第2話「なろう系主人公とのファーストコンタクト」


 Side 勝村 昇利


 Vレンジャーの司令官、勝村 昇利(かちむら しょうり)は困惑していた。


 Vレンジャー達は司令官の制止を振り切って出動した。

 

 勝つとか負けるとかよりも無事で帰ってきて欲しい気持ちで一杯だった。

  

 モニターで戦局はある程度把握していた。


 一言で言ってしまえば状況は最悪だった。

 戦えるのはグリーンだけと言う状況。

 

 そんな時に少女――いや、彼は現れた。



 生身で敵を粉砕し、敵の将軍を生け捕りにする大戦果を引っさげて今この基地にいる。


 スパイかと思ったが全力で怪しすぎるのでそれは無いだろうと司令は考えた。


 こんな怪しすぎるスパイはスパイ失格だ。


 衣装も派手過ぎるし、なにより接触の仕方がおかしい。


 モニター越しにみていたが――そもそもルザード帝国の戦士を、Vレンジャーが全力で戦っても勝てない相手に生身一つで完勝してみせる相手だ。

 しかも全然本気ではなかっただろう。

 

 その気になればあの場にいたVレンジャーを纏めてトドメを刺す事が出来ただろう。


 にも関わらずルザード帝国ではなく、圧倒的不利なVレンジャーに協力したのは――まだ信用するわけにはいかないが自分達を助けるためだったのだろうか?


 そこまで考えて頭を切り換える。


 今から確かめるためにその少年に会いに行くのだから。



 件の少年に会いに行く頃には夜になっていた。

 今Vレンジャーの基地は敵の幹部の捕縛、Vレンジャーの装備の修理やメンバーの治療――何よりも謎の少年の存在で大忙しだ。


 担当した尋問官は「呆れるほどに大人しかった」と述べているが、話の内容は突飛すぎて理解が追いい付かないようで司令直々にアレコレ質問する事になった。


「司令――本当に会いに行くのですか?」


 傍にはオペレーターの黒髪の女性、新島 理穂がいる。

 本当は開発責任者のセシリアもいて欲しかったが彼女は優れた頭脳を持つと同時に優れた戦闘力を持ち、Vシルバーとして戦って深い傷を負ってしまっていたのでこの場にはいない。


 勝村司令は不安交じりのオペレーターに「ああ。もちろんだとも」と出来るだけ力強く返した。

 トップが頼りないと組織全体の士気に関わる。


 司令と言う肩書きも楽では無いなと思いながら彼がいる部屋に入った。


「あ、やっと来た。名前は闇乃 影司。今回は世界管理機構の職員として派遣されて来ました」


 彼は警察の取り調べ室の様な質素な部屋で大人しくテーブルについていた。

 純白のポニーテールに白い肌に切れ長の赤目。

 格好は黒一色で、まるでヴィジュアル系ロックバンドのボーカルのような衣装だ。首や鎖骨のライン、二の腕やお臍に太股のホッソリとした美脚――とても男には見えないし、男にしては露出が多い。

 自己申告されていなければ男だとは気付かないだろう。


 少年の眼前にはどう言う技術が使われているのか、空中にタッチパネルやモニターらしき物が浮かんでいた。

 インターネットでも見てそれで今迄暇を潰していたのだろうか。

 此方を見るや否やそれを消失させたようだが。


「君がそうか――色々と尋ねたい事はあるが今は礼を言う。ありがとう」


 一先ず勝村司令は礼を述べる事にした。

 

「いえ、そう結論づけるのは早いかもしれません。自分達が撒いた種を刈り取りに来ただけですから」


 だが大人びた表情で少年はそう言った。

 

 話の内容も気になるが――この少年の異質さが気になってしまう。

 司令は娘もいる。大体眼前の少年と同い年ぐらいだ。

 

 にも関わらず、歴戦の戦士の様な風格やとても大人びた雰囲気――その裏で途轍もない闇を感じる。

 目もそうだ。一見穏やかに見えるが何故だか絶望や狂気の様な物を感じてしまう。

 

 そもそも――自分達が全力で戦って勝てなかった相手を生身で倒した様な人間なのだ。

 一体どんな経緯でその力を手に入れたのか、想像出来なかった。


 いや、本能的にしてはならない気がした。


「人間観察は楽しいですか?」


 少年はニッコリと笑みを浮かべて尋ねた。


「あ、すまない」


 勝村司令は慌てて謝罪した。

 どうやら彼をみつめて考え事をしていたらしい。


「どうも。さて、何処から話した物か・・・・・・かなり長い話になりますよ?」


「そうだな。先ずは君『達』は何物かと言う事から尋ねよう。世界管理局とは何だ?」


「その話に突入する前に平行世界や異世界についての概念は分かりますか?」


「まあな」


 異世界はともかく、平行世界は最近は一般人でも知ってる概念だ。

 その理由も漫画やゲームとかでもよく使われる題材だからだそうだ。

 敵のルザード帝国も宇宙の果てから来たエイリアンではなく、異次元にある帝国らしいので平行世界、異世界からの侵略と言う解釈も出来る。


「ならば話は早いです。信じられないかもしれませんが、自分達はこの地球とは違う、平行世界の地球を拠点とした様々な異世界を他の異世界の魔の手から守護する防衛組織――それが世界管理局です」


「簡単に説明してくれるな」


「ようするに複数の世界を纏めて守っている組織と言う解釈で構いません」


「そんな組織が・・・・・・とても信じられません」


 オペレーターの新島 理穂が勝村司令の気持ちを代弁していた。

 だが、ここに来てそんなデタラメな話をする理由もないだろう。嘘ならもっとマシな嘘は幾らでもつけれる筈だ。

 それに信じなければ話は進まない。

 ここは一先ず信じて「続けてくれ」と話を促した。 


「分かりました――」


 そこから話は続いた。


 世界管理局について。

 どうしてこの世界に来たかについて。


 どうやら闇乃 影司の世界の何者かがルザード帝国に技術提供をしているらしいとの事だった。

 それを追って彼が派遣された。

 そこまで聞いて司令は次々と頭の中で疑問が解消されていった。


「成る程、そう言う事だったのか・・・・・・」


 少年が最初に言った「自分達は撒いた種を刈り取りに来ただけ」と言う言葉の意味をやっと理解出来た。

 

 つまりルザード帝国は彼の世界の何物かが技術提供した物だろうと推測できる。

 その相手が問題だった。


「君達の世界の日本政府は平行世界の地球外侵略者に対してそこまでやるのか?」


 勝村司令は怒りを抑えながらそう言った。

 とんでもなく拍子抜けする黒幕だ。

 大方理由も「相手の技術を手に入れるためだけ」とか、とてもくだらない理由だろう。

 

 一番腹が立つのは同じ日本人で平行世界の住民にも関わらず、世界を売り飛ばす様な真似を裏でしていると言う事だ。


「バイラスの記憶を読み取ったし、ブラフの可能性も考えましたが何らかの形で関わっていると見て間違いないでしょう」


「確かに全て信じるわけにはいかんが・・・・・・君自身はその可能性を信じているのかね?」


「彼達なら別にやってもおかしくありませんね」


 即答だった。


「根拠はあるんですか?」


 オペレーターの新島が答えた。


「この世界の政府は知らないけど、何時頃からか日本政府は国営悪の組織になっていた。特にここ二年間はそれが顕著でして。例を挙げれば学園島と言う巨大な一学園機関の研究成果を略奪する為にテロを行ったり、人を怪人に変えるメダルをカラーギャングを通じて売買したり、非道な人体実験を行ったり、悪の組織に支援したり事実上乗っ取られていた時もあったし――そのせいで地球連邦に参加は出来なくなったって言う経緯があります」

 

「それは全て真実なのか?」


 勝村司令は一気にスラスラと悪行を明かされて面食らってしまう。

 何故だかルザード帝国が慈善団体に感じてしまう程だった。

 オペレーターの新島何かは絶句していた。


「証拠も未だに此方の世界のネットの海に漂ってます。それに政府を利用した悪党達がインターネットを通じて政府の思惑を暴露して思惑を優位に進めるために利用している常套手段ですから――」


「成る程な――人間の最大の敵は同じ人間だと言うのか」


「まね。それに絶望して色んな奴がとんでもない事をしたけど今は関係ないね」


 勝村司令は一人の大人として、そして正義の司令官として怒りが沸き立った。

 戦隊の司令官ではあるが、この世に絶対的な正義などないぐらいには大人だと思っている。

 だがこの少年が語る政府は間違いなく正義ではない。

 悪その物だ。


「司令。気持ちは察しますけど落ち着いて――」


「え、いや――すまない」


 少年にそう言われて勝村司令は平静さを取り戻す。

 だが怒りは晴れない。


「あの、言わないんですか?」


「うん? 何がだ?」


 とても申し訳無さそうな顔で。

 視線を逸らして、まるで怒られる事を覚悟していながらも、それでも恐怖しているような顔だった。


「君達の世界のせいで、この世界はメチャクチャだとかどうとかは言わないんですか?」


 そう言われた。

 勝村司令は「ああ、成る程な」と答えた。


「・・・・・・確かに言われてみればそうだが・・・・・・だが君を責めたところで状況が好転するわけではないだろう」


「そう・・・・・・世界管理局のエージェントなんて皆やりたくないワケだよ。昔、自衛隊とか皆殺しにしてやりたいぐらい憎かったけど、被災地に派遣されて文句言われて人の為に働く彼達も今の自分みたいな気持ちだったのかな・・・・・・」

 

 この世界では防衛軍であるがそう言う話はよく聞く。

 彼も辛い立場なのだろう。

 それ以上に勝村司令は彼から感じる、「自衛隊に対する憎悪」が気になってしまった。

 

「・・・・・・君は自衛隊に恨みがあるのかね?」


「・・・・・・うん。今でも忘れられない」


 それだけのやり取りで改めて勝村司令もオペレーターも確信した。

 だがそれだけで深くは尋ねない事にした。

 

「事情は理解した。大手を振って協力態勢を敷きたいと言うところだが・・・・・・」


「世界管理局の人間の受け入れ態勢とまでは行かなくてもある程度交流できる場所を提供して欲しいです。事態は切迫している今、分かり易く砲艦外交せざるおえない立場だと自分は認識しています」


「う、うむ――しかし、君の様な少年が外交官の様な真似をしているとは」


 すると少年はクスッと笑みを浮かべた。


「意外ですか? こう見えても自分、魔界との外交官とかもやってますんで」


「魔界? 魔界とはあの悪魔とかが住まう魔界の事か?」


「そうですよ」


「君は悪魔なのか?」


「うーんと、ちょっと自分は複雑な経緯でして――元、退魔師の跡取り息子で宇宙人に人体改造を施された改造人間と言うのが正しいのかな?」


「「はあ?」」


「まあ、それが普通の反応ですよね。あ、一応変身形態あるけどかなりバイオレンスな姿してるから――あまりなるつもりは無いけど、そこだけ注意してくださいね?」


「そ、そうか――」


 一体どんな姿なのだろうかと二人は思った。

 思いはするが好奇心よりも何故か恐怖心が湧き出てくる。


 これが闇乃 影司とVレンジャーの司令官とのファーストコンタクトであった。

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