幕間 佐伯美弥子の自己嫌悪 ※エロ注意
昔から自分は何故か周囲からやたら美化して見られている、というのは自覚していたけど、実際の私はそんな大層なものじゃない。見てくれは確かに良いのだろう。でも、中身はどこにでもいる普通の女の子だ。精神年齢は実年齢より少しだけ高いかもしれないけど、所詮はその程度だ。
可愛いものを見たら癒されるし、美味しいものを食べたらテンションだってあがるし――好きな人が私以外の誰かと過ごしていたら、やきもちの十個や百個だって焼く。焼かないほうがどうかしてる。
だから、佐奈がクラスメイト――というか、彼女の友達と一緒にテスト勉強をしていると聞いて、私はいてもたってもいられなくなった。
なにしろ、あの佐奈だ。変なところで鋭い癖して、恋愛にはこれ以上無いと言っても過言じゃないくらいに鈍感さが極まっている、あの佐奈なのだ。その上、頭一つどころか全身分飛び抜けているくらい凄まじい美少女だという自覚すら無いのがまた性質の悪さを際立たせる。
唯一の救いは、佐奈が自己主張をしない大人しい性格な上、表情の変化が乏しくて冷たく見えてしまうせいで自分の周囲に人を集めにくいということだ。彼女はそんな自分があまり好きではないように見える。しかし、佐奈には悪いけど、私にとっては好都合と言える。
芸能人でも滅多とないほど図抜けた美少女なのだから、私から見ても佐奈と仲良くなりたいと思ってる生徒は相当数いる。けれど、先の理由から佐奈自身が知らず知らず
裏を返せば、その生き残りは非常に強力なライバルたり得るわけで、一応は恋人関係にあってリードしているとはいえ、まだ気持ちは私からの一方通行に等しい。
また、佐奈は天才肌の芸術家らしく、己が好奇心に忠実な子だと思う。放っておいたらきっと、凡才の私からなんて簡単に離れて行ってしまうだろう。そんな状態で高みの見物なんか出来るわけもなく、これでも、とにかく彼女が離れていかないよう、誰かに取られないよう必死だ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか――おそらく、いや、間違いなく知らないだろうけど――友達とテスト勉強会と来た。
看過出来る筈が無い。
多少強引ながらも、佐奈にはそれくらいでなければ通じない。そもそも通じてるかどうかも怪しいが、とにかく出来ることはしなくてはならない。その甲斐あって、彼女に勉強を教えるという名目を得て、私は佐奈の家に行けることになったのだ。
前日の夜、遠足が楽しみ過ぎて中々眠れない小学生の如く深夜三時まで寝付けなかった。しかし、睡眠不足何するものぞ。佐奈とのお勉強デートを前に、敵など居ようものか。
ルンルン気分で佐奈の家に到着し、玄関で茶番劇を演じた後、彼女の部屋に通してもらった。室内は殺風景ではないものの、ぬいぐるみやアイドルのポスターだとかの、いかにも女の子らしい部屋というのでもなく、画家・朝倉佐奈らしいと言えばいいのか、数点の絵画が飾られている落ち着いた雰囲気だった。そして、冷房が良く効いた部屋だった。
その後は勉強も捗り、美味しい昼食もご馳走になり、かねてから見てみたかった佐奈のアトリエも見せてもらい、おまけに佐奈の私服エプロン姿で眼福まで得られた。彼女がお嫁さんになったらこんな姿を毎日見られるのかなと妄想したことは秘密だ。
おやつを頂いて少しして。お手洗いに行きたくなったので、佐奈に場所を聞くと一階にあるという。それに従って目的地へ辿り着き、お花を摘み終えて出たところで、佐奈のお母様とバッタリ出くわした。
「あら……」
昼食とおやつを持ってきてくれたとき、二回とも佐奈はすぐにドアを閉めてしまって挨拶もろくに出来なかったから、好印象を持ってもらうためにもここはぜひしておかなければと意気込む。
「お手洗い、お借りしました」
「好きに使ってくれていいのよ」
「ありがとうございます」
さすが母と子という関係なだけあって、本当に美人な人だし、スタイルも抜群に良い。けど佐奈とは違って、表情はしっかり変わって、ニッコリと笑みを浮かべている。
「その、お邪魔させて頂いているのに、ちゃんと挨拶もせずすみません。私は佐伯美弥子と申します。佐奈さんにはいつもお世話になっています」
「今時、珍しいくらい礼儀正しい子ね。佐奈の母の、朝倉
「迷惑だなんてそんな……。私が好きでやっていることですから。私こそ、昼食とおやつ、ご馳走様でした。とても美味しかったです、ありがとうございます」
「口に合って良かったわ」
パッと見の印象は佐奈と似ていて、やっぱり綺麗過ぎてとっつきにくそうに思える。でも話してみると物腰は柔らかく、笑顔を絶やさない朗らかな人だ。きっとモテモテだったに違いない。下手すれば、既婚である今でもモテているのではないか。この人を繋ぎ留め続けられる旦那さんにコツを聞いてみたくなった。
一通り挨拶を済ませ、佐奈の待つ部屋に戻ろうとしたところで、
「少しだけ、いいかしら?」
お母様――美織さんに呼び止められた。彼女は先ほどのまでの笑顔に少しだけ心配さが混じったように見える。
「あの子はちょっと――ううん、大分変わった子でしょ? だから、友達も少なくてね。あの子、学校でのことあまり話さないから上手くやれてるのか、やっぱり母親としては心配で……。美弥子ちゃんから見てどうかしら?」
「そ、そうですね……」
こんな質問をされると思わなかったから、どう答えるべきか考える素振りを見せながら、チラリと美織さんを見る。先ほどの表情から変化は見られないが、私に向けてくる目は真剣そのものだ。母親として本当に佐奈のことを想っているのだろう。
なら、私だって本当に思っていることを伝えるべきだ。大好きな佐奈のことだから、尚更誤魔化したようなことは言いたくない。
「確かに、佐奈は変わってると思います。人を寄せ付けない雰囲気だったり、独特な感性といいますか……そのせいで、学校内でも浮いた存在であるというのは間違いないです」
「そう……そうよね」
やや落胆した様子の美織さんに、私は真面目な表情から一転――柔らかい笑みを浮かべて続ける。
「でも、それはいけないことでしょうか?」
「え?」
「前に倣うのは簡単です。でも何か一本芯の通ったものをもって、自分の世界を造り上げるのは簡単なことのように見えて、とても難しいことです。私だって全然駄目で……。けど、佐奈はそれを持ってますから、私にはとても魅力的に見えます」
「そう……」
美織さんは少し面食らったような顔をしたあと、少し子供っぽい笑顔になった。
「よかった。佐奈が美弥子ちゃんの話をする時はいつもどこか嬉しそうにしてるから、どんな子なんだろうって気になっちゃって。試すような真似してごめんなさい。親バカだとか子離れ出来てないとか思われるだろうけど、やっぱり大切な娘だから、ね」
「い、いえ。私こそ知ったような口をきいてしまって……」
そりゃそうだ。なんといっても、あの佐奈の母親なんだ。娘のことを分かっていないはずがない。なのに私はベラベラと……。ああ、恥ずかしい。十七歳の夏、私は穴があったら入りたいという諺の意味を身を以って知ることになった。
「これからもあの子と仲良くしてくれると嬉しいわ」
「もちろんです! むしろ私からお願いしたくらいで――」
「ふふっ、じゃあよろしくね、
「は、はい……」
そうして、美織さんは意味深な笑みを浮かべてリビングへ戻っていった。
恙無く勉強会は終わる筈だった。でも、私がお手洗いに立ったせいで、事件が起こってしまった。いや、起こしてしまった。
美織さんとの話を終えて戻ってきた私を待っていたのは――
「すぅ…………すぅ…………」
ベッド上で無防備に寝顔を晒した佐奈だった。寝顔を見るのはこれで二度目だ。しかし一度目――デート帰りの電車内では私にもたれかかるように寝ていたから、横顔しか見られなかったけど、今度は正面からバッチリ見ることが出来る。
これは貴重なものだ。起こさないようそっと近付き、髪が触れないよう耳へかき上げ、覗き込むように腰を下ろした。
自室なだけあって随分とリラックスしている様子の佐奈は、意外にも大きい二つの膨らみを規則正しく上下させ、穏やかな寝息を立てている。どんな夢を見ているのかな。私は彼女の夢に出ているだろうか――と思った矢先、
「んんぅ……。おねえ、ちゃん……だめって…………言って……」
自分のこめかみがピクリとしたのが分かった。どうやら私は自分が思っている以上にやきもち焼きらしい。その時だ。私の脳裏にある考えが過ぎったのは。
しかし、佐奈は寝ているわけだし、これはいくらなんでも駄目じゃないだろうか。私の良心が、中々それを許してくれない。
「あゆみちゃ……そこ、違…………」
その瞬間、私の良心は弾け飛んだ。最後のほうはよく聞き取れなかったけど、あゆみちゃんというのは確か佐奈が一緒に勉強をしていた子のはずだ。
まだ見ぬお姉さんだけならまだしも、私を差し置いてクラスメイトが出てくるなんて、美弥子裁判に於いて佐奈は有罪確定である。ならば刑の執行は当然されるべきだ。しなければならない。完璧な言い訳が用意された思春期真っ盛りの恋から来る情動を止められるはずが無い。
「夢の中でも佐奈が見ていいのは私だけなんだから」
私は覆いかぶさるようにして、佐奈の瑞々しい桃色の唇に自らのそれを押し当てた。柔らかい感触が伝わってくる。
それが――不味かった。
触れていたのはたったの数秒間。だけど、まるで私たち二人を残して世界が静止したかのような、佐奈だけしか感じられない不思議な空間に嵌まり込んでしまった感覚だった。
「うぅ……」
少し息苦しかったらしい佐奈が漏らした声で我に返った私は、運動したわけでもないのに心臓が激しく鼓動し、息を荒げて数歩、後ずさってへたり込むように座り込んだ。
好きな人と――佐奈とキスをした。眠っている相手に一方的にしたことに幾許かの罪悪感が無いといえば嘘になるが、後悔なんて微塵もしていないし、それどころか妙な高揚感さえあった。
自然と、手は
チラリと佐奈へ視線をやるが、ぐっすりと眠っていて起きる気配は感じられない。
安心してしまった私は、もう、止められない。制御の利かない手はワンピースの裾をたくし上げ、タイツの中へ――最後の砦であるショーツの中へと伸びていく。普段は何とも思わないというのにこういうときに限って、少し透け感のあるタイツ越しに見える白いショーツとそこを弄る手から、なんとも形容し難いいやらしさが感じられた。
「んっ、くぅっ……。気持ち、イイよ……佐奈ぁ」
少し前に美織さんによろしくと言われたことなどすっかり抜け落ちていて、あっさりと陥落した砦は機能せず、私は淫靡な水音を立てながら内部を蹂躙し、そして――達した。
我に返った私は、逃げるようにして自宅へ帰ってきたあと、嫌悪感にかられてベッドの上で丸まっていた。
百歩譲ってキスまではまだイタズラで済ませてもらうにしても、問題はその後だ。佐奈の部屋で、よりにもよってその本人が寝ている傍で致してしまうなんて。一体、何をしているのだ、私は。だいたいキスだって、本当は佐奈と両想いになってからだと思い描いていたのに。
なのに、佐奈という純白のキャンバスを汚したような感覚が余計に気持ちを高ぶらせるのがまた、一層自己嫌悪を強くする。
とにかく一先ず気分を変えるため、お風呂に入ろうと思い立った。
自分ので汚してしまったタイツも洗わなければと鞄から取り出し――思い出してしまった私は、
「ハァハァ、あんっ、ダメ……もうイッちゃう。ダメなの、に…………ああっ――イクッ!!」
内から沸きあがる欲望を押さえることが出来ず、また佐奈のタイツを穿いて二度目の行為に耽ってしまっていた。
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