ヒーローロード・2afterYear:Vレンジャー編

MrR

第1話「Vレンジャー最大の危機に奴がやって来た」


 世界管理局。


 その任務は異世界が関わる事件を扱う特務機関である。


 一応は地球由来の組織であるが、近年は異世界との協力により規模が拡大。

 

 以前の活動範囲は異世界エンディアやアヤカシ界ぐらいだったが、この2年で更に様々な異世界での活動を行う事になる。 

 

 任務の内容も発見した異世界の調査なども含まれるようになった。


 元々は地球人が異世界で何かやらかして無いか、その逆に異世界人が地球で何かやらかしてないか・・・・・・地球の国家が偶然異世界のゲートを見付け、その先の世界で悪事を働いていないか、例えば魔法の王国が善意とはいえ、無闇やたらに魔法少女を産み出していないかとか、など――正直とても曖昧であったりする。


 一番分かり易い例は地球や管轄の異世界に他の異世界人(宇宙人含む)が攻めて来たりした場合だろう。

 過去にこのような大規模戦闘に陥ったケースは何度かあり、このケースに遭遇するたびに暫く機能不全に陥る弱点がある。


 これは世界管理局の戦闘部隊はほぼ少数精鋭で、足りない部分は外部協力者頼みで運営されている事にある。天照学園などの学園都市とかもその外部協力者の一つだがそのせいで守るべき学園を日本政府のテロに遭ったり、カラーギャング如きに乗っ取られそうになった事があり、世界管理機構はその負い目から戦力増強のために規模を拡大したのだとか何だとか。


 そうして様々な紆余曲折を経験して今に至る――


☆ 

 

 Side 闇乃 影司


 異世界と言っても定義は様々だ。


 大体は剣と魔法のファンタジー世界を連想するようだが、異世界の意味とは自分達が住む世界とは異なる世界の事だ。


 極論を言えば自分がいるたったの数秒前の世界でも異世界として扱われる。

 

 流石の世界管理局もそう言う世界は見付けてはいないが――それでも異世界は文字通り星の数だけ、冗談抜きで天文学的単位で存在すると言って良い。

 流石にそこまで見付け出してないがその辺りは世界管理機構の科学技術の限界である。


「ふーん、ここがそうか・・・・・・」


 一人の美少女のような美少年が騒がしいビルが立ち並ぶ都会のど真ん中の道路をキョロキョロと見て回る。人々は皆何かから逃げ惑っていたが彼は落ち着いていた。


 闇乃 影司。


 ポニーテールの白髪の髪の毛に綺麗な純白の肌、妖しく光る切れ長の赤い瞳、童話に出て来る様なお姫様の様な容姿。


 その反面身に付けている衣装は真逆のスタイルだ。


 真ん中に赤い星のエンブレムが輝く、黒塗りの警官帽子に見えなくもないマリンキャップ。

 細い首元を黒革ベルトで巻き付けている。

 胸元を肩紐がついていない女性用のインナーウェアがついてない、ただブラックの布を巻き付けただけでお腹や首回りのラインが丸出し。

 その上を黒いジャケットを羽織り バックルベルトで巻き付けられたホットパンツを身に付けている。

 膝下まで伸びる漆黒のソックスに黒光りするブランド物ぽい高そうなブーツ。


 そんな衣装と容姿とが組み合わさる事でビジュアル系ロックバンドの女性メインシンガーの様な印象を与える。


 彼は悪戯っぽい笑みを浮かべて眼前の光景に目をやった。

 今回は平行世界の地球で時代は2010年代の終わりぐらい。

 

 他に変わっている部分があるとすれば五人組の戦隊ヒーローが悪の侵略者と戦っているぐらいだ。

 それだけなら世界管理局も放置するが、問題は悪の侵略者側でどうやら影司達の世界の技術で――何物かが何らかの理由で横流ししていて悪の侵略者達がとんでもない強さを身に付けたと言う感じだ。


 当然戦隊ヒーロー達「Vレンジャー」達はこの急激な的のパワーアップを前に大苦戦中。

 何度も敗北、撤退を繰り返しているらしい。


 ちなみに悪の侵略者は外宇宙由来の勢力で「ルザード帝国」と言うそうだ。


 銀色のロボット型怪人に多少ビジュアル的な戦闘員達はVレンジャーを着実に追い詰めていく。

 必殺技のVレンジャーバズーカまで封じられると言う絶望的な状況だった。


『皆、諦めるな! 諦めたらそこで最後だ!!』


 レッドが皆を必死に鼓舞する。

 相手はたかが怪人一体。

 此方は六人掛かり。

 にも関わらずまだ怪人は全力を出してはおらず、苦戦を強いられる。


『ははっ!! 貴様達その程度か!? 俺はまだ全力を出しちゃいないぞ!?』


『クソ!! 舐めやがって!!』


 ブラックの叫びが皆の気持ちを代弁していた。

 体もスーツも傷付き、何度も何度も意識を手放しそうになりながら必死に抗う。


『そろそろ遊びは終わりだ!! ふん!!』


 ただの拳の一発一発で、また一人、また一人と倒されていく。


『皆、偉そうな事を言ってごめんなさい――本当に役立たずだわ』


 女性戦士、Vシルバーがアスファルトの地面に這い蹲って倒れる。


『ごめんね。私役立たずで――』


 同じく地面に体を横たわらせ、涙を流しながら小柄なピンクは意識がなくなる。  


『ピンク――お姉ちゃんの私が守るって言う約束守れなくてごめんね・・・・・・もうダメかもしれない』

 

 イエローは膝立ちになってその場に座り込み、ピクリとも動かなくなる。


『クソ、防衛軍出身の俺が――こんな不様な姿を――』


 ビルの壁を突き破り、全身から火花を散らして血を流しながら防衛軍出身のブラックが倒れる。


『諦めてたまるか――皆を守るんだ――』


 レッドも立ち上がろうとするが体の言う事が聞かず、そのまま意識を失ってしまう。


『残ったのは僕だけか・・・・・・』


 Vグリーンは死屍累々のメンバーを見渡す。


 Vレンジャーは死んではいないがまた一人、また一人と倒れていく。

 追加戦士らしい銀色の女性戦士まで倒され、最後に立っていたのは槍を使う緑の戦士、Vグリーン。

 背丈や声からしてまだ十代半ばと言った若手の戦士だ。

 ちなみに最年少はまだ中学生のピンクだ。


『貴様一人に何が出来る? Vグリーン!? 大人しく我々の前にひれ伏すがいい!』


 敵の幹部格、バイラス――ガスマスクに背中から伸びた試験管みたいなパーツ、赤いマントと言う出で立ちの幹部がVグリーンに偉そうに告げる。

 

『今度こそ、負けるわけにはいかないんだ・・・・・・皆必死になって頑張って、それでも戦わなきゃ・・・・・・』


 そう言ってボロボロになって彼方此方から血が噴き出す体を引き摺り、武器として機能しているかどうかすら妖しいひび割れている槍を片手に敵へと立ち向かおうとする。


「はあ・・・・・・見てらんないね」


 影司はヤレヤレと思いながら戦闘に介入する事を決意する。

 こうした介入は世界管理局としては褒められた事ではないが、調査の一環として皆やっていたりする。けっこういい加減な組織だ。

 

 調査を兼ねて影司は介入を決める。


 世界管理局の調査方法は人によって様々だが、大まかに分けて方法は二種類。

 現地の生活に紛れ込んでと言う風な方法から個人の武勇を売り物にして手っ取り早く信頼を集めて協力者を得ると言う日本の左翼信者が発狂するような方法である。

 影司の場合は気分による――だ。



『なっ!? 何時の間に!?』


 ルザード帝国の大幹部「バイラス」は驚愕した。

 突如Vグリーン、緑川 淳と自分達の間に割って入るように黒尽くめの美少女が現れた。

 ヴィジュアル系ロックバンド的な格好で華奢な体躯――とても強そうには見えない。


 だけど只者では無い何かを感じるが――それでも緑山 淳は下がるように言った。


『早く逃げて! そいつらは並大抵の実力じゃ叶う相手じゃ無い!!』


 痛む体に鞭を打ちながらそう叫ぶ。

 普通の人間どころか、数々の激戦を潜り抜けた自分達ですら相手にならない。

 嘗ては苦戦する時はあるが勝てるレベルだったが最近のルザード帝国は急激にパワーアップしていき、敗戦を重ねる事が多くなっている。


 防衛軍の通常戦力も立ち向かったが部隊は壊滅。


 どうにか今のルザード帝国と戦って、戦闘としての体裁が成り立つのが自分達Vレンジャーなのだ。


 だがそんな事知ってか知らずか、目の前の美女は眼前の銀色の怪人「ジルバス」に歩み寄っていく。

 人型のシルエットを保ち、鎧を身に付けたロボットと言った感じだろうが。

 シンプルなシルエットだがそれでもかなりの強さだ。

 数々の怪人を葬った、必殺の合体攻撃であるVレンジャーバズーカですらびくともしなかった。

 

 そんな相手に何らかの特殊能力を持っているだけであろう生身の人間が勝てるはずが――


『なっ――』


 緑川 淳を信じられない物を見た。

 自分達を圧倒していた銀色の怪人、ジルバスが錐揉み回転しながら吹き飛んで行く。

 バイラスの遥か後方の地面に叩き付けられ、ゴロゴロと転がったところでようやく止まる。


『い、今攻撃したのか?』


 相手が吹き飛ばされたのにも驚いたが、攻撃する瞬間が見えなかった。

 バイラスは慌てたように黒タイツに白仮面の戦闘員を嗾ける。

 ルザードトルパー。

 下級戦闘員で雑魚同然だったが最近は彼達も手強くなっている――それが群れを成して襲い掛かるが次々と殴り、蹴り――攻撃の動作がとんでもなく早くて残像が見えている。

 あっと言う間に次々と蹴散らされていった。


 ただの生身の美少女にだ。

 

『貴様・・・・・・不意打ちとは言え・・・・・・この俺に一発を当てるとは何者だ!?』


「今の肩書きは――えーと、世界管理局、闇乃 影司・・・・・・お前達、ある平行世界から技術提供の疑いが持たれている。正直どっかの平行世界から技術盗んでこの世界がどうなろうが知ったこっちゃないが、もしも自分達の世界の技術による物だったら上の連中も気分が悪いらしいんでな――それが分かるまでこの戦いに介入する。以上、説明終わり」


 と、彼は長ったらしい詭弁と方便を織り交ぜた理由を語りながら役職を語った。


『平行世界――まさか貴様も――』


 バイラスは何かを知っているようだった。


「おっ、何か知ってるみたいだね。全部話してくれない? そしたらこの場は見逃してあげてもいいけど・・・・・・」


『何をワケの分からん事をベラベラと!!』


 ジルバスは再び殴り掛かるが、片手――いや指先で受け止めていた。

 一歩も動かない。

 何かの手品でも使っているのだろうかと思ってしまう。

 

『ッ!! 舐めてやがるのか!?』


 再び何発も何発も何発も、殴り掛かる。

 拳の速度が上がっていく。


 ドンドン速度が上がっていき、拳が目にも止まらない速度になる。 


 それでも指一本で捌いていく。


「それが君の全力かな?」


『クソっ!? クソッ!? 舐めやがって!? 舐めやがって!? 俺は、俺はルザード帝国の最強の戦士として――』


「今週の最強怪人はそろそろ退場して欲しいかな」


 赤い瞳の右側が妖しく輝き、拳を振り被る。

 ジルバスの左腕が肩諸共砕け散った。

 見ると胴体まで抉られている。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 火花を全身からバチバチと散らし、ゴロゴロと不様に転がり込む。


『き、貴様は何なのだ!?』


「さっきの自己紹介通りだけど?」

 

 と、適当な調子でバイラスに返して、地面を転がっているジルバスを蹴り飛ばす。

 あまりにも蹴りの威力が強すぎるのか胴体が千切れ飛んだ。


「用があるのはア・ン・タ。洗いざらい知ってる事全部吐いて貰うかな?」


『何を――』


「拒否権ねえから」


 そう言ってバイラスの巨体の首根っこを掴んでアスファルトの地面に叩き付ける。

 この一連の動作は誰もが――バイラスやVグリーンも反応出来なかった。


「それに口を割らなくてもお前の頭から必要な情報を抜き取れるしな・・・・・・例えばこうやって――」


 そう言って左指をバイラスの、人の頭で言うならコメカミに当たる部分に突き刺した。

 中々にエグイ光景である。 

 

「ふーん、ふーん・・・・・・成る程ね。これで大義名分は揃った・・・・・・そろそろ死んでいいよ」


『ま、待て、命だけは――』


「・・・・・・」


 そう言って彼はバイラスに馬乗りになりながら、ゴソゴソと黒塗りのジャケットからコインを取り出す。  

 そして左手で握り拳を作り、親指にコインを乗せて指パッチンの要領でコインを飛ばした。

 飛ばしたコインを左でキャッチ。

 コインを眺める。


「今日はそう言う日か・・・・・・帰ってもいいよ」


 そう言って馬乗りを解除する。


『えっあれ? 見逃すんですか?』


 緑川 淳は益々の目の前の美少女のやる事が分からなかった。

 

「何かご不満?」


『え、でも・・・・・・』


「一応、もう世界管理局法の元で倒しちゃってもいいんだけど本来アイツはアンタらが倒すべき敵でしょ? その辺分かるよね?」


『まあ確かに――』


 それを言われるとグウの音も出ない。

 目の前の美少女は一般人とは言えないが無関係な人間である。

 ここまで助けて貰って置いてあれこれ言うのは筋違いと言う物だ。


「それでも納得出来ないなら今自分で倒しちゃえば?」


 そう言ってクイッと親指を指す。

 確かに今なら楽に倒せるだろう。

 バイラスは産まれ立ての子鹿の様にその場で震えている。

 腰を抜かしているのかアスファルトからロクに動けないでいた。


 これが緑川 淳と闇乃 影司の出会いだった。


「念の為、釘刺しとくけど自分男だからね」


『え?』


 出会いだった・・・・・・By緑川 淳

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