第8話 お寿司の涙。

私はお寿司が大好きな子供でした。


かと言って、

スーパーに行くにも遠い様な場所に住んでいた幼い頃は、お寿司なんてお正月くらいしか

食べられませんでした。


今はスーパーのお惣菜コーナーに行けば

毎日お寿司はありますけどね。



なので、私の誕生日にお寿司を買ってきてくれた時は本当に本当に嬉しかった。


確か小学3年生くらいの時だったと思います。


あまりに嬉しくて

お寿司が家族分入った大きな丸い桶を

頭の上に乗せて小躍りしていたのです。


「お寿司♪お寿司♪いやっほう」

てな感じに。


お寿司だけでなく三姉妹の中間子としては

誕生日だけが自分にスポットライトが当たる日だったので、余計に「いやっほう」となっていて、絵に書いた調子にノリっぷり。


そんな調子ノリ子が次の瞬間、

顔面蒼白になりました。


頭に乗せていたお寿司を、

あろうことか

真っ逆さまに落としてしまったのです。


出稼ぎでたまにしか帰ってこない父が

買ってきてくれたお寿司。


調子ノリ子、やっちまった…。


その場で父に

「何をやってるんだ!!」

と怒鳴られ、

唯一鍵のかかる姉の部屋へ逃げこみました。


速攻、鍵をかけて

布団にもぐりしゃくりあげて泣く

調子ノリ子。


しばらくすると、

姉が

「ちょっとー、私の部屋で籠城するのやめてよ」と言いに来たり、

母が

「○○ちゃん、大丈夫だから出ておいで」

と慰めに来たりしました。


それでも、誕生日なのに父に怒鳴られた事の悲しさで立ち直れずに布団の中にいました。


すると、

次の瞬間

ドーーーーン!!!!!

と大きな音と共に

部屋の扉が開きました。


父親が力づくで蹴り開けたのです。


「お前の為に買ってきたんだ!!

いいから食え!!」


そう言って泣いてる私を引きづって

お寿司の前まで連れて行きました。


幸い、お寿司にはラップがかかっていたので

シャリと具はバラバラになっていたものの

床に散らばることはなく、

桶の中に収まっていました。


その頃には調子ノリ子の影すらなく、

しょんぼりと涙を流し

お刺身とシャリのペアをくっつけながら

お寿司を食べたのでした。


これが私の誕生日のお寿司の思い出です。


お寿司の涙ではなく、

涙のお寿司。


ちなみに、

この話を息子にすると何故か大ウケです。



あと、私の誕生日エピソードには

ケーキの涙というのもあります。



これはまた別の機会に。



何にしても食べ物エピソード。

食い意地張っているのが一目瞭然です。

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