Ⅳ
遠くに小さな残り火、その向こうには男の姿。
見張りなら、火の場所をもう少し考えろよ。
忍び寄って首を
音を立てずにある程度忍び寄ると、片膝ついて
狙いは顔。引き金をコトリと落とせば、甲高い
くぐもった声とともに男が後ろに倒れる。すかさず忍び寄り、男の首筋へ槍を突き立てた。
これで一人。
うめき声なら、他の連中が起き出すことはないだろう。そのまま
暗闇に浮かぶ白い壁。このあたりでは、レンガ造りの壁に白土を塗っているのが普通だ。
音をたてないように、引き戸を滑らせる。体を横にして入ることができるギリギリの幅まで開くと、室内に入る。外も暗いが、室内はもっと暗い。右は台所、奥が寝室のようだ。
息を整え、
目が慣れてくると、奥が少し明るいのがわかる。
窓を開けているな。
真っ暗だと、誰が眠っているのかもわからなかったはず。奥の部屋まで進むと、寝台には二人の寝姿。一人は男、一人は女。
これは困った。この男は敵なのか村人なのかわからない。体格はゴツく、山賊といえば山賊に見える。
どうする、どうする。男がゴロリと寝返りをうつ。月の光に照らされるのは、大きな入れ墨。農民にも入れ墨を入れるものがいるかもしれないが、右半身全体という者はおるまいよ。
短剣を左手に持ちかえると寝台へ忍び寄る。右手で男の口を押さえると、左手で肝臓を素早く三回突き刺した。
男の瞳から力が失われるのを確認すると、隣の女が目を開き、ギャッと一声あげた。すかさず右手で女の口を強く押さえる。
静かな村だ、女の叫び声は響き渡ったはず。だが、きいておかなければならない。
「心配するな、助けにきた。大声を出すなよ。族は何人だ」
目が大きく見開かれ、そして光が戻った。手を口から離す。
「何人かはわからない。二十人はいた」
「この村の男たちはどうした」
女は大きく息を吸った。
「たぶん、全員殺された」
必要な情報は手に入れた。山賊に情が移っている可能性も考えたが、まだ憎しみの方が上回っているようだ。
「黙ってここで待ってろ。俺が連中に報いを受けさせてやる」
寝台は血まみれだろうが、表に出て来られると邪魔なのだ。
大身槍を取り、表に出るが敵の姿は見えない。なるほど、女の悲鳴など日常茶飯事というわけか。
ここから先は、小道に沿って両端に家がある。敵が目を覚ますまでに、ある程度の数を減らしておこう。
次の一軒は、中からつっかい棒がかけられて扉が開かなかった。用心深い奴もいるもんだ。
次の家。まるでこちらが押し込み強盗のようだ。扉は開く。ここの家に眠っていたのは男だけだった。短剣で静かに男を殺す。これで三人目。
隣の家にも同じように忍び込む。寝台には男と女。左手で、うつ伏せに眠る男の頭を後ろから強く押さえつけ、右手で脇腹を何度も突き刺す。四人目。生暖かい血が吹き出したのか、隣に寝ていた女が叫びはじめた。
まずい。口を押さえようとするが、するりと抜け出して金切り声だ。
「人殺し! 助けて! 人殺しだよ!」
仕方ない。短剣を鞘に戻すと声の方へ向かい、叫び声の源を拳で一撃。
カエルを踏んだような音がして、叫び声は止まる。ケガはしたかもしれないが、死んではいないだろう。
大身槍を手に取ると、今度こそはと覚悟して、家の外へ出る。
さすがは場数を踏んでいる連中だ。すでに斜向かいの家からは、手に剣を持った男が飛び出してきた。白壁に浮かぶ人の姿。男がこちらに気がついたとき、右手から飛んだ
ツツと間を詰めると、大身槍を一閃。うまく刃筋が通り、首がゴロリと落ちる。一拍遅れて血が噴き出した。ビチャビチャと大きな水音。いや、血の音だ。
「敵だ! 敵襲だ!」
もう忍んでいる場合ではない。近くで大声を上げる男に駆け寄ると、影のど真ん中向けて槍を押し出す。暗くて急所を狙う暇はなかった。手応えを感じたところで、穂先を捻って肉に噛まれないようにする。
思っていたより、表に出てきている連中は少ない。暗闇の中で屋外に出るのは得策ではないという判断か。
仕方ない。手近な扉のそばに寄り、入り口の脇から引き戸を大きく開く。つっかいがかまされてなくて良かった。
扉が開いた瞬間、中から槍の一突き。大身槍を持ち直し、引き戻される穂先とともに家へ入ると、槍の持ち主へ力の入った突きをくれてやる。どこへ当たったのかはわからないが、敵はギャッと一声あげると後ろへ倒れた。とどめを刺すことはできない。暗闇は友でもあるが敵にもなる。
背後から近づく複数の足音。敵さん、やっと目を覚ましたか。
建物を背にすると、白壁に姿が浮かび上がる。こちらからは相手の姿がはっきり見えないが、相手からはこちらの輪郭は見えているはず。目を閉じて心眼で戦う奴もいるが、俺には無理な芸当だ。
影の一つが躍りかかってくるのが見えたとき、石突きを右足で踏みつけて、穂先を跳躍する影に向けた。
ドンと右足に衝撃が走ると大身槍から手を離し、腰の剣を抜きざまに薙ぎ払う。
手応えあり。
もう一つの足音が消えた。
突っ立っていると弓で射られる危険がある。背を低くすると、剣を
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