第1球

夏。

容赦なく照り付ける太陽と、一夏で命を懸けて叫ぶ蝉の声が相俟って、最早暑苦しさのレベルは某テニス界の太陽神もかくやという領域にまで到達しつつある。

降り注ぐ日光は、部活中の学生にも容赦はしない。一般的に、野球部をはじめとする外の部活が辛いように思われるが、風で換気ができないバドミントン・卓球などの使う場所はどうなるか、想像できるだろうか。

要は。

蒸し風呂である。


バタン。

「…………」

休憩時間を部長が告げると同時の出来事である。

仰向けで大の字の形で寝転がるのは、つい先程まで練習相手を務めていた男だ。名を中海祐(なかみ ゆう)という。最近ハマっているのは学校近くのコンビニのピザまん…だったか。

「おーい、せめて隅の方へ行ったらどう」

「うぁ〜床つめてぇ〜」

「返事になってねぇし…」

「お前こそよく平気よな」

「いや普通に暑いわ」

コイツ、確か練習前にスポーツドリンク飲み干してたな。うん、馬鹿だ。


「よいしょー」

「うぐぼェッ!?」

そんな馬鹿の腹に腰を下ろした者が一名。

「なんの話してたの?」

「いや普通に暑すぎないかって」

「あー、まぁそりゃあね」

「おいまて、俺のこと無視されてないか!?」

まぁ、因果応報だと思う。


「ゆーは因果応報でしょ」

サラリと思ったことをかっさらっていった奴は、クセの強い短髪を持つ小柄な体躯が目印だ。

「いや、悠里も大概だと思う」

「そーちゃんは第三者だから気にしちゃいけない」

「どっちでもいいからはよどけや」

隠岐悠里(おき ゆうり)。

通称「男卓のネタガチ勢」。

甚だ不名誉な通称な気もするが、本人が特に気にしていないので現状問題はない。

妙に豊富なボキャブラリーとよく回る頭が紡ぐ話術がなぜか先輩方に気に入られている。

とはいえよく話すのは同級生なので特に疎まれていることもなく、ある意味潤滑油とも言える存在である。

祐と、悠里。

そして、

「蒼児ー。休憩終わるぞー」

「はーい!」

僕=出雲蒼児が、男卓一年五名の中でもよく話す三人組である。




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