第4話 遺跡(3)
「先生、いよいよですね。」
堂林君が調査本部の第一テントで今日の作業内容とこれまでの出土品リストに
目を通していた時に話しかけてきた。
「そうだね、他二人はどんなだね?」
「伊藤は準備はできてるそうで、あとは笹木の準備次第ですが、本人は午後には準備できるとのことなので午前は予定通りに発掘作業を進行させ、
午後に伊藤に合図して、今日合流してる柏崎研究所のチームの注意を完全に洞窟とは反対方向にある第三住居跡の方に向けさせます。
その間に、笹木に、スタッフと共に洞窟の土砂撤去準備をやらせます。」
「そうですか、伊藤君の贋作の制作も間に合ったようでよかったです。
彼には結構無茶な注文をしましたからね。」
「そのことなんですが、伊藤のやつ、先生に言われる前からすでに何個か作ってたみたいで、こないだの洞窟内でのゴミの偽造の細工を施す時についでにやったみたいです。
彼曰く(笹木が何個か別で作っといたほうがいい、なんかそんな感じがするからと言われて作りました。)だそうです。」
「まったく、笹木君の”第六感”というやつにはかなわないな。」
「まったくです。」
私と堂林君はそう言って笑い合った。
そうこうしていると、発掘作業開始の始業チャイムがなった。
「先生、時間です。」
「そうだね、では、手筈通りによろしく頼むよ。」
「はい。」
そう言って堂林君は第一テントを出て指揮所テントへと向かい、
私も作業の続きを始めた。
ー 結論からいうと、気持ちいいくらいに上手いこといった。
まるで、あんなに心配してた自分がバカみたいであったほどだ。
その夜、我々はその日の成功を祝して祝杯をあげた。
私は彼らの武勇伝を聞くために、自分のテントに招き、世間話をしながら彼らの労をねぎらった。
「笹木君よくやってくれたね、なんだかんだ結局、
君が一番重要な仕事だったからね。」
「いえいえ、堂林さんがいいタイミングで合図してくれたからです。」
堂林君は少し誇らしげに酒をあおっていた。
「明日もよろしく頼むよ。」
「はい。」
笹木君のその返事には自信が漲っていた。
「しかし、伊藤、お前の演技なかなかよかったぞ。
俺は贋作の遺物をとりに行った時、笑いをこらえるのが大変だったからな。」
「勘弁してくださいよ堂林さん、こっちは慣れないのに必死にやったんですから。
そういう、堂林さんだって最初は緊張しすぎてガチガチだったじゃないですかぁ。」
「うるせぇ。」
「先生、それよりもどうでしたあの贋作。結構な出来栄えでしょう。」
堂林君に愛想つかされたのか、伊藤君が赤ら顔でお酒の入ったグラスを持ちながら近づいてきた。
「あぁあれは驚きましたよ。
なまじ本物も一部使ってるから正直、見分けがつけられません。」
「そうでしょうとも、我ながらほれぼれしますよ。コツはですね、少し粗目のサンドペーパーを使うんですよ、、、」
それから、延々と伊藤君の作品についての熱弁と昔の仕事の話で私たちはひとしきり盛り上がった。楽しい時間というのはあっという間で、ふと時計を見るともう十一時を回っていた。
そこで、私は三人に宴の終わりを告げた。
笹木君に至っては慣れないお酒に付き合ったせいか酔いつぶれて、気持ち良さそうに眠ってしまっている。
「諸君、明日は念願の洞窟の調査だ。今日は少し名残おしいがこの辺にしよう。
詳細な説明はまた明日行う。では解散して、休みたまえ。
あぁすまないが、
伊藤君、笹木君を彼のテントまで運んでいってあげてくれ。」
「はい。」
そうして、酔いつぶれた笹木君に重そうに肩をかしながら伊藤君は自分の住居テントへ帰って行った。
「では、先生、私も自分のテントに帰ります。」
打ち上げの片づけの手伝い終えた堂林君が私のほうを向いて一言いい、出ていくとこだった。
「あぁちょっと待ってくれ堂林君、少しいいかな。
酔い覚ましの散歩に付き合ってくれ。」
私は堂林君を呼び止めた。彼とどうしても話したいことがあったからだ。
「いいですよ。」
外は昨日とは打って変わって、月が出ていてほんの少し明るく、いつものように虫の鳴き声も聞こえてきた。また、少し心地よい風も吹いており、酔い覚ましにはちょうど良かった。私達は世間話をしながら調査キャンプ内を五分ほど歩いて、
調査本部のテント基地の外にある発掘スタッフの休憩用に設置してある長椅子にこしかけた。
「そういえば、先生、あれ以来、あの塊はどうなっさたんです?」
「あぁ、あれは、一度伊藤君と笹木君にも見せて、私のテントにある金庫に保管してるよ。」
自分の金庫の中なら、だれも開けて中を覗くことはできないと思ったからだ。
「あいつら、何か言ってましたか?」
「やっぱり、堂林君と一緒で不思議がってたよ。こんなの見たことないって。」
「ですよね。やっぱり異常ですもんね。」
「あぁ全くだよ、、」
力なくそう答える。そしてそれを紛らわせるかのように空を思わず見上げる。周りに集落もなく明かりらしい明かりもないため、星々がキレイに輝いているところをはっきりと見ることができる。しかし、そのあまりの美しさに吸い込まれそうになる恐怖すら覚える。私は腰掛けていたベンチに座りなおした。そしてここ最近、ずっと考えていたことを堂林君に切り出して打ち明け始めた。
「突然ですまないがね堂林君、明日のことなんだがね、今までとは違って、
本当に正直どうなるか予想はついていないんだよ。」
「何を今さら、なんだか先生らしくないですよ。
これまでもこういうことは幾度となくあったじゃないですか。」
「確かに、今までの発掘調査でも似たようなことは何回もあった。
だけどね、それらは、これまでの研究で集めて解析してわかったことや周辺の出土品の状況を照らし合わせながら行ってたからある程度の予測はできたんだよ。
ところが、前にも言ったけど、今回のは明らかにこれまでの事例とは異なっている。なにせ、今までにあんなものは見たことがないからね。
少なくとも私の長年の研究において、あの手の代物は初めてだ。
詳しいことは明日、二人もいる時にも話すつもりだが、
堂林君、君には先に言っておこうと思う。」
ここまで私が話した時、私のただならぬ雰囲気が伝わったのか堂林君は真剣な面持ちで私の方を見た。
「実は、この準備までの二週間のうちに、現場の外であの球状の塊を
知り合いのいる京都の私立研究所で極秘裏に調べさせたんだ。」
「えぇ! 先生、検問があるのによく持ち出せましたね。」
「うん、大変だったけどうまいこといったよ。妻にも少し協力してもらったがね。」
これには本当に骨が折れた。寿命が幾ばくか縮む思いを何回かしたのはこれはまた別の話にしておこう。
「なるほど。あぁ、すみません、話を遮りました。」
「別に構わないよ。では、話を戻そうか。あの塊の解析結果だがね、私は結果を見た時愕然としたんだよ。あの塊に使われてる物質の解析結果が全て検出エラーになってるんだ。」
それを聞いた瞬間、堂林君はすかさず答えた。
「そんなことありえないでしょう。」
「あぁ、私もそんなはずはないと言い、再度、あらゆる最新鋭の機械や検出方法を試したんだが全てエラーになって特定できないんだ。しかもエラーになる原因も、結局まだわかっていない。君たちと宴会を始める前にも、もう一度その京都の研究所に尋ねたんだが結局わからずじまいだ。」
「そんなことって、、」
「そこで、せめて扉の方だけでも何かわからないかと思い、
伊藤君に洞窟を封鎖する前に、扉を少しばかし詳しく調べてもらったんだ。
それが、窪み以外の部分はこの遺跡によく使われてる石材となんら変わらない、
ただ、窪みのとこだけはどうやら塊と同じ素材が使われてることがわかった。
それ以外は何もない。何の変哲もないただの壁みたいな扉があるだけだった。
結局、あれらの遺物の発見以来、結論としてわかったことってのは、
あの塊があそこにはめるためのものであることが確実になった、それだけなんだよ。」
そう本当にそれだけだった。
「これは、私の憶測の域をでないんだがね、あれはこの遺跡の時代の技術を超越していると思うんだ。
私も最初、確かに異質なものであるとは思っていたが、
しかし、何かしら、解析を経ればそれが何で、作られてるのかくらいは、
特定できると思ったんだが、それすら叶わない。
こんなことは今までになかった。はっきりと言って異常だよ。
政府は恐らくこの遺跡というより扉の向こうのものを探してるんじゃないかと私は思う。しかも、それを必死になって隠そうともしてる。
そう考えると、今回の異例の調査はある程度納得がいく。
何が言いたいのかというとね、もし私の憶測が当たっているとするなら大げさかもしれんが、我々は今後、自分の身の振り方や身内の安全だけでなく、この大和の国、
いや、人類全体のことを考えなければならないかもしれないということだよ。」
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