第二章 日常

第7話 お祈り当番

「総一郎、そろそろ起きなさい。」

「うぅん、、、」


寝ぼけながら、俺は母に返事した。

そして、ふらつきながら起き上がり、

壁に掛けてある制服に手を伸ばした。


着替えをすませ、鞄を持ってリビングに行くと、

机の上に朝食が用意してあった。


「あんた、今日、お祈り当番でしょ、ほら、朝ごはん早く食べて。」

「わぁってるよ!」


俺は席について、おにぎりを口に頬張った。


いつも、当番の時の朝食はおにぎりを食べる。

すぐに食べれるし、糖分補給に一番効率がいいからだ。


ところでお祈り当番とは、国が憲法で、全国にある小、中学校と高校に、

簡易的な神社を敷地内に建立することを戦後の憲法改正で制定した。


それによって学校側は、行事の時や節目には必ず生徒と職員が参拝するように校則で決めざるをえなくなったことに由来してるものである。


建立したのに放置では、何かバチがあたると思うのは当然である。


そういう背景があって、普段は生徒に各学年の中から男女一組だけ

毎週選んで当番で神社の清掃と参拝を全校生徒の代わりに一週間行うのである。


「あんた、わかってると思うけど、母さん自治会で今日夕方でかけるからね、

晩御飯は冷蔵庫に入ってるから、チンして食べなよ。」

「うん。」


「それから、あんたちゃんとお祈りしなよ。しなかったら、

小遣い減らすからね。」

「うん。」


俺はうっとうしかったので、全部生返事で返した。

母はなぜか、このお祈りに関してはことさらにうるさく言うのである。


「ちょっと、あんた、ほんとにわかってんの?

それとあんた、先生から、、」

「わぁってるよ! ごちそうさま。残りは学校で食べるから。」

「ちょっとまだ、話が、、」


俺は母の話を強引に遮った。

これ以上その場にいれば、さらに母からの苦情が飛んできそうだったので、

残りのおにぎりを鞄にいれ、急いでリビングを出た。


「行ってきます。」


そういって、急ぎ足で家を出たら玄関先に、裕美子のやつが待っていた。


「総くん、遅いよ。今日から当番でしょ。」

「おめぇまで、うちのオカンみたいなこと言うなよ。」

「だって、ほんとに遅いんだもん。」

「はぁ~」


裕美子は俺の隣人で、

俺が小学4年生の時にここに越してきた同い年の女の子である。


その時から学校も同じで、隣人、親同士の交流等々あり、

よく一緒に行動してるんだが、いつからか、第三者からみれば

いい世話焼きさんなんだが、俺からしたらお節介にしか思えないことを

俺によくするようになった。


そのせいもあって、俺たちはよく噂された。


小学校の時はそれが嫌でしょうがなっかたが、

邪険にすれば、うちの母からの制裁があるので嫌でも仲良くしてた。

もちろん今は、もうそんなことは思ってなく、

自分の中ではただの幼馴染という感じだ。


「裕美子、お前、先に行ってればいいのに。」

「だって、お祈りは二人一組だから。」

「まぁ、それもそうだけどさ。そういやお前、部活どうしたんだ?」

「水泳部にしたよ。」

「そうか、昔から泳ぐの好きだったもんなぁ。」

「うん、総くんは?」


「そんなの決まってるだろ、考古学部だよ。」

「好きだねぇ。」

「当たり前だろ。

なんのために考古学部がある御中高校に入ったのかってことだよ。」


そう言うと、裕美子は笑った。

俺は昔から、父親の影響で考古学が好きなのである。


父は今、仕事で出雲に行ってるらしかった。

というのも、

行先を伏せてるらしく、俺が母にしつこく聞くと母がこっそり教えてくれた。


母には、誰にも教えるなと言われたけど、裕美子にだけは教えてしまった。

というのも、裕美子のやつが無理に聞いてきたために、俺も母と同じでついには折れてしまい、しぶしぶではあるものの答えてしまったのである。


俺の父と裕美子の親父さんは同じ研究所の上司と部下で、

裕美子も自分の父親がどこにいったのか知りたかったが、

お袋さんが教えてくれなかったらしい。

そこで、俺なら知ってるかもしれないと思い、俺に聞いてきたのである。


仕事でどこかに何か月も行くってのはよくあったけど、

行先を伏せてまでどこかに行くってのは今までになかっただけに

俺も裕美子も心配であった。


それにしても、俺は昔から裕美子に迫られるとどうも弱いのである。


「そのお目当ての考古学部に入ってみてどう?」

「うん、あぁそれが、まず部員が全然いないんだよ。

二年の神代部長と俺と二組の伊藤の三人しかいないんだよね。


去年はまぁまぁ部員がいたらしいんだけど、みんな卒業しちゃってさぁ、

とうの神代部長も全然部室にこないし、いたのは最初の入部のために

挨拶にいった時だけだよ。


だから、最近はもっぱら伊藤と一緒に部室で、

適当にくっちゃべってるよ。」

「それぇ、総くんには悪いけど部活変えたほうがいいんじゃない?

高校の三年間は貴重だよ。


それに、神代部長は美人さんだけど、かなりの変人で有名って話だし、

総くんも変に付き合うと悪目立ちしちゃうよ。」


裕美子のいう事は一理あった。


神代部長は確かに変人だ。

入部するために、部室に挨拶にいった時も「あぁ、そう。」の一言だけ。

何をすればいいのかとか、何かやってるのかと聞いても、

「別に何も。」と言うだけだった。


確かにそっけないし、無口だから変人扱いされるのだが、

ただ、俺は別にあの人に対して恋愛感情とかではない、

親近感とも少し違う、妙な魅力みたいなものを感じていた。


「まぁまぁ、ほどほどにしとくよ。」

「また、そうやってテキトーに受け流す。」


そう言って俺たちは入ったばかりの高校の話をしながら、

学校へと向かった。








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