治政
Ⅰ
知りたかった。しかし知ったところで、どうということもなかった。父の
それより、気に食わないのはフゲン・ゴドリエルだ。俺がこちらに逃げることを予想し、父ちゃんの足跡をたどらせた。結局、フゲンのオッサンの手のひらの上で踊らされていただけだ。俺に何かをさせたいのか。
頭に浮かぶのは、父もオッサンに使われていたのではないかということ。まあどうでもいい。酒がまわり、いつの間にか眠っていた。
テーラの町に戻るとブリエリ町長のところへ向かい、あらましを伝える。報酬はいらないので、月に一回豚を送ることを忘れるなと念を押した。そのかわりに一つ目たちが薬草を持ってくるので、豚の代金の足しにすることも頼んだ。いずれは、森でしか取れないもっと価値のあるものを持ってこさせるので、当初の損は我慢しろとも伝えた。これで一つ目討伐は終わり。
この平和がいつまで続くのかは知らないが、天下の
はなしが終わると、その足で東へ向かう。
フゲンのオッサンは西にいる。俺が文句をいうために、引き返してくると思っているのだろうが大間違いだ。父ちゃんの情報を餌に、こき使われるつもりはない。
山の向こうには、ラルマンドという町。行ったことはないが、かなり賑わっているという噂をきく。足早に俺は東へ向かった。
弓鳴り、風音。
敵の姿は見えなかったが、左に飛びよけることで矢をかわす。
近くに弓手の姿はないので、音をきいてからでも十分に対応できた。
襲われる心当たりはないが、場所が場所だ。山賊の類いだろう。そして、人里離れた山中で
再び弓鳴り。矢を避けながら、弓手を見つけた。
右に左に、弓手に狙われないよう相手に近づこうとすると、案の定バラバラとむさ苦しい男たちが姿を見せる。
やはり賊か。
頭の片隅に弓手の場所を置き、背中を向けないようにと心に留める。
「おい、命が惜しけ――」
最後までいい終わる前に、男の首は宙に舞っていた。
もちろん魔術ではない。相手がこちらから意識をそらした瞬間に、彼我の距離を詰めただけだ。ただの素人相手なら、数の違いは問題にならない。
そのまま、首のない男の右隣を槍で突き、石突きで首なしの左の腹を打つ。
弓鳴り。
体をひるがえして、
立っているのは五人。あと弓手か。
三人がいる右に走ると、へっぴり腰で槍を突く男の喉を突き、そのまま薙ぎ払う。
首の半分が切り落とされた男は、立ったまま首を真横に
しまった。
横薙ぎで残る二人を仕留めようと思ったが、敵は武器を放り投げて一目散に逃げ出していた。
虚しく空を切る大身槍。
再び、弓鳴り。
穂先で矢を切り払うと、一歩、二歩、三歩目で槍を弓手に向かって投擲する。
グエッと鶏を絞めた時のような声を出し、弓手が倒れたのがわかる。
腰の剣を引き抜き、あたりを見渡す。残りの四人は逃げたようだ。
倒れた弓手のところへ行くと、右肩に大身槍が突き刺さった男がジタバタともがいていたので、側頭部を蹴って気絶させた。胸のあたりを踏み、槍を引き抜くと、傷口から濁った血があふれはじめる。
こいつを生かす理由もないが、このまま放置するのも気分が悪い。男の上着を細く切り裂くと、傷口のあたりを強く縛っておいた。死ぬも生きるも運命次第。こいつが生き延びることで、他の誰かが死ぬかもしれないが、知ったことじゃない。俺はやりたいようにやるだけだ。
六人が倒れている場所に戻る。五人は死んでいて、石突きで叩いた一人は気を失っている。死体から武器を取り上げるが、短剣やなまくらな山刀くらいしか持っていなかった。足を抱えて死体を引きずり、人の目が触れないところに置くと、財布を探して小銭を抜き取った。
残りの四人の体も同じように処理する。
残念だが、墓を掘る時間はない。
すべてが終わると、気を失っている男のところへ向かい、活を入れて目を覚まさせる。
「おい起きろ。山賊め。起きろっていうんだ」
少しずつ目に光が戻った男は、大身槍の血を拭う俺をみて、ギョッとした表情となった。
「あんたは……ヒッ」
死体はないが周りは血の海。なにがあったかは一目瞭然。そのうえ、手には業物の大身槍。
「目が覚めたか。お前を殺すことは
じっくり顔を見ると、目を覚ましたのは二十くらいの若者だ。頬はこけているが、悪人の要望ではなかった。
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