いで玄関にある自分の革靴を履き、そのまま土足で向きを変えて再び二階の自分の部屋へと階段を駆け上がった。
そして、部屋に入ると、椅子に掛けてあるいつも使ってる肩掛けカバンに携帯と財布などのもろもろの雑貨を突っ込み、それを持ってもう一度リビングに向かって外の様子を見た。
やはりまだこちらを窺っている。
(くっそ、どうする!どうすればいい!ウカウカしてると突入されて終わりだぞ!)
焦るばかりでいい案が浮かばない。
ピンポーン
そうこうしているうちにもう一度チャイムが鳴る。
自分がとんでもないことに巻き込まれたというのを痛いほど実感させられていた。
心臓が早鐘のように拍動し、汗が噴きだしてくる。
鳴り響く呼び出し音が地獄へのカウントダウンのようであった。
─ 時同じくして ─
御見神家邸宅、正面玄関側東に100m先、一台の乗用車の車内。
「狩屋部長、やっこさん出てきませんね。」
助手席にいる部下の黒田が話しかけてきた。
「あぁ、家にいるのは確認済なんだろうな?」
「間違いないですよ。堂林裕美子と別れた後、間違いなくこの家に入って以後出てきていません。今、直接我々が一度彼女にコンタクトした後、彼女に目標に出てこさせるように誘導してるってとこです。」
「そうか、作戦通りだな。実行班は、どう配置した?」
「部長が一旦尾行から離脱した後、第一班の三名は玄関と表の庭にある窓に、第二班の二名は家の裏手にある勝手口に、最後に敷島が堂林裕美子に張り付いてます。」
「よし、上出来だ。」
それを聞いた狩屋は無線機を握りしめ、配置してる部下に無線を飛ばした。
「こちら狩屋、返事は不要だ、各員そのまま聞いてくれ、わかってると思うが今回の任務は極秘中の極秘、一切の痕跡も残してはならんことに留意して行動せよ。
また、対象は”codeパンドラ”に既に接触済みだ、今、持ってないとはいえ、何か仕掛けてくる可能性があることにも留意せよ。最後に行動のタイミングはそちらに一任する。後は君たちの成功を祈る、狩屋アウト。」
各班への号令が終わると、すかさずまた黒田が話しかけてきた。
「部長、伊藤家の方はどうしたんです?」
「あぁ、あっちは服部に任せてある。」
「えぇ、大丈夫なんですか? いくら立花さんが不在だからって、奴は本庁の人間ですぜ? うちの部署にきたのもつい最近ですし。あいつは信用なりませんよ。」
(どの口がいってるんだか)
「大丈夫だわかっている。お前は余計なことを気にするな、何かあればすぐ私が対応するし、それができる。それよりも目の前の仕事に集中しろ。」
そう言いながらも狩屋は今回の件のことを悔いていた。
(くそ、本来ならこんなことにはならなかったんだがな。どれもこれもあの神代香織のせいで予定が狂っちまった。)
ハンドルを握る手に力が入る。
「上はなにをしてるんだか、、」
狩屋は誰にも聞こえないように小さくボヤいた。
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