Ⅳ
暑い季節だとはいえ、
次の町で程度のいい古着を買い、二人に着替えさせた。置いていってもよかったが、ネリーも一緒にラルマンドへ向かうという。
「なんで槍なんて持って旅してんの。邪魔じゃないの剣の方がカッコイイよ」
旅の途中、ネリーはのべつ幕なしに質問を続けた。はじめの頃は真面目に答えていたが、途中で相手にしなくなったのだが、それがいけなかった。こちらが返事をするまで、同じ質問を何度も繰り返す。
「はっきりいうぞ。剣よりも槍の方が強い。剣は貴族の武器だが、戦場では貴族も槍を持つ。俺は貴族様でもなんでもない。だから、一番強い槍を使うんだ」
「ふーん」
そして真面目に答えたからといって、別に納得するわけではなく、しばらくすると同じ質問を繰り返すのだ。そう、ネリーは子どもなのだ。
それに比べるとシーネは大人だった。何も求めず、こちらが頼んだことは快く手伝ってくれる。しかし、それは捨てられないように媚びているだけで、もっと自己主張してもいいのにとイライラすることもある。俺は奴隷が欲しいわけではない。
まあいい、どうせ数日のことだ。ラルマンドの町に着けば、また気楽な一人旅だ。
「
またネリーだ。とりあえずは無視しておく。
「あんた、あたしをお嫁に貰ってくれない?」
「なにいってんだ、お前」
思わず大声を出してしまう。
「だって、それが一番いいんじゃないかと思うんだよ。いまさら家に戻っても、山賊たちの慰み者になったことはいずれ知られる。そうなると、まともな相手とは結婚できない。どこかのジジイの
酷い目にあって、まともな感覚を失ってしまったのだろうか。いや、それなりの金持ちの家なら、ありえることなのだろう。娘といっても道具としてしか扱われない。そう考えると、この娘の選択は案外悪くないのかもしれない。
俺がその気になっていないということを除けば。
「それとも、あんたは年上が好みなの?」
娘はチラリとシーネに視線を送る。シーネの頬が赤く染まったような気がしたが、きっと気のせいだろう。
「風来坊の渡世人に、なにをいってるんだ。世間知らずにも程があるぞ」
「あたし知ってるよ。あんたみたいな男は自分が一番好きなんだ。自分以外には興味が無い。強い自分、誰にも頼らない自分、自由な自分。自分のこと以外に興味はないんだろ」
なかなか鋭い娘だ。このネリーという女は油断できない。
「そうかもしれんな。若いのに、なかなか頭がいい」
嬉しそうにするネリーを横に、さきほどから黙っているシーネに声をかける。
「あんたには、なにか望みのようなものはないのか。シーネさん」
「私は普通に暮らしていければ、それ以上望むものはありません」
即答だった。こちらはこちらで、生きるための目標がないという悲しさ。
「どうなるかはわからないが、できるだけの事はしてやるよ。乗りかかった船だ。見捨てたりはしないから安心しろ」
こうして三人の短い旅がはじまった。
美女二人を連れて歩く、というのは思っていたより面倒なものだった。旅をはじめて二日目だというのに、
「おい、そこの三人。ちょっと待て」
また冷やかしかと思ったが、後ろから声をかけて来たのはいかにも小役人風の男たち。
腰に帯剣。鞘の
剣客は戦うのが商売なのだが、別に好んで人殺しをしたいわけではない。特に役人を殺すと面倒だ。下手に出るくらいの頭はある。
「なんでしょう。なにか御用ですか」
上から下まで一瞥すると、小役人は
「どこへ向かっている。その女たちはなんだ」
山賊といえども殺したということは、マズいかもしれない。ことばを探していると横から快活な声。
「この人は
ネリーは自慢げに小役人へ、いわなくてもいいことを吹聴するつもりのようだ。黙れとばかりに、キッと睨むが効果はない。
「それは本当か。どこで山賊に出会った」
面倒なことになったが、天地神明に誓って間違ったことはしていないつもりだ。
その時、小役人の横にいた男が、なにかを耳打ちするのが見えた。
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