Ⅱ
「お前の名前は」
恐怖のあまり声も出ないようなので、もう一度ドスのきいた声で質問を繰り返す。
「セロラ、俺はセロラっていいます」
「仲間は何人いる。
山賊にも、山賊なりの
ためらいもなく、
セロラという男は死んだと思ったはず。別に殺したいわけではなく、情報が欲しいのだ。
「次は殺す。人を殺すことなんて、俺には大したことじゃない。他の死体と同じようになりたくなければ、質問に答えろ」
こいつが義理をたてて、命を捨てるような男なら面白いと思ったが、そんなことはなかった。
「仲間は全部で十三人。この森の奥にある洞窟で暮らしてる。だから殺さないでくれ!」
「向かって来ないなら殺さねえよ。ただ歩いているだけの俺を襲ったのはそっちだ。脅しではなく、矢は俺を狙っていた。殺そうとしたんだから、殺されてもしかたないだろうよ。お前らの塒につれて行け。お前は殺さずにおいてやる」
男は立ち上がり、トボトボと森に向かった。
山賊たちのところへ行って何をしたいのか。旅人の安全のため、などという殊勝な考えはない。
英雄好漢になりたいわけではないが、大抵の山賊たちは罪なき者を虜にしていることが多い。始めたことは、最後までやり遂げないと気分が悪いだけ。
「セロラといったか。なんで山賊なんてしてるんだ。みる限り、人殺しが好きなようには見えないが」
こちらに目を向けず、セロラはいった。
「自分も普通の百姓でしたが、年貢と人頭税が高くて家にいられなくなったんです。町に働きにいっても仕事はないし、食い詰めた仲間と西へ向かおうとしたときに、親分と出会ったんです」
暮らしに困り、山賊の仲間入り。良くあるはなしだが、こんな普通の男が山賊になるとは世も末だな。
コブハ村の件もそうだが、王の治世が良ければ山賊など増えないはずだ。政治になど興味はないが、今のセヴラウル王が即位して十五年。先代の王を知る人にいわせると、税は上がり生活は苦しくなったという。ゴロツキの俺がいうのもおかしいが、真っ当に暮らそうとする人間が正道を踏み外す国は
「その親分とやらはどうした」
「一番はじめに首を斬られたのが親分です」
頭目は死んだ。ならば残るのは烏合の衆。追い散らしてしまえばいいだろう。
歩くこと半刻。セロラが立ち止まり、この先に洞窟があると囁いた。仲間に俺の来襲を伝えるような素振りもない。
「おい、これから俺はお前たちの塒に向かう。仲間たちが逃げるのであれば、わざわざ殺したりはしない。だが、向かってくるなら斬り捨てる。ここで俺と出会ったのも何かの縁だ。お前が逃げるなら追わない。もし、この近くで姿を見かけたなら、また山賊に戻るつもりだと判断して殺す。いいな」
セロラは大きくうなずくと、いま来た道を駆け戻っていった。
あの男がどうなろうと、知ったことじゃない。運が良ければ生き延び、悪ければ死ぬだけだ。
人の歩いた跡をたどると、たしかに洞窟が見えてくる。
穴の前には見張りが一人。手には槍。まともな防具も持っていない。
「おい、山賊たち。武器を捨てて逃げ出すなら、命までは取らん。だが、戦うのであれば全員のそっ首
洞窟の前に出ると、いきなり大声で怒鳴る。
俺の姿をみた見張りは、気持ち悪い声を出して洞窟の中に駆け込んだ。
セロラが本当のことをいっているのであれば、残りは六名。
洞窟の中に斬り込むか、出てくるのを待つか。
入り口がここだけとは限らない。別の出口から逃げ出すという可能性もあるだろう。
どうしたものかと思いあぐねていると、洞窟の中から人の気配。
「おい、そこの男。武器を捨てろ。おとなしく俺たちを逃がさないと、こいつらを殺すぞ」
暗闇から姿を見せたのは、女を盾に剣を構えた男たち。
四人、五人、六人。盾にされた女が二人。セロラは嘘をつかなかったようだ。
男のために、
だが、二人の女が山賊に慰みものにされる理由はないはずだ。弱いということ以外には。
弱者は強者の餌食にされる。その弱者はさらに弱い者を襲う。弱肉強食は世の習いだというなら、より強い俺がこの世界の不条理を正してやる。
大身槍から手を離すと、ドスンという音を立てて槍が地面に落ちた。
ホッとする山賊たち。
しかし槍を捨てたのは、降参するためではない。
ガツンという音が鳴り、男が右目を押さえたときには、次の礫が宙を舞い、もう一人の女を押さえている男の額に血しぶきがあがる。
短剣を抜くと、相手との間合いを一瞬で詰め、頸動脈を掻き切る。真っ赤な血が霧のようにあたりを覆うが、その時には、隣の男の心臓に短剣を突き立てていた。
そのまま剣を腰の捻りで抜刀すると、
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