第5話 扉とカギ
私は一通り話終え、タバコに火をつけた。
吐き出した煙は夜の暗闇へと吸い込まれるように消えていった。
それを私はなんとなく眺めながら、堂林君の返答を待った。
彼には申し訳ないが、このことを話したことで、私は少しだけ気が楽になっていた。
堂林君の方をみると驚き隠せないといったとこであろうか。
腕を組み、空を見上げ、目を瞑っている。
無理もない、私だって理解に苦しんでいた。
私も憶測で物事を語ってしまうとは、研究者として失格だ。
しかし、どうしても見過ごせず説明のつかない事象が目の前で起きてるのだ。
しばらくの沈黙の後、
彼はふぅーと大きく息を吐き、椅子に座り直し、私の方を向いた。
「先生、さすがに考えすぎということはないんですか?」
当然の答えだった。誰だって最初はそう思うし、否定したくなる。
しかし、現実とはむごいものだ。
「私も何度も考えて検証も繰り返したんだがね、どう考えても、おかしいんだよ。
京都の研究所にある原子測定器は、世界で一番最新鋭のものとなんら遜色はない。
どんなに特定に時間がかかった物質や不純物を多く含んだ混合物でも
せいぜい5日かかったくらいだ。
あそこにあるもので特定できないとなると世界のどこに持って行っても特定できない。
となると、
我々人類には特定できない未知の物質を使って作られたということになる。
そんなものが仮にこの世に存在して、民間に流れ、テロリストにでも悪用されたらどうするのかね、それこそ一大事だ。
そのために政府が隠そうとするのも、あのカギと扉を見つけて解析した今なら理解できる。
しかし、それでもだ、どうも解せないことが、三つある。
一つは、なぜこの遺跡の発見の経緯を我々に隠すのか。
二つ目は、発見だけでなく遺跡とそれに関する資料も回収し、門外不出にするのか。
三つ目は、これが一番謎なんだが、なぜそこまで隠そうとするのに民間である我々に頼んだのかだ。」
国際的な法律もほぼ同じなのだが、我が国の発掘や研究における法律には、
発掘資料の閲覧と保管は発掘担当の研究所がやる権利がある。
複合的に他の研究所とやったとしても、調査、発掘を行う前の段階で、
発掘指揮をとる研究所を会議で決め、それによって選ばれたとこが出土品や資料も管理する。
また手に入れた出土品や資料は悪用やオークションによる裏取引や情報の流出などを防ぐために定期的に政府からの視察と政府発行の出土品管理登録書への記載が義務付けられている。
昔は、政府が一括管理していたのだが、予算削減と調査、研究の活性化を促すために今の法律になった。今回の遺跡は出雲の地で見つかっており、普通であるならこれらの事項が成立するのだ。
しかし、今回は特例中の特例、これらが適用外になっている。
以上のことを加味してみても、
資料や遺跡、それから発見時には遺跡の状態はどうであったのか、これらの情報の一切を入念に分析する間もなく回収し、担当研究所に公開しないとなると、ここの遺跡の詳細な政府が求めているであろう分析は行えず、その場で、政府が資料の回収に来るまでの即席的な分析しかできない。
すなわち、どういう遺跡でいつの年代のものなのか、大まかなことしかわからないのである。それは政府にとっても、かなりマイナスのはずである。
なにせ、よくわからないものをよくわからないまま隠しながら管理するのだから。
しばらく、堂林君は思案を巡らせた後、何か考えが浮かんだのか
突然、自分に膝を叩いて口を開いた。
「なるほど、政府の連中、隠したいのは山々だが、恐らく一枚岩ではないな。
だから、民間の我々に頼んだ。
つまり、このことをばらしたい連中とそうでない連中がいるってことだ。
加えてどちらの連中かは知らないが少なくとも、あの扉の向こうにあるものの存在と正体を知っている。分析するまでもないってことだ。」
そう、そういうことなのだ。悪魔でも憶測に過ぎず、なんの証拠もない。
本当に研究者としては失格なのだが、ただ、そうとしか考えられないのである。
しかし、この堂林という男の賢さには本当に舌を巻く。私の話を聞いただけでそこまで見抜くのだから。世が世なら天下人にでもなっていただろう。
つくづく、彼が味方であり、自分のことを慕ってくれている部下であることをありがたい思った。
「しかし、先生、これからどうします? 下手に動けば本当にいろんな意味で消されてしまいますよ。これまでに我々は発掘資料もこっそり持ち出してますし。」
「そうですね、ただこれからどう手を打ってくかはさておき、扉自体はもちろん開けます。危険ですがね。というか、ここまで知っておいて、君、引き下がれるかい?
私が最初にこの文明の痕跡をエジプトで見つけ、存在を訴えても否定され続けたが、その実物が目の前にある。しかも、そこにはとても人類の手に負えそうのない代物のオマケつきです。何のために今まで研究者をやっているのかという話ですよ。
それにもう一つ付け加えるなら、政府が何を隠したがっているのかも確認しておきたいですしね。」
それを聞いた堂林君はひとしきり大笑いした。
「それでこそ先生です。さすが”執念の鬼神”と言われてるだけのことはあります。
もちろん、私は先生にどこまでもついてきますよ。」
「やめてください、そのあだ名は嫌いなんです。第一に、私は鬼神でなく御見神です。」
私は彼がそう言ってくれるのをわかってはいたが、それでもうれしかった。
「堂林君、そろそろ帰りましょう。」
私は時計を見た、十分くらいのつもりがもう十二時近かった。
「あぁそうだ、堂林君、わかっているとおもうが、今日のことはもちろん、私達以外には他言無用だよ。ただ解析を手伝ってもらった、もう一人の信頼できる知り合いにはしゃべったがね。それ以外は敵なのか味方なのかわかるまでは絶対にダメだよ。
たとえ家族であってもね。」
「はい、わかっています。」
このときの私は今思うと、相手にしようとしているもののあまりの大きさにまだ気づいていなかった。本当に大きな新発見程度に収ると思っていた。
いや、そう願っていたというのが正しかった。
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