第14話 策略

突然、ドカンというものすごい爆発したような大きな音辺りにが鳴り響いた。

御見神家に張り付いていた実行班全員がその瞬間たじろぐ。


「今のはなんだ! 黒田、確認しろ!」


狩屋はすぐに隣にいる無線機を持ってる黒田に指示した。


「了解、こちら黒田何があった? 各班状況を報告しろ。」

「一斑無事です。恐らく家の裏口で何らかの爆発です。こちらからは確認できません。」

「そうか了解した、そのまま待機してくれ。」

「了解。」


すぐさま、別の班からの無線が入る。


「こちら敷島、私は無事なんですが、すいません!さっきの爆発のどさくさで対象B

に逃げられました。」

「馬鹿野郎!おまえが付いておきながら何やってんだ!」


黒田の怒号が飛ぶ。


「すいません。」

「まぁいい、詳しいことは後で聞く。それよりも二班はどうした? 二班応答しろ!」


数十秒待つが沈黙。


「クッソ!やっぱりダメか。やっこさん裏口から逃げたな。どうします部長? 恐らく二班はやられてますが突入してせめて資料の回収だけでもやりますか?」


「いやだめだ。一旦引かせろ。さっきの音で近隣の住民がこちらに気づいて消防と警察に通報するだろう。幸い今は夜で、まだ誰にも我々のことは見られてない。

このまま夜陰に乗じて二班の回収が終わり次第直ちに撤収させろ。」


「了解、各員、”爪をしまったのち”地点B1で合流。以上。」


黒田は全員に向けて無線を飛ばした。


「「了解。」」


黒田がそれを伝えおわるか否かにはもうすでに狩屋はギアを1速に入れて合流地点に向かうべく車を発進させた。


「まんまとやられましたね。」

「あぁ。」

「しかしなぜ我々が来たとわかったんですかねぇ。尾行や監視には気づいてないはずだし、もしかして神代の者ですか?」

「いや、違う。原因はもっと別だ。」


なぜなら、作戦行動中には神代家に動きはなかった。

もしあれば神代家の見張りの三班から即座に連絡がくるからだ。


「原因は堂林裕美子だ。私はあれが堂林の娘であることにもっとよく注意を払っとくべきだった。」

「えぇ、彼女がですか? それは考えすぎでしょう。第一、敷島と一緒にいたんですよ。あの状況下なら何もできないですよ。」


今回の作戦は当初、気を見計らって御見神博士の邸宅に侵入し出雲遺跡に関する発掘資料を隠密に回収するだけのはずであった。ところが、神代香織の行動によって作戦全体が変わってしまった。


「いいや、できる。インターホンだ。もっと注意しとくべきだった。あまりに普通の出来事すぎて見落としてたんだ。恐らく彼女は目標の家に行くときは鍵を使っているんだろう。使わないのは、目標の家に朝に学校へ一緒に行くために迎えに行く時ぐらいだ。ましてや、目標が神代香織と接触したすぐ後で、余計に警戒してたってのもある。」


「アッハッハッハ。じゃあ何ですか、彼女に我々はまんまと出し抜かれたというわけだ。なんともお間抜けな話だ。政府直轄の極秘実行班が一高校生に出し抜かれるとはね。」


そう言うと黒田はまたさらに大きな声で笑った。


「まぁ残念だがそういうことだな。」


そう言って狩屋は下唇を噛んだ。


(やはり、上からの急な命令とは言え実行タイミングが悪すぎだ。神代香織が石のことで目標に接触したすぐ後ではたとえ相手が素人であっても警戒されていて当然だ。)


「部長、今回の件、上にどう報告するつもりで?」


「ん、あぁ、報告自体はどうとでもなるさ。それより問題は逃げられたことで我々の存在を正体はバレてないにしても知られてしまったことのほうが損害が大きい。

相手側に自分達を追っているものがいるというのを教えてしまったわけだからな。

そちらの方の責任を追及されるだろうよ。我々の組織は事実上存在しないからな。」


「ですよねぇ。」


そう言いながらこの黒田という男は終始ニヤニヤしている。


(気持ちの悪い男だ。こいつのほうが服部よりよっぽど侮れん。)


黒田隆久 37歳 5年前に私の部署に配属されて以来、一緒に仕事をしているが、

なかなかどうして腕もあるし、頭も切れる。加えて軍上がりというだけあっていざという時の頼もしさだってある。私は過去に何度かこいつに救われた。それだけに借りもある。


だが、どうもこいつは昔から腹の内が読めん。その点、服部は確かに危険な男だが本庁の人間だけあって目指している目的がしっかりしているために行動や思考自体は読みやすい。


それらを踏まえると一番警戒すべきなの間違いなくこいつだ。先日、裏で見張らせていた部下からのこの男の行動についての気になる報告も上がってきている。


「いやーしかし、すいませんね部長に運転手をお願いしてしまって。」

「別に構わんさ、今は人手が足らんからな。」


「本当は敷島のやつに頼むつもりだったんですがね、堂林裕美子を使って目標をおびき出させたほうがいいと思ったんですよ、それがまさかこうも簡単にかわされるとは思ってませんでしたがね。」

「ふんっ、笑わせるな。どうせこれもお前のことだ、想定内なんだろ?」

「あははは。いやー部長にはかないませんな。」


(またニヤついてる、気持ちの悪い男だ。)


神代香織の行動報告に伴う上からの急な実行命令の速やかな遂行のために、今回、具体的な作戦の立案をして指揮をしているのは黒田である。しかし当初はいつも通り私が命令を受け、遂行のための作戦立案し直接指揮する予定であった。ところが黒田がその途中で私に話しかけ、この作戦を持ち込んできた。


私は最初、黒田の作戦内容である堂林裕美子を使うこと、さらにその彼女に接近するのを新人である敷島に任せるということ、その二点を考慮した時に失敗の可能性が大きくなるからやめろと言った。


ところが、黒田は考えがあるから、いいから俺に任せてくれと言ってきた。

最初はその考えとやらがわからなかったが、作戦が失敗した今ならなぜこんな作戦にしたのか理解できる。


新人である敷島の先行しがちで空回り気味な特にこういう仕事での新人にはありがちな有り余る情熱と未熟さ。そして、目標である御見神総一郎と堂林裕美子の関係性と彼らの知略の度合い。


黒田は今回の作戦をわざと失敗させることで、このまだ未知数な部分があった両者を推し量ろうとしていた。


そしてなにより本当の目的は堂林裕美子と御見神総一郎をわざと逃がすことで彼らの我々がまだ把握しきれてない協力者や石のことについて知っているであろう疑いのある人物を一斉にあぶりだそうということなのである。


反対に作戦が順調に成功して黒田が考えていたことがお流れになっても、それは別の機会にすればいいだけのことで作戦の成功はただの成功として終わり、

それはそれで何も問題はないのである。


さらにもう一つ付け加えるなら今回の作戦行動における最終決定の私が行う判断もどう転ぼうが恐らく既に黒田にとっては想定済みなのだ。


作戦の実行命令が今日の18時30分。作戦実行時刻が19時30分。

黒田はこのわずか一時間足らずで恐らく今回の黒田自身の隠れた目的を思いつき作戦立案と実行準備を完了したということになる。


それ以前から考えつき、行動したということは考えにくい。

なぜなら、御見神総一郎も堂林裕美子も神代香織に普段から頻繁には接触しておらず、接触しても二三言葉を交わすだけ、博士らの子供らであるのも事実であるがそれでも注意すべき組織の対象者リストには上がっていなかったからだ。


これらのことが当てはまるならこの黒田という男、頼もしいとかいう以上に


(恐ろしいな、、)


狩屋はこう思はずにはいられなかった。


その時だった、突然、ガガッと黒田が持っていた無線機が鳴った。


「こちら敷島、対象Bを見つけました。どうします? 確保しますか?」

「いや待て、捕まえるな泳がせろ。必ず目標と接触するはずだ。それと敷島、

お前は作戦実行車じゃなく我々の司令車のほうに地点B3で合流して乗れ。」

「了解。」


「あはは、やっぱり敷島は勝手に動いたか。部長、敷島の回収のために車移動させてください。」

「あぁ、わかった。」


狩屋は握っていたハンドルを握り直しさらにアクセルを踏みこんだ。

今が自分や相手の顔がよく見えない夜であることに狩屋は心底感謝した。

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