第6話 開錠

「以上だ、ここから先、難しい状況に追い込まれるかもしれない。あくまでもこれらのことは憶測だが、否定はできない。ただ当初、私が想像してたよりもことは大きいのは確かだ。君達二人はどうするかね?」


私は翌日の朝、自分のテントに三人を呼び、昨夜、堂林君に話した内容の話を

伊藤君と笹木君にもした。そして、今一度、あの扉を開けるのかを彼らに聞いた。

私はもし、彼らが反対したら、別の研究所にカギと扉の窪みの発見をさせるように誘導するつもりであった。


「先生、前も言ったでしょう。我々はどこまでも付いてきます。

それにここまでやってそんな話まで聞いて、しかもあんな代物まで見せられてお預けってのは死ぬよりひどいですよ。」


笹木君はそう言って笑った。


「そうか、では、やろう。」

「はい。」


三人は返事をして、私は腹をくくった。


「笹木君は洞窟入り口の土砂の除去を、それから、伊藤君には、堂林君の代わりに発掘作業の全体の指揮を頼みたい。とりあえず、扉へはひとまず私と堂林君だけで行く。何が起きるかわからないからね。扉の向こう側の調査は開けてみて、安全が確保され次第、政府の視察が来るまでの期間、水面下で行う。


そして、これは本当に口惜しいが、いつものように記録がとれたら政府の視察のタイミングと同時に報告しようと思う。隠し続けることは不可能だし、政府は恐らく扉とその向こうの何かの存在を知ってるからこその私達の研究所への調査、発掘依頼だ。


調査のリミットは来週の火曜までの5日間とする。それまでにできる限りのことはやろう。何か質問はあるかね? 」


私は三人を見渡した。みな一様に意を決した顔をしていた。


「ないようだね、では解散だ。」


三人は調査本部第一テントを出て、準備のために各々の持ち場へと向かった。


「苦いな、」


私はコーヒーを飲みながら今回の遺跡の全体図をあらためて眺めて、自分が向かう洞窟の位置を確認した。








ー遺産ー


一時間後に伊藤君から笹木君が土砂の撤去作業が終了したと報告が入った。

それを聞くと、私と堂林君は洞窟へと向かった。


洞窟入口には笹木君が待機していた。

私たちが来たことに気づいて、彼は説明をしに近づいてきた。


「先生、堂林さん、入口の土砂はどけてますけど気を付けてください。

洞窟は封鎖されて以来、中の様子は確認できてません。


崩落が起きそうだと思ったらすぐに退避を。

それから、小さな洞窟ですけど念のために無線機を二つと救護バックを持って行ってください。あと水と携帯食料も。用心に用心を重ねて損はしませんので。」


「あぁわかった、君が言うんだ気を付けて行ってこよう。

ありがとう、笹木君。では堂林君、行くか。」

「はい。」


私は笹木君に手を振り彼と別れた。

洞窟内は少し肌寒く、湿っぽかった。扉までの距離はそんなにない、せいぜい直線距離で200mってとこだ。しかし、この時ばかりはいやに扉までの道のりが長く感じられた。洞窟内はまた、伊藤君が細工したであろうものなのか魚の骨や動物の骨、

欠けた平皿や壺の残骸などが転がっていた。


30分くらい歩いただろうか。


「先生、見えました。」


私達の視界に件の扉が入ってきた。久々に見たその扉は異様に大きく感じられた。

おおよそ、横3m、縦2~3m、といったところで、扉全体にはX文明によく用いられてる円形のフラクタル模様の装飾が施されている。


扉のちょうど真ん中には王家のレリーフがあり、レリーフ中央には例の窪みがある。

扉自体の材質はこの地でもよくある、普通の花崗岩で形成されており劣化はかなりひどい。ただレリーフの窪み以外の周辺部分だけは、

同じ花崗岩ではあるものの、少し構成してる鉱石が違うものを使っているのか、

そのため、比較的この部分の劣化はひどくない。


ちなみに、X文明というのは、まだ文明の名前が決まっていないため、この呼称なのである。なぜなら、これといった、文明を特徴づけるための文化、社会、政治体制がよくわかっていないからだ。


今回の調査が特例でなければ、私はこの文明を出雲文明と名付けてもう一度学会で正式に発表するつもりであった。しかし、今回のように正確な調査、分析ができない状況だと学会で発表しても正確性に欠けるために結果としてデマを広めてしまう危険性があった。まぁ何より昨日の夜、堂林君と話したように発表どころの話ではないってのが一番の理由でもある。


扉につくと、堂林君は伊藤君が埋めた窪みの土砂を削り落した。


「こんなもんかな。先生、やっぱり、かすかに光ってますねこの窪み。」

「そのようですね。」


私は塊を取り出し、窪みと改めて見比べたが間違いなかった。お互いに微かに青白く発光しており、材質もまったく同じものである。これは、やはりここにはめるためのものとみて間違いなさそうであった。


「堂林君、では、はめるぞ。何か、あるといけないから少しさがりたまえ。」

「はい。先生も気を付けて。」


私は両手でカギを持ち、一歩ずつ窪みへと近づいていった。

扉の一歩前まで来た時、一度大きく息を吐く。


「いくぞ。」


そう自分に言い聞かせ、私はついにカギをはめた。


すると、予想通り、カギはそこに、まるでそこにあるのが、

このレリーフの完成形であるかのように抵抗なくすんなりとはまった。


そして次の瞬間、ゴト、ガチャンと大きな音がなり、カギが力強く発光したかと思うとそれに続いて、洞窟内に地響きのようなゴゴゴというものすごい音と振動が響き渡った。私達はその振動のせいで立っていられなくなり、その場に伏せた。


「大丈夫かぁ!」

「ハァイ!」


大声をだしながらお互いの安否を確認し合った。時間にして、3分くらいたっただろうか。地響きは鳴り止み立ち上がって辺りの周囲を見渡した。


「おさまったようだな。」


扉のほうを見るとやはり扉は開いていた。


私達は立ち上がり扉の方へと歩いて行ってみると、するとそこにはさらに下へと続く石の階段があり、先は暗くてよく見えないが、どうやら奥には少し広めの空間が広がっているのが見えた。


「先生、降りてみましょう。」

「あぁちょっと待ってくれ、カギを回収しておきたい。」

「わかりました。」


私はカギを回収するために、開いた扉のレリーフの方へと向かった。


「なんだこれは。」

「どうかしましたか。」


なんと、カギはただの他のレリーフの外縁部と同じ花崗岩へとなり果てていたのだ。

また、カギをはめた窪みの淵もきれいにカギと同化しており、カギはもう完全に扉の一部になってしまっており回収は不可能であった。


「驚いたな。」

「えぇ、どうなってるのかサッパリです。」

「とりあえず、先を急ごう。」

「はい。」


私はそれ以上言葉が出てこなかった。なにより、考えるのは後にしたかった。もはや理解の範疇を超えていたからだ。

その後、私達は階段を下りていき、大きな部屋へと出た。持っていたライトを照らしながら、ざっと見たところ広さは学校の教室ほどで、部屋の中には大量の石板と部屋の中央には石棺があり、それから、石でできた小さな箱が奥にあった。


その箱はこれも石でできた台座のようにものに乗っけられていたが、

保管してるというよりそれはまるで、祀られてるようでもあった。


「すごいな、扉の向こうにこれほど綺麗なまま遺物が残っていたとは。

これで、少しはここの文明のことがわかるかもしれん。」

「全くです。」


石版を見たところ、古代文字で書かれており、詳しく見る必要があるが、

日付が事細かに書いてあることから、一種の日誌の様なものかもしれなかった。


しかし、よくありがちな壺や置物と言った、普通は故人を弔うために遺体とよく一緒に埋葬される類の品は一切見当たらなく、扉には王家のレリーフがありながら、

他の王族の副葬品には必ずあった、王族の証であることを証明する置物もなかった。


この部屋はここの遺跡で発掘された墳墓内の様子とはどれとも似つかわしくなく、部屋自体も扉とカギ同様に明らかに浮いていた。


私がどこから手を付けようか迷ってると堂林君が私に声をかけてきた。


「先生、とりあえずこの石棺をまず開けてみませんか?。手伝ってください。」

「わかった。」


私と堂林君は石棺の向かって左側に二人共立ち、

石棺の蓋を横にずらして開けるために、この厚みのある石棺の蓋の側面部分に手を置いた。


「では、いきますよ、1、2、3、はい。」


堂林君の掛け声と共に全体重をかけて蓋を押し出した。するとその石棺の蓋はゴゴゴという音ともに開き、石棺の蓋は私達がいる方とは反対の側にゴトンという鈍い音とホコリを立てながら落ちた。


舞っていたホコリが落ち着き視界が確保されると、私はその石棺の中身をライトで照らしながら覗いた。その瞬間、頭を鈍器で殴られ、その場に倒れてしまいそうなほどの衝撃が自分の体中に走った。


「なんだこれは、、、まるで宇宙服じゃないか。」


そう、そこには宇宙服のようなものをまとい、ヘルメットを被った、

人のミイラ化した遺体が横たわっていた。








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