第6話「修行開始」


 Side 闇乃 影司


「これがあのジオラマの中ね・・・・・・」


 セシリアは感嘆する他無かった。


 故郷でも、ルザード帝国でも再現不可能だろう。

 これが魔法技術。

 巨大な城に城壁、城門。

 平原にお花畑に虹が掛かった滝。

 空は青々としている。 


 あの会議室から一気にファンタジーの世界の中に迷い込んだようだ。

 赤城 烈だけはまるで子供のようにはしゃいでいて他のメンバーは皆呆然としている。


「さて、時間のゆとりは確保できましたが、それでも時間は有限です。場所を案内しましょう」


 と、闇乃 影司が皆を案内する。

 

「基本はダイ●ラマ球ですけど、ドラゴンボー●の様な重力制御室から各種トレーニングルームまで完備しています。それとVレンジャーの変身アイテムは持ち込んでますか?」


「ああ、何時でもいけるぜ」


 影司の問にレッドの烈はウォッチ型変身アイテム、Vチェンジャーを見せつけるようにポーズを取り、「それは頼もしいですね」と影司は笑みを返す。

 

「それにしても驚いたわ。まさか修復だけでなく、強化まで一晩で終わらせるなんて」


「セシリアさんの手伝いもありましたが、過去の戦闘データーや施設とかもありましたからね。僕の知り合いもそれぐらいは出来ますよ」


 つまり闇乃 影司の世界には自分以上の天才科学者が他にもいるのだと言う。

 つくづくとんでもない世界だと思った。


「と言うかさっきから疑問に思ったけど空中に浮いてない?」


「あ、言われてみれば」


 イエローの舞の指摘にピンクの春奈が驚く。

 確かに影司は地面から少し離れ、空中に浮いていた。


「お前、空中も浮けるのか!? 凄いな!?」 

 

「烈さんも頑張れば出来ますよ」


「防衛軍の訓練に真っ向からケンカ売る様な発言だな」


 相変わらず子供の様なはしゃぎ振りのレッドの烈とは対照的にブラックの翼はそう愚痴る。

 

「鍛え方の問題ですね。ハードなのは重要ですけど、ただデタラメにハードな鍛え方をすれば強くなれると言うワケでは無いと言うのは、翼さんには釈迦に説法でしょうか?」

 

「確かにそうだが・・・・・・」


 影司の発言は一理ある。

 ただ無闇やたらにハードなトレーニングを行えばいい成果を出せるわけではない。

 徐々に体が壊れてしまい、最悪トレーニングすら出来ない体になってしまう。


 これは軍隊の訓練でも同じで、一般人を厳しい訓練に耐え抜く体にするために期間を設けている程だ。


「まあともかく、早速トレーニングルームに移動して変身してみましょう」


 烈は元気よく「おう」と返した。



 トレーニングルームに辿り着いた一行。

 野球の試合が出来そうな程に広い真っ白な空間だ。

 そこでVレンジャーの面々は変身して感触を確かめていた。


『すげえ――見た目は変わってないのに以前よりも凄い力が湧いてくるのを感じる』


 日々野 烈の言う通り、見た目は変わらないのに段違いのパワーアップをしているのを感じた。

 たった一晩で改良したとは思えない程だ。

 Vレンジャーの面々は皆大なり小なり、ブラックの翼でさえ喜びを隠しきれてないようだ。


「では僕も変身しましょうか? あ、どう見ても敵側の怪人みたいな外見だからその辺気をつけてね?」


『それはどう言う――』


 グリーンの淳が言い終わる前に変身する。


 そして皆絶句した。


 漆黒の有機的なボディ。

 頭部と胸部に輝くクリスタル。

人のシルエットを保った白い二本角の、禍々しい口を持つ赤い瞳の悪魔。

 白い髪の毛を凶悪な顔の側面と後頭部からポニーテールのようにして垂れ流している。

 どう見ても正義の戦士ではなく、悪の怪人の様な風貌だ。

 

 前以て忠告されてなければ問答無用攻撃していたかもしれない。

 ピンクの春奈はどん引きしているのかスーツ越しでも分かるぐらい体を震わせている。


『これが第一形態かな?』


『第一形態? フリー●みたいにまだ変身形態あるのか?』


『ドラゴンボー●好きだね日比野さんは。まあ、その例えが分かり易いですね』


『なんだと!?』


 その言葉に翼は過剰反応した。

 皆も同じ気持ちだった。

 先日殺されかけた相手を生身で粉砕して、変身したと言う事は生身の状態よりも強いと言うのが自然だ。どれ程の強さなのか想像も出来ない。


 にも関わらずまだ上があると言う。

 ●メック星での最終決戦でフリー●が後二回変身出来る事をしたクリリ●達の気持ちを理解出来たような気がした。

 日々野 烈は何が嬉しいのか「スゲー!!」とはしゃいでいるが。


『あ、一応手加減はするからね? 最初は攻撃しないから思いっきり攻撃を撃ち込んで来て』


『そうとは言わずスグに本気出させてやるぜ!』


 そう言ってレッドの烈が剣を片手に斬りかかった。

 以前とは段違いの早さだ。

 しかし烈は避けられ、あろうことかパワーアップしたスーツにまだ体が馴染んでないのかそのままゴロゴロと周り込みトレーニングルームの壁に激突する。


 烈を覗いた皆がシーンとなった。


『やっぱり修行を付けるのは正解だったね。さて次は誰から来る? なんなら一斉に掛かって来てもいいよ?』


『ど、どうします翼さん?』


 グリーンの淳はブラックの翼に指示を仰ぐ。


『正直烈の意見に従うのは癪だが、言う通りにした方が良いだろう』


 小声で『俺もああなりたくないしな』と言って翼はライフルを構える。

 皆もそれぞれ戦闘態勢に入った。



 シルバーとレッドの剣。

 グリーンの槍。

 ブラックの銃。

 イエローのナックルガード。

 ピンクの変幻自在の効果を持つロッド。

 

 時折、二人が肩をつかみ合って腕を踏み台にさせて勢いよく突っ込ませると言う様々な戦隊らしいコンビネーションプレイを見せる。

 高速移動も円陣を組んで共通武器のブラスターの連射で対処して見せた。

 流石は戦隊ヒーロー。連携プレイはお手の物らしい。それに咄嗟の判断力、決断力も中々の物だと思いつつ影司はギアを上げる事を決意する。


『成る程――この世界を守って来ただけの事はある。そろそろ此方から手を出してもいいかもしれない』


 一旦動きを止めてそう賛辞の言葉を告げる。


『お、いよいよやる気か!?』


 何故か嬉しそうにレッドの烈が問い掛ける。


『うん。だけどまだこの形態でも十分かな?』


『随分余裕だな』


『あの・・・・・・他のメンバーの皆さん? このレッド、リアクションが完全に何処かの戦闘民族なんだけど、何時もこんな感じなの?』


 影司の問い掛けに皆うんうんと頷いた。

 そうかと呟いて改めてレッドを見る。たぶん本棚にはドラゴンボー●の全巻とかブルーレイとか揃ってるんだろうなとか勝手に想像した。 


『じゃあ――気を取り直して――痛いからと言っても手加減はしないからね』


『俺達の仲間はそんなヤワじゃねえ! いっくぜ!』


『そう――』


 そして両者は激突した。

 レッドの剣を軽く払いのけてカウンターを入れる。

 シルバーとグリーンが両サイドから来るがグリーンの槍を力任せに引っ張ってシルバーにぶつけて蹴り倒す。

 息つく間もなく、上からイエローが強襲。

 軽く避けて反撃に出ようと思ったがピンクのロッドが発光して桃色のエネルギー弾が発射される。


(やはり一番厄介なのはピンクか――)


 一番気弱そうな中学生の小柄な少女。

 多種多様な特殊能力を持つピンクが一番厄介だった。

 先程エネルギー弾を食らったが球体に閉じ込められて拘束されたのは驚きである。そう言う兵装はあるのは事前に調べて知ってはいたが知っているのと体験するのでは天と地程も違う。


『そこ!!』


 イエローの舞がバトル漫画よろしく素早い連撃を放ってくる。ローキック、右左の突きから様々なバリエーションの拳や蹴り技。

 更にブラックの適格な射撃やピンクの能力らしき遠隔発生型バリアが割って入ってくる。

  

 そこに更にグリーンがスピードを活かして擦れ違い様に一閃。

 シルバーとレッドが剣で、イエローと挟み込むように強襲する。

 

『舐めないでほしい!』


 内心笑みを浮かべながら影司はシルバーに裏拳、レッドに足払い、イエローに肘撃ちを順に繰り出す。傍目から見ればほぼ一瞬の出来事だったろう。

 更に突っ込んできたグリーンを投げ飛ばしてピンクにぶつけ、ブラックの銃撃を躱しながら距離を詰める。

 

『ちっ!』


 ブラックは武器を放り捨てて近接格闘戦に移行する。

 軍隊仕込みの格闘術で影司でなければ通用しただろうが、影司にとっては遅い一撃だ。

 右ストレートを縦L字にした左腕で払いのけ、ローキックを相手の左足に叩き付けて姿勢を崩し、八極拳の技の一つ、両手の手の平を相手の胴体に叩き付ける双虎掌(そうこしょう)を決めて吹き飛ばす。


 ふうと一息ついて影司は変身を解除する。


「さてと、少し休憩入れましょうか?」


『いててて・・・・・・一撃が凄く重い。お前強いんだなぁ・・・・・・』

  

「まあ本当に自分の力なのかどうかと言われると疑問符がつきますけどね」


 相変わらずレッドの烈に苦笑しながら少々やり過ぎてしまったブラックに駆け寄る。

 

(結構長い期間戦ってるだけあって随分強いね・・・・・・ほんと羨ましい)


 などと内心では思っていた。

 元々影司は戦いの才能は一欠片もない。どんなに頑張っても多少改善はすれど、他の退魔師達には幾分も見劣りするレベルだ。

 そして退魔師の家系の跡取りとして産まれたにも関わらず霊力もなかった。

 

 今ある力も異星人からの人体改造で得た反則能力で得た物だからか彼達がよけいに羨ましく感じていた。


 やはり、力と言うのは苦労して手に入れて時間掛けて物にした方がナンボだ。

 その方が精神的にも肉体的にもいい。

 

 ブラック達に回復魔法を掛け終えて影司はトレーニングメニューをどうするか一人思案する。 

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