第8話 石

「総くん、私、職員室から本殿のカギをとってくるから先行ってて。」

「わかった。」


俺は神社へと先に向かった。学校内にある神社の名前は祀る神様に関わらず学校の名前からとられている。うちは御中高校なので御中神社というわけだ。

神社自体は学校のグラウンドの隅にあり、周りには学校の記念碑とウサギなどの飼育小屋がある。


また、境内はそんなに広くなく、本殿を入れてもちょうどテニスコート一面分といったとこで、鳥居と二匹の狛犬、賽銭箱、少し大きめの小屋といった感じの大きさではあるもののしっかりとした社殿建築で作られた本殿がある。


「さぁ、やるか。」


俺は神社の本殿の裏手に置いてある箒と塵取りを取り出して、境内の清掃を始めた。

当番の人は参拝だけでなく、神社の清掃もその仕事の一つになっている。


しばらくすると、裕美子が神社にやってきた。


「総くん、おまたせ。私、本殿の方の清掃するね。」

「わかった。頼む。」


そう言って、裕美子は本殿の清掃をやり始めた。

俺は掃除しながら今日の部活で伊藤のやつと何の話をしようか考えていた。


(最近、買ったゲームの攻略でも聞こうかな。)


そんなことを考えながら二十分くらいやっただろうか


「ふうーさてと、箒、片づけるか。」

「きゃーー」


その時、突然、裕美子の悲鳴が耳に入ってきた。

俺は急いで本殿に走って入っていた。


「どうした、裕美子、大丈夫か?何があった?」

「総くん、これぇ」


駆けつけてみると、裕美子が腰を抜かしてその場にへたり込んでいた。

そして、俺は裕美子が指をさしているほうを見た。


「なんだよ、蜘蛛じゃねぇか、ビックリさせるなよ。」

「だってぇ」


そこにいたのは、ただのどこにでもいる小さな蜘蛛だった。

俺は近くにあった雑巾で、そいつが潰れないようにしながらくるみ、外へと追い出した。


「相変わらず虫とか蜘蛛とか苦手なのな。ところで、もう掃除は終わったのか?

俺は外の掃き掃除と落ち葉拾いはもう済ませたぞ。」


「うん、あとはご神体がある神棚のお供え物変えるだけだから。私、お供え用のお酒取ってくるね。総くん、代わりに雑巾とバケツ片づけておいて。」

「えっ、ちょ、ちょっと、おい。」


そう言うと、裕美子は職員室の方へと走っていった。

俺はそれを見送り、ため息をつきながら、雑巾とバケツを片づけ始めた。


(なんか、最近、裕美子に良いように使われてる気がする。)


「ん、なんだこれ?」


俺は片付けのために本殿を出ようとした時、視界の端に何かを捉えた。気になって近づいてみるとそこには、キラキラ微かに光る変な小石が本殿内の隅っこの床に落ちていた。


「変だな、こんなもの見たことねぇ。ちょっと、調べてみるか。」


俺はそれを拾い上げて、しばらくそいつを眺めながら片手で掃除用具を片付けた。


「お待たせー、あれ、どうしたの?」

「いや、何でもない。それより、ササっとお参りすまして、教室に行こう。ここは寒い。」

「そうだね。」


そして、俺たちはそのまま残りの当番の仕事を済ませた。

拾った小石はというとポケットに入れた。


(伊藤のやつに見せてみるか、いい今日の部活の暇つぶしになるかもしれん)


そんな風にこのときは思った。




ー放課後ー


俺は部室へと向かった。部屋を開けて入ると伊藤がすでにおり、いつものようにお気に入りのジオラマのカタログを不機嫌そうにペラペラとめくっていた。


「よう、遅かったな。先生の説教でもくらってたのか?」

「んなわけねぇだろ、ウンコだよ。」

「んだよ、きたねぇな、せめてトイレぐらいで止めとけ。」


だいたいいつもこういうしょうもない冗談から入るのがお決まりである。


「お前が聞いたんだろ、それより伊藤、俺が今週お祈り当番なの知ってるよな?」

「あぁ、」

「そこで、実は今日の朝、裕美子と本殿の掃除してた時によう、こんなもの拾ったんだ。お前、こういうの詳しいだろ? 俺はこういう石とかには全然詳しくないんだ。なんかわかるか?」


俺は、胸ポケットから、例の光る小石を取り出して、伊藤の前に出した。

その瞬間、伊藤は読んでいた雑誌を後ろに放り投げて、石を手に取った。


「なんだこりゃ、こんなの知らねぇぞ。てか、お前これ自ら微かに発光してんじゃん。しかも、特定の色じゃなく、七色に発光してる。」

「そうなんだよ。なんかすごくねぇか?どうだ、何かわかるか?」

「すまないが、こんなもの知らんし見たことない。俺が知らんだけかもしれんが、

普通、こういう鉱石の類は、特定の光を当てたり暗闇に置いたりすることで発光するもんだ。特に紫外線下に置くことで光ったりするとかさ。


というか、ホントは光ってなくて、光って見えてるようなものも多い。

だけどこれは、明らかに光を反射してるとかじゃないし、


ましてや虹色に自身が発光し続けるなんて聞いたことねぇよ。

御見神、これ少し預かってもいいか、家に持ち帰ってゆっくり調べてみたい。」


俺は伊藤のこの反応に少し驚いた。大抵のことを知っているこいつが

ここまでの反応を示すのが意外だったからだ。


「あぁ、別に構わないけど、何かわかったら教えろよ。あとちゃんと返せよ。」

「わかってるよ。」

「お前は放っておくとすぐ借りパクするからな。」

「だからしねぇって!」


この伊藤という男は誰に似たのか手癖の悪い男である。


「まぁわかってるならいいや。ところで話変わるけど、部長は今日も来てないの?」

「はぁ~お前は人のこと、とやかく言うくせにホントに部長にゾッコンだな。

まぁ美人だしな、惚れるのも無理はない。ただな、御見神よ、噂じゃ部長は二年生の男子全員を振ったって話だぜ。わかってると思うがあの人は難易度高めだぞ。」


「ちげぇよ、そんなんじゃないよ、いいから、来たのか?」

「来てないよ。」

「だったら、さっさっと、そう答えろよ。」


終始伊藤の奴はニヤニヤしている。


「悪かったって。そうカッカすんなよ。少しからかっただけだって。しかしまぁ確かに、お前じゃないが、あの人いつになったらくるんだ。全然来ないから、何もできないじゃん。新入部員の俺たちだけじゃあ勝手にできないしさ。こうなったら顧問の田島先生に言うしかないか。」


「無駄だよ。」

「どうしてだよ?」


「田島先生、こないだ交通事故に遭ってしばらく入院だと。」

「マジかよ。」


伊藤は目を見開いていた。


「さっきここに来る途中で担任の後藤から教えてもらった。」

「じゃあしゃあないか、またの機会にするか。」


「ところでどうする?今日もテキトーにだべってくか?」

「いや、俺は帰るよ御見神。早く石を調べてみたいしさ。」


人をイラっとさせることを時々会話の節々に入れてくる伊藤だが、こいつと一緒に放課後の部室で話すくだらない話は結構気に入ってる。それだけにちょっと残念な気持ちになった。


裕美子は高校の三年間は貴重で無駄にはできないよと言っているが、俺にはこの部室で伊藤と過ごすこの無為の時間もまた楽しみの一つでもある。


もちろん早く部活動をしたいってのは入部当初から変わらず思っている。

ゆえに部長が部室に来ないかいつも伊藤に聞いているのだ。


「そうだな、仕方ない、じゃあ帰るか。」

「おう。」


(伊藤との話は楽しいとはいえ、全く部活動せずにお互い予定がある時は解散するって、これじゃあ、なんのためにこの高校に入って、この部活に入ったんだか。帰宅部と変わらない気がする。)


「じゃあまた明日な。」

「報告を頼むぞ。」

「わかってるよ。」


そう言って、伊藤は部室を足早に出て行った。


「俺も帰るか。」


そう独り言をつぶやきながら、残った俺は部室の戸締りをして、

自分の下駄箱へと向かった。


「ん、なんだこれ。」


自分の下駄箱を開けると、中に自分の靴と一通の手紙が入っていた。


(お、ラブレターかな、差出人はっと、、)


そんなことを冗談めかしく思いながら俺は差出人を見た、その名前は神代香織と書いてあった。






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