Ⅳ
「こういう技を知らないらしいな。だったら、あんたに勝ち目はないぞカルテイアさん」
相手の気持ちを
今度は左肩に熱い痛み。右手の剣が動いたときには、管槍はもとの場所に戻っている。
「このままだと、勝ち目はないぞ。槍に反応できていないじゃないか」
威勢のいいことばとは裏腹に、ウェイリンは少し焦りを感じ始める。
剣の切っ先は、しっかりと喉から顔を守り、左手は心臓を覆っている。不自然に膨らんだ綿入りの
管槍を使う自分が負けるとは、夢にも考えない。だが、もう一つの不確定要素がある。
心の迷いは穂先に現れた。
不用意に放たれた喉元への突きは、剣の切っ先こそかわしたが、槍の操者の意に反して僅かに相手の喉元に届かなかったのだ。
間合いを
どのような技を使ったのかわからない。戦場で身につけた生き残るための
槍にも片手突きはあるし、柄を握る場所を滑らせる技も知っている。ところが、それは管槍には当てはまらない。左手は管を握っているし、右手は柄の一番後ろを
したりとばかりに、カルテイアは伸びきった槍の
ポロポロと零れ落ちる四匹の芋虫。
さすが師匠だ。
何度目になるかわからない感謝のことば。
「破れかぶれになると、相手は槍の螻蛄首を掴もうとするもんだ。たっぷり油をくれてやれ。錆びないし丁度いい。掴まれても気にすんな。穂先を戻せば、相手は指の落とし物だ」
管槍は早さが命。相手の肉に穂先が噛まれると命取り。肉に噛まれないよう、
螻蛄首は油で滑り、戻りの顎で指が落ちるという寸法。毛むくじゃらなので、芋虫じゃなくて毛虫か。
今度は相手が驚く番。一歩踏み込むと、管槍は正確に相手の喉仏の左を貫いた。
赤い水鉄砲が撒き散らされるが、出血を押さえる手に指はない。
ただの
今度は相手の左目を狙って力いっぱい突く。穂先は脳を貫き、カルテイアの動きは止まった。
想像していたより、はるかに強い敵だった。いつかサンディアへ行くことがあれば、ジョブロに嫌味の一つでもいってやろう。それより、今はやることがある。
「おい、馬車の中にいる
中にいるのはカルテイアの妻と赤子のはず。だが、外でチャンチャンバラバラ戦っているのに、ぐずり声もあげない赤ん坊がいるかよ。
ジョブロにハメられた。
まず頭に浮かんだのはそれ。
本当はカルテイアではなく、馬車の中にいる人物を殺させるための御膳立て。
騙されたバカは、ヤバイ相手を殺して一生お尋ね者に。渡世の仁義を守らないつもりなら、俺がジョブロをぶっ殺してやる。もちろん、本当に知らなかった可能性もないわけではないが。
頭の頭巾、顔の覆面をいま一度確かめる。これで人相はわからんだろう。
管槍の石突を地面にぶっ刺し、カルテイアの手から剣をもぎ取る。
殺さずに済む相手なら、殺したくはない。人殺しが生きがいのような奴もいるが、俺はまともだ。
馬車の中に腕が立つものはいないはず。加勢され、二対一ならヤバかった。それとも、よほどカルテイアを信頼していたか。
「三つ数える。どうするか決めろ。ひとつ、ふたつ――」
「おい、待て」
馬車の中から
いや、老人というには少し若い。年の頃なら四十前後、つまりオッサンだ。
剣をかまえ、どんな動きにも応じられるように身構える。
とはいえ、装填した
「お前は誰だ。カルテイアの妻子はどこにいる」
「女や子どもまで殺そうとするとは、本当に最低な人間だな。お前のようなクズに、カルテイアのような立派な男が殺されようとは世も末だ」
自分の命が風前の
「そこまで落ちぶれちゃいないよ。無関係な弱者を殺すのは
「なんだと。犬畜生にも劣る外道が武林を語るか、
ゆっくりゆっくり、合わせの間に手を差し入れる。急な動きだと、斬り殺されるのがわかっているからか。強く押すと飛び出す仕込み剣。筒の形をした、矢を撃ち出す
そろりそろりと男は首に掛けた紐を引き、
ああ、なんてこった。本当にこんなものを持っている奴が実在するのか。
男が掲げたのは、あの
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