第10話「決戦」


 Side 勝村 昇利


 敵の動きは早かった。


 翌日になって早速仕掛けて来た。


 Vレンジャーの基地の目と鼻の先にある都市部で大規模な破壊活動を行っているらしい。


 ルザード帝国だけでなく、闇乃 影司がいた地球の機動兵器の姿や怪人なども確認できている。


 ルザード帝国はともかく、世界管理局の介入、もしくは闇乃 影司の投入を想像してもいなかったのか、もう繋がりを隠す素振りを見せないつもりらしい。


「動きが速すぎる上に嘗て無い程に大規模だ・・・・・・此方の体勢が整う前に決着を付ける腹か」


 勝村司令は今の現状をそう分析する。

 

「Vレンジャーのメンバー達は?」


 オペレーターの新島に呼びかける。


「既に配置準備出来ています」


「そうか。世界管理局は?」


「既に出動しています」


 するとモニターに世界管理局から派遣された代表の磯部 巧の顔がモニターに映された。


『事前の取り決めとは言え、緊急事態ゆえに出動させました。此方の基地も前線に動かし、避難民の受け入れを行っています』


「感謝します」


 世界管理局の基地は一種の移動要塞である。

 防御力も自分達の基地よりかは上であり、下手な施設に一避難させるよりかは安全だ。


「それで? 磯部司令殿は敵の動きをどう見ますか?」


『敵も馬鹿ではありません。陽動でしょう。其方に本隊を送り込んで壊滅させた後に此方も挟み打ちにする形で各個撃破と言う流れでしょうな』


「そちらも同じ読みですか――」


『ウチの闇乃 影司はその手にあえて乗るつもりだそうです。大方今のVレンジャーを舐めてやがるのだろうと』


「成る程――」


 司令はほくそ笑んだ。

 相手は此方のパワーアップを知らないとみて間違いないだろう。

 不満だがその想いは自分の代わりにVレンジャー達が叩き付けてくれる筈だと。


『その影司から伝言を預かっています。「さっさとぶちのめして格好いいところを市民に見せに来い、ヒーロー」と』


「スグにでも見せに行きますと伝えておいてください」


『分かりました。アレで中々ヒーローに対して拘りがある子ですからね。早めに頼みますよ』


「そんな一面が・・・・・・」


 勝村司令は影司と接してまだ一日しか経過してないのでよく知らないが、Vレンジャーの面々と大分打ち解けている部分もあるし、思った程恐い子では無いのかもしれない。



 Side 闇乃 影司


(ウチの世界の兵器にルザード帝国の兵器や怪人、戦闘員の混成部隊か・・・・・・)


 などと想いながら次々と生身で片付けていく。

 衣装は何時もの黒いヘソ出しルックにホットパンツのヴィジュアル系ロックバンドのボーカルみたいな服装だ。

 日本刀に拳銃で次々と怪人、戦闘員、戦車、飛行マシーンの区別なく落としていく。

 

 影司の戦い方は「舞」だった。


 人間離れした高速移動、跳躍能力、気配探知、シックスセンス、空中滑空、連続ジャンプ、ビルの壁走りなどを踊るように決める。


 まるで重力から解放されたかの様な一連の動き。


 世界管理局陣営からすれば見慣れたものだが、Vレンジャー基地の人員や防衛軍、避難途中の民間人からすれば「コンバットスーツをつけてないただの人」でしかないこの常識離れに誰もが言葉を失う。目撃した子供が一番冷静で呑気に「凄いね―」などと言っていた。


 そして当然攻撃の仕方も常人離れしていた。


 日本刀は刀身以上の、闇乃 影司が持つ生体エネルギーの刃を放出。

 斬撃の刃、エネルギーのカマイタチは銃弾の数十倍以上の速度で矢継ぎ早に射出され、地上、空中の敵を数十体以上を纏めて屠る。


 片方の手に持った拳銃は此方も通常の拳銃弾の数十倍の速度のエネルギー弾が敵を追尾し、マシンガンの様に放たれ、時には拡散し、大砲のように爆ぜる。


 それ達を効果的に使い分け、空中を舞うように動きながら敵を葬り去っていく様はこのスーパー戦隊や異次元の侵略者が存在するこの世界においても非現実的――美少女的な外見と相俟っていっそ美しさすら感じられた。


 圧倒的。


 向かうところ敵無し。


 これでもまだ戦闘力を抑えている。


 本当は変身して戦って武器を持たずに戦っても良いのだが手札を隠しておくにかぎる。


 旧政府を通してルザード帝国にも戦闘力は割れているだろうが――今は民間人の目がある。それにまだ変身形態はこの世界の防衛軍には刺激が強いだろう。間違えて後ろから撃たれて――死ぬ事は無いがそれでも精神的にくる物があるので今は控えていた。


 闇乃 影司はわりと繊細なのである。


「スティングレイ級万能母艦・・・・・・そんな物まで所持していたか」


 ふと角張ってズングリとした闇乃 影司の世界の人型機同兵器「アサルトライド」の頭上に着地(傍目から見ると瞬間移動したように見える速度で)し、拳銃で装甲版もろとも動力を撃ち抜き、爆散させてクルクルと回転して道路に足を付けて上空に目をやる。


 ステルス爆撃機、海洋生物のエイを連想させる黒塗りのデザインだ。

 主に影司の世界では汚れ仕事を行う連中や犯罪組織などが使っているベストセラーの戦艦である。

 攻撃よりもステルス能力に特化した艦であり、海にも潜れる上に宇宙との行き来も出来るからだ。

 積載量も中々の物だ。


 正に犯罪組織などに打って付けの艦である。


 周囲には戦闘機が出張っていて、防衛軍の戦闘機相手に性能でゴリ押しする感じで圧倒している。

 恐らくは無人機だろうなと影司は思う。

 

 前も語ったが旧政府でマトモに戦闘可能なメンバーは殆どいない。

 元の世界ならまだしも他の世界にまで付いてくる忠誠心を持った戦闘要員などほぼ皆無だ。

 旧政府はノーリスク、ハイリターンで暗躍する事を前提としている組織で表舞台に立って戦う事など想定などしていない。

 幾ら頭数揃えたところで世界管理局どころか警察の特務部隊にすら負ける可能性すらある連中なのであるが――


(ルザード帝国はともかく、旧政府側もそれなりに戦力を持っているな。バックにやはり支援している連中でもいるのか?)


 などと考えながら敵を処理していく。

 幾ら宇宙人や地球の犯罪組織の超科学力で兵器の生産コストなどは下げられても、それでもこれだけの数を揃えるのは旧政府には荷が重い。


 そもそも旧政府は防諜対策すらマトモに出来ず、こうして異世界での暗躍が筒抜けになってしまっているマヌケな組織だ。

 支援する側も相当なリスクを孕む。

 例え見返り――異世界の技術があったとしてもだ。それでも支援する奴がいたとしたら相当な物好きだなとか影司は考えた。


(上空からエネルギー探知・・・・・・こいつは?)


 上空のスティングレイ万能母艦から新手の反応を感じ取った。

 今迄の雑魚とは違う。


 アメコミ(もしくはドラゴンボー●)に出て来そうな頭が縦長のマッシブな外見の赤い凶悪そうな宇宙人と言った感じだ。

 額や椀部、胸部など所々に緑色の水晶がある。

 

「旧政府もそれ相応の備えはしていたと言う事か・・・・・・」


『その通りだ闇乃 影司』

  

 唐突にスティングレイ万能母艦から聞き慣れないオッサンの声が響いた。

 闇乃 影司の体事態が一種のコンピューターでもある。

 世界管理局のデーターベースにアクセスし、声紋分析して誰かを特定する。


「その声・・・・・・野々村か・・・・・・声が震えているぞ?」


 どうやら首謀者が出て来てくれたようだと影司はほくそ笑む。


『そんな余裕も今のウチだ! コイツはお前に対抗する為に産み出された最強の戦士だ! 幾ら貴様でも一筋縄ではいかんぞ!?』


「確かにそのようだな。てっきりアークエンジェルかと思っていたが・・・・・・」

 

 この目の前の戦士を構成している物は自分の力と同じオリジン。

 いわゆる暗黒石の複製だ。

 元々は外宇宙勢力の産物だが、影司の世界の天才、天村 志郎も暗黒石と対となる物質、妖精石の複製に成功しているし、暗黒石の力で世界の裏側で暗躍していた闇の女王は日本政府と深い繋がりを持っていた。


 旧政府の連中が持っていたとしても別に不思議ではない。


(問題は何処のどいつがそんな大それたモンを旧政府に・・・・・・いや、今はコイツが先か)


 Vレンジャーも大分強くなったが、今の彼らでもこの乱戦下ではコイツの相手はキツイだろう。

 かといって都市のど真ん中でこいつと戦えば被害が出る。


(聞こえるか? リンダ。ジュディ。この場は任せる。ちょっと化け物の相手をしなければならなくなったんでな)


(きゅー了解)


(気をつけてくださいデス)


 ビルに挟まれるように続く道路のど真ん中でお互い睨み合い、その最中念話で二人にそう言って影司は刀と拳銃を消して(体に収納して)構える。

 眼前の敵は獣の様な低い唸り声を挙げて身構えていた。

 

『目標確認・・・・・・殺す・・・・・・』


「やれるもんならやってみやがれ!!」


 両者は一旦姿を消し、そして互いの距離の真ん中で拳同士を、衝撃波を発生させて周辺の物を吹き飛ばし、周りのビルの窓ガラスを叩き割る。

 

「チィ!」


 力負けし、怯んだところに相手のラッシュが襲い来る。見掛け以上に相当なパワーファイターだ。

 相手の攻撃の速度も凄まじい。単純な身体能力なら今の闇乃 影司を超えている。

 とにかく今は落ち着いて相手のラッシュを捌く。



 Side 勝村 昇利


 モニター越しにこの戦いを見てVレンジャーの勝村司令や、オペレーターの新島はこの画像を見て様々な感情が沸き立つ。


 新たな強敵の出現。あのVレンジャーを全滅にまで追い込んだ怪人を瞬殺した闇乃 影司と互角以上に渡り合っている強敵。 


 共通して恐怖の感情を持っていた。


 だが勝村司令だけはふとある事に気付いた。


「なんて少年だ――あの速度の攻撃の連打を、彼は一発もくらっていない!!」


「い、言われてみれば!!」


 司令室で戦いを見ていた司令はその事に気付く。 


 確かに敵はとんでもない化け物だ。急激にパワーアップしたルザード帝国の戦士以上の脅威なのは間違いない。


 にも関わらず、闇乃 影司と言う少年は一見、相手のラッシュに押されて為す術もなく激しく地上と空を行き来しながら防御しているだけに見える。


 だがよく見ればそれだけなのだ。


 パワータイプな外見から想像もつかない敵の早い攻撃事態は確かに影司に当たってる。


 が、よく見ると避けて、受けて、捌いて――見事に防御している。

 慌ててオペレーターの新島は記録した映像をスロー再生にして見てみると確かに勝村の言う通り攻撃はマトモに当たっていなかった。


「ルザード帝国の戦士が簡単に負けるわけだ」


 闇乃 影司の底知れない実力の一端に気付いて二人に戦慄が走った。


 やがて両者は再び地面に軽くクレーターを地面に作って両者は着地する。


 影司は後方に退き反撃の機会を窺い、相手も出方を伺っているのか動かない。


 両方とも疲れた様子を微塵も見せていないし汗も掻いてない。

 再び睨み合う二人。 


「あの化け物はともかく、アレだけ激しい戦いをしてあの少年は全く疲れた様子を見せていない・・・・・・つくづく味方でよかったな」


「え、ええ」


 外見上、闇乃 影司は疲れた様子を全く見せていない。

 周辺の建造物やアスファルトの道路がまるで戦場跡地みたいになっている程の激しい戦いにも関わらずだ。

 勝村司令の言う通り、本当に敵でなくて良かったと思う。 


『グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 赤い怪物は一瞬姿が消える程の速度で影司に近付き、大振りの右の一撃を振り下ろす。


「うおおおおおおおおお!!」


『ガァ!?』 

 

 それを狙い澄ましたかのような巨大な赤いエネルギーの奔流が赤い化け物を包み込み、遠くに吹き飛ぶ。放出されたエネルギーの奔流は上空の敵を数多く巻き込み、雲を突き抜け、衛星の傍を掠めて宇宙にまで飛んで行った。


「で、デタラメだ・・・・・・」

 

 これを見た防衛軍の誰かがそう言った。

 短いが今の状況は適確に現した言葉である。

  

「し、司令――倒したのでしょうか?」


「いや、あの少年の様子を見る限りまだ倒していないのだろう」


 司令の言う通りこの程度でくたばる相手ではないのか、影司は自らが放った閃光の後を追った。


 勝村司令の推測通り、司令室では強大なエネルギー反応をキャッチ・・・・・・そのエネルギーパターンはあの赤い化け物の方で、アレだけの攻撃を受けて全然エネルギー反応が減少していない。それどころか、上昇していっている。


 勝村司令は心の中で(両方とも化け物だな)と思ったそうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る