第12話「戦いの終結」

 Side 闇乃 影司


 闇乃 影司は大気圏を突き抜け、地球の衛星軌道で激しい戦いを繰り広げていた。


 闇乃 影司も周辺の被害を考慮した上で変身形態に突入し、現在は第二形態になっている。(闇乃 影司の体内と一体化している変身アイテムの機能にはないイレギュラーなもので本来は全身が赤色になる完全体の二種類しかないが闇乃 影司の場合は複数の派生形態やイレギュラー形態が存在する)

 

 ライダー系ダークヒーロー然とした初期形態と比べて大きなショルダーアーマーや昆虫の羽が追加され、よりラスボス感が増しているこの形態――アーマードフォームなどと呼ばれる時がある――形態で激しい殴り合い、時折光線などが飛び交う激闘が繰り広げられている。


 さながらソレはヒーローと悪の戦いと言うより、等身大の怪獣映画のようであった。

 

(たく、野々村の野郎、自分達の保身で余所の世界を滅ぼすつもりか!?)


 分かっていた事だがそう影司には毒付かずにはいられない。

 とにかく目の前のマッシブな赤い外宇宙産ですよと言っても信じて貰えそうなフォルムの敵が想定外に強い。

 制御を誤ればこの世界に致命的なダメージを与える程に。


(地上の様子が気になるがとにかく即効でカタをつけないとな


 そして闇乃 影司は決めに入る事を選択する。


 構え。


 腰を落とし、右手を引いて――まるで刀の抜刀術のような構えを取る。

 敵も何かを察する理性を感じたのか距離を取って『グルルルルルル』と言う唸り声をあげる。


 互いに静寂の状態。


 そして闇乃 影司は数秒の間を置いて――


 ―ディメイション・スライサー―

 

 仕掛けた。


 闇乃 影司の手刀が頭部のクリスタル――敵のコア――を貫き――さらにだめ押しとばかりに次元すら切断する紫色のエネルギーの刃が手刀から発生していた。


 互いに常識を越えた存在であるにも関わらず――倒された敵も本来ならば銃弾どころかレールガンすら手掴みでキャッチ出来るレベルの存在にも関わらず、反応できずにそのまま倒されてしまう。


『念のためだ。悪く思うなよ』


 そして影司は少しばかり離れて――相手を塵一つ残さず消し去れるレベルの出力の光線技を放つ。

 細胞一欠片残さず消滅させるためだ。

 万が一この世界の邪悪な人間の手で蘇生させられたり、クローンでも作られたりしたら目覚めが悪いからだ。


『さて――もうそろそろ地上の方も決着がついてるな――』


 想定通りならもう戦局は決しているだろうと思いつつ闇乃 影司は地球に降下。

 

 元の戦場へと戻ろうとする。


『お前が闇乃 影司か』


 ふいに声が聞こえた。


 ふりむくとそこには赤い双眼、銀色の肌に鬼のような顔のパーツ。

 有機体と無機物が高度に混ざりあった角張った全身像。

 まるで古き良きRPGの魔王のような風格を全身から放出していた。

 

 幻影越しでこれだ。


 ただものではないのは人目で分かる。


『何者だ?』


『私の名はメガル・ルザード。ルザード帝国の支配者なり』


『何しに来た?』


『なあに、暫くの間。地球から手を引こうと思ったまでのことだ。その前に我が帝国をここまで追い詰めた立役者の顔を拝んでおこうと思ってな』


『――成る程。対局が不利になったから一旦引き下がると言う事か』


『その認識で構わん』


 物理的にも権力的にも力がある独裁型政治国家は、こうしたある程度の常識的かつ柔軟な判断力を持つ統治者が治めていると厄介だ。

 

 暗殺とかクーデターなど恐るるに足りないし、黙らせる事も出来る。


『そうか――じゃあ世界管理局も旧政府の連中とっちめたらこの世界から手を引く事になるだろうな――』


 とりあえず闇乃 影司も本音をぶつける。


『ほう、最後まで手を貸して我々を滅ぼすと思ったが』

 

 闇乃 影司は「ハッ」と笑った。


『それはこの世界の住民の仕事だ。それに――この世界には俺が鍛えた戦士達がいる。次はこの世界の人間がお前を滅ぼす番だ』


『ハハハハハ。言うではないか――』


『それよりも聞きたい。なぜ地球に攻め込んだ?』


『お前も分かっているのではないのか? 例えどんな大義名分があろうが力ある物が正義になる――力がなければ正義も悪も語れまいと――』


『それはただの道理だ。お前の本心はどうなんだ?』


 確かにメガル・ルザードの言い分には一定の理はある。

 力があれば何をしても許される。

 それは何世紀経とうと変わらない人類史の暗黙の了解だ。

 その到達点が核兵器が誕生した二十世紀半ばからの地球の情勢だ。


 もしも隣に虐殺だの民族浄化だの平然とやる大国がいれば、核兵器を保有したくなる小国の気持ちも分からなくは無い。

 

 だがそれは侵略の建前であり、メガル・ルザードの本音ではない。


『目の前に美味しそうな獲物があれば奪いたい。ただそれだけの事だ――それに先程の私の発言も嘘ではないし、このパワーゲームを楽しんでいる』


『楽しむ?』


『この世界には幾多の侵略者が現れ、そして滅び去った。そしてその脅威はなにも地球人類だけの問題はないと言う事だ』


『成る程な――』


 確かにメガル・ルザードは悪ではあるだろう。

 だが生存競争に生き抜くために仕方のない側面もある。

 そして戦いや政治ゲームを楽しむと言う思考は影司もある程度は理解できる。


『話は終わったか? じゃあな――』


 そして影司は帰路につき、メガル・ルザードの幻影も消えた。

 

 

 地上に降りると、戦いは一方的になっていた。


 空中ではリンダ・アイゼンバーグことスターライト(変身名)は次々と光線技やプロレス仕込みのダイナミックな投げ技、打撃技で敵を蹴散らし、相方のジュディ・ライア―ことスターカウリング(同じく変身名)も負けじと本人のおっとりとした天然ゆるふわ系な外見からは想像も付かないパワーファイトを繰り広げている。

 

 その二人を筆頭に防衛隊や世界管理局の航空戦力が進む。


 地上ではVレンジャーを中心とし、それを支援する形で防衛隊に世界管理局の部隊が展開。


 大勢は決した。


『や、やめろ!! こ、降伏する!!』


 そして残った敵の――旧政府の母艦であるスティングレイ万能母艦から降伏のサインを受諾。


 防衛隊とVレンジャーの面々は戸惑うが――


『磯部さん。これは――』


 と、現地にいる磯部 巧に通信で相談する。


『ああ。鶴姫君も同じ事を考えている。罠の可能性が高い。イザと言う時は頼めるか?』


『ああ』

 

 と、短いやり取りで段取りを決める。

 そして攻撃の手を休め――案の定20メートルサイズの大型ミサイルが発射された。


 それに戸惑う、防衛隊とVレンジャーの面々。


 闇乃 影司はすぐさま動きだし、リンダ・アイゼンバーグジュディ・ライア―の三人でミサイルの方に向かう。


『この展開読んでいたのか?』

 

 と影司はリンダに尋ねる。

 

「勿論です」


「私も――こんな事だろうと思いました」


 リンダの言葉にジュディも同じ返事をする。

 どうやら読んでいたようだ。


 遅れて世界管理局――そして基地から主砲が発砲されてスティングレイ万能母艦が轟沈する。

 

(流石は磯部さんと鶴姫さん、反応が素早い)

 

 国際法もクソもがないし、それを抜きにしても旧政府の連中は極悪テロリストである。自業自得である。


 後は最後の置き土産を片付けるだけだ。


 発射されたミサイルに三人で取り付き、そして空の彼方へとミサイルの進路を強引に変えて――闇乃 影司は直接手を触れてハッキングを試みる。


 僅か数秒で――クーリンな核ミサイル、反応弾は機能停止。


 予備プランで空中で爆破による三人で地球をバリアでの保護を考えていたが無駄になったようだ。


 それでも核の脅威を去ったことは間違いがない。


 これで本当に終わったのだ。



 Vレンジャーと防衛隊、世界管理局連合の圧勝に終わった。


 ルザード軍は撤退。


 ルザード帝国による機械将軍のバイラスの救出を許したので完全勝利とは言い難いが――


 旧政府――スティングレイ万能母艦から脱出した野々村を筆答にした連中も確保された。


 政治的取引で野々村は尋問された後、現地の防衛隊やVレンジャー達の手で法的に裁かれる事にとなる。


 反応弾とは言え、戦術核を使用したので野々村は極刑は間逃れないだろう。


 そして闇乃 影司はその容姿から恐がられたが核兵器から救った偉業が讃えられて注目を集め、防衛隊の活躍世界管理局の面々、リンダ・アイゼンバーグ、ジュディ・ライア―に奇跡の復活劇を遂げたVレンジャーも賞賛の嵐を浴びる事になった。



「行くのか?」


 Vレッド日比野 烈が尋ねた。


 あっと言う間に世界管理局が引き払う日。

 晴天の空の下でVレンジャーの面々総出で出迎えてくれた。

 既に世界管理局の移動基地は引き払っている。


 残すのは闇乃 影司やジュディ・ライア―にリンダ・アイゼンバーグだけだ。


 この三人とVレンジャーの面々はなぜかただっ広い防衛隊の訓練場に来ていた。

 女性陣は女性陣で話に花を咲かせ、闇乃 影司は男性陣と話を咲かしていた。

 

「世界管理局は多忙なんでね」 


「――また会えるよな?」


 ぶっきら棒に、かつ恥ずかしそうにブラック、黒飛 翼尋ねる。

 影司は「ああ」と返した。


「本当にありがとうございます。もう何て言ったらいいのか・・・・・・」


 Vグリーン緑川 淳は頭を下げた。


「礼を言うならルザード帝国を倒してから言え――まあ、その前に――別れの挨拶がてらに戦ってもらうんだけどな」


 そう。

 もうVレンジャーの最終決戦は近付いている。(本拠地の場所や生き方も影司が教えた)


 それに手を出す事は表だって出来ない。

 だからそのために、防衛隊の訓練場の一つを間借りして最後の模擬戦をする事にしたのだ。


 Vレンジャーの司令は即承諾してくれた。


「んじゃあはじめようか――おい、リンダ、ジュディ。はじめるぞ」 


「ああ」


 闇乃 影司達とVレンジャー。


 三対六の恨みっ子なしの真剣勝負がはじまる。



 こうして世界管理局は一つの仕事を終えた。


 しかし世界管理局は元の世界の地球の連中の尻拭いなど含めて多忙を極める。


 闇乃 影司はまた会う事を誓ってVレンジャーの世界から去って行った――


 Vレンジャー編・完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る