第8話「メアリー・スーの苦悩」

 Side 闇乃 影司


 闇乃 影司は最悪な気分だった。


 突然のパツキン爆乳レスラーコンビの襲来。


 そして自分の弱味や過去は暴露されたと言う事。


 それを知られて八つ当たりしてしまった事。


 Vレンジャーの面々は許してくれたが――それでも心は晴れない。


 ジュディの性格のことだ。


 知られたくないアレコレも全部Vレンジャーの面々に教えたのだろう。

  

 自分のせいで死んだ人間達の事。


 自分の犯した罪。


 自分の最大限の弁護も付け加えた上で教えたのだろう。


 それでも最悪だと思った。


(特別休日期間も今日で終わりか・・・・・・)


 箱庭の中を散歩しつつ明日からどう向き合うか考え、崖の上にある桃色桜満開の一本桜に腰掛ける。

 日本でもそうだが異世界のアヤカシ界やエンディアでもこう言う場所はお気に入りだ。

 悩み事はある時。

 癒やされたい時。

 どうしてもこう言う場所を見付けては一人で静かにいる時が多い。

 

(今頃あいつらは打ち解けてるんだろな・・・・・・)


 容姿はアレだが二人とも人懐っこい性格だ。

 爆乳キャラにありがちな胸へのコンプレックスは昔は抱えていたようだが今はそうでもない。

 いざとなったらVレンジャーのピンクやイエロー、シルバーがVレンジャーの男性陣と橋渡ししてくれるだろう。


「おう、ここにいたのか」


「烈か」


 舌打ちしつつレッドの烈を呼び捨てにして周囲を見渡す。

 どうやら周辺にはVレンジャーのレッドしかいないようだ。

 この場所がバレたのはきっとあの爆入コンビ二人の告げ口だろう。


「最初お前猫被ってたんだな。それがお前の素顔か」


 最初に会ったころと変わらない調子で語りかける。

 たぶん友人の珍しい側面が見れてラッキーだとか思ってるに違いないと影司は思った。

 不思議と烈はそんなキャラクターな気がしている。


 この二年間で影司は人の悪意に敏感になってしまった。

 

 能力を使わずとも相手がある程度どんな人間か分かるようになってしまった。


 だから烈の事をそう断言出来るようになった。 


「そうだ・・・・・・最初は格好いい師匠キャラ演じてたけど、ダメだったみたい。これが本性だよ」


「ふーん。お前も苦労してるんだな」


「苦労?」


「何でもかんでも出来て、俺達を助けてくれて。俺よりも年下なのに色々と考えてて、凄いと思ってる」


「よく言われる。それでも――」


 きっと今自分は酷い顔をしているだろう。

 それでも烈は顔を変えなかった。


「あの胸のデカい二人から聞いたよ。それ以上は言わなくてもいい」


「悪い――」


「俺ここに来る途中、どう向き合うべきか考えた。だけど分からなかった。だからありのままの自分の気持ちをぶつける。俺馬鹿だし」


「そう――」


「俺、凄いなと思った。同時に悲しいと思った。聞いてて辛かった。あの子――ジュディって子が話した時とても見てられなかった――」


「・・・・・・・・・・・・」


 やはり全部話されているとみて間違いないだろうと影司は思った。


「同情されるのはイヤか?」


「・・・・・・」


「そう言う顔してるぜ?」


「・・・・・・ああ。分かっている。何時もこうなんだ――悲しい、辛い過去。忘れたくても忘れられない。だからいっそ記憶を消去しようとしたけど出来なかった」


「どうしてだ?」


「それこそ永遠の別れになってしまうと思ったから。それに――」


「それに?」


「自分の罪であり、罰だから――」


「・・・・・・」


 ただそう告げた。


「こんな時になんだけど、ずっと言いたかった事がある」


「なんだ?」


「世界管理局での仕事がこの世界が初めてじゃない。こう言う世界に来る度に思う時があるんだ」


「何を?」


「いっそ自分が悪者になって、何もかもこの世界の出来事解決しておさらばすればいいんじゃないかってな・・・・・・」


「本当にあの二人が言ってた通りの奴なんだな」


 この返し方に影司は驚いた。

 普通の人間なら嫌悪感ぐらいは沸き上がるだろう。

 影司の言った事は「てめえらは役立たずだから黙って助けられろ」と言う意味だからだ。

 受け流しているのか、気付いていないのか、あるいは両方なのか、特に表情に出さず烈は言葉を紡ぐ。


「皆を悲しませないために辛い事、苦しい事を全部引き受ける。だから無理しているって――」


「・・・・・・」


「影司の世界には、助けてくれる人はいるのか?」


「沢山いる。支えてくれる人。一緒に戦ってくれる人もいる。だけど――それでもどうにも出来ない事はあったんだ――」


「そう・・・・・・なのか・・・・・・」


「大切な人と世界の運命、どっちを選べって言う状況も経験した。例えどんなに強くても未来予知が出来てもどうしようもなかった。出来るのはそれこそ全能の神様って奴だよ――」


「・・・・・・」


「本当はもう戦いたくない。何もかも忘れてひっそりと何処かで静かに暮らしたい。でも、そうすると過去から逃げてるようで、背けるようで恐い。だから戦い続けるんだ。これから先も」


「それで本当にいいのか?」


「いいとか悪いとか関係ない。関係ないよ――ねえ、烈は知ってるんでしょ? 自分が大量殺人鬼だって? 怒りのままに人を殺してた時期もあったって? なのに皆どうして――どうして――手を差し伸べてくれるの?」


 自身が抱えている感情をここまで発露させたのは久し振りだ。


「理由なんてないんじゃないのか?」


「え――」


「困ってる人がいるから手を差し伸べる。特に泣いて困って悲鳴を挙げている奴がいたら助けたい。お前の仲間達はただそう言う当たり前の事をしたいんじゃないのか? だけど人間歳食うとそう言う当たり前の事を出来なくなっちまうらしくてな。今の社会、下手に人助けすると犯罪者になりかねないけど、俺はそう言う大人にはなりたくないな~それに俺、馬鹿らしいし――一度そうだと決めるとやり遂げないと気が済まないんだよな――」


 「まあ、つまり」と接続詞を発して顔を覗き込む。


「俺はお前を助けたい。俺が出来る事をやりたい。それに一度助けられてるからな。こんぐらいしても罰は当たらないだろう」


「・・・・・・そ、そう」


 影司は一つ確信した。

 Vレンジャーは元居た世界の、仲間達と遜色のない心の強さを持っている人達なのだと。

 ただ強いだけじゃない。

 客観的に馬鹿かと思えるぐらいのお人好しの集団なのだろう。

 Vレンジャーと呼ばれる人達は。


「なあ? もっと色々と教えてくれないか?」


「え? でも全部ジュディやリンダが話した筈じゃ――」


「そういうのじゃなくて! ほら、好きな食べ物とか、好きなゲームとか漫画とか――ここに初めて案内した時とかよくドラゴン●ールネタ使ってたって事は好きなんだろ?」


「う、うん――」


「実はフリー●とか大好きな口だろう?」


「ま、まあ確かに――復活してゴールデンになったりしてますし」


「ゴールデン?」


「あれ? 知らないんですか? ゴールデンフリー●?」


「知らないな。そういや違う世界の住民だって言ってたな。そっちだとまだドラゴンボー●続いてるのか?」 


 影司はああ、成る程と思った。

 

「そうか。この世界ではGTで止まってて、破壊神とかは存在しないのか」


 こう言うケースは珍しくない。

 世界によってはドラゴ●ボールがド●グソボールと言うタイトルになっていたりするケースもあるらしい。

  

「続きやってるんだ!? それ見たい見たい!」


「一応娯楽の品はある程度持ち込んでますけど――今すぐには――他にも戦隊者とか――」


「おお、そっちにも戦隊物あるのか?」


「ええ。秘密戦隊から仮面●イダーまでずっとずっと」


「秘密戦隊? 仮面●イダーってなんだ?」


「もしかしてその二つも無いんですか? もしかしてウ●トラマンも?」


「ウ●トラマンも、随分古い作品だな――まさかそっちも新作作られているの?」


 この分だとどうやら娯楽作品は随分変化が激しいらしい。

 極めてレアなケースだ。

 アメコミの映画ラッシュとかも、もしかすると起きてないかもしれない。


「てかお前、ヒーロー物大好きなんだな」


「ええ、まあ・・・・・・」


 影司は照れくさそうに返す。


「なあ、お前の世界について色々と教えてくれないか? 俺興味湧いて来たぞ?」


「え? その辺説明してないんですか、あの二人?」


「うん。ただ悪の侵略者が一杯やってきて、強いヒーローが大勢いて、色んな世界と繋がってて――後はわかんねーな」


「はあ・・・・・・」


 二人の説明が下手だったのか、烈の理解力が乏しいのかどっちなのだろうかと影司は疑問に思う程度にとどめておいた。



 Side リンダ・アイゼンバーグ、ジュディ・ライアー


 アメコミ風スーパーヒロイン――女子プロレスラーのリングコスチュームにも見えなくもない、胸を覆う赤い生地に☆のマークが付いた大胆な衣装を着たリンダ・アイゼンバーグ。


 角と尻尾が付いた、黒縁模様の雌牛を連想させる様な白いレオタード、ロンググローブ、サイハイブーツと言うこれまた女子プロレスラーのリングコスチュームにも見えなくもない衣装を着たジュディ・ライアー。


 その二人は空中に浮かんで遠くから影司と烈の姿を見て嬉しそうだった。


「きゅ~よかったよかった」


「どうなる事かと思いましたがなんとかなったデス」


 心配になって様子を見に来たのだが何とか打ち解ける事が出来たようだ。

 Vレンジャーの日比野 烈と言う青年。

 自分達の想像以上に凄い人なのかも知れない。

 

 そのことに二人は安心して笑みを浮かべた。

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