IT音痴な僕でもユーチューバーになれますか? 〜IT入門書未満なためになるネタ満載!友達と動画制作したり恋愛したり頑張る僕の青春コメディ!〜

babibu

YouTuberになりたい僕の話

動画研究会の発足

第1話 YouTuberになりたい! って思わない?

「YouTuberになりたい! って思わない? 史一ふみかず


 2019年、春のある日。

 大学の講義が終わり帰宅しようとしていた僕に、友人の良周よしちかが言った。


「YouTuber? 僕が?」


 僕は一瞬、良周よしちかが何を言っているのか理解できなかった。


「YouTuberってYouTubeに動画を投稿する、あのYouTuber?」

「まあ、間違ってはいないね。でも大正解とも言いがたい」

「じゃあ大正解っていうのは、どんな解答なのさ?」


 早く帰りたかった僕は良周よしちかかす。

 今日は水曜日、自宅近くのスーパーの特売日なのだ。僕は一刻も早く講義室ここを出て、スーパーに行かなければならない。


「そうだな。YouTuberって言うのは、YouTubeに動画投稿をする人のことかな」


 確かに僕が知っているYouTuberと呼ばれる人たちは、少なくとも1週間に1度は新しい動画を投稿しているように思う。

 僕も気に入った動画投稿者の動画は週に1度は必ずチェックする。正直な話、どんなに面白い動画を投稿する動画投稿者であっても、2週間以上投稿がないと僕はチェックするのもやめてしまう。

 そう思うと、YouTuberの条件が『継続的にYouTubeに動画投稿をする』ということなのにも頷ける。


「なるほど。それで? 良周よしちかには、僕が継続的にYouTubeに動画投稿したがってるようにでも見えるのかい?」


 僕の質問に良周よしちかは、「いいや。でも、史一ふみかずはYouTubeを観るのは好きだろう?」とハハハと笑って言った。


 良周よしちかの言うとおり、僕はYouTubeを観ることが好きだ。良周よしちかも嫌いではないらしく、僕のYouTubeトークに乗ってきてくれるので、僕は彼に何本かおすすめ動画を紹介したことがある。

 僕があまりYouTubeの話ばかりするから、良周よしちかは僕が動画投稿もしていると勘違いしたのだろうか。

 まあ、僕の行動にはそう思われても仕方がないところがいくつかある。


 インターネットで調べものをする際、僕はググったりなどしない。まずはYouTubeで検索する。

 動画検索で調べものなんて出来るのか? と思うかもしれない。だが案外目当てのものに近い動画が見つかったりするので、侮れない。『百聞は一見にしかず』というが、ネット検索に関しては『百は一見にしかず』だと僕は思っている。ブログなどを読み漁って調べるのも良いが、動画で見てしまえば理解が早まるということが多々あるからだ。

 それにお気に入りの動画投稿者のチャンネルをチャンネル登録して動画を楽しんでもいる。『チャンネル』とは動画投稿や動画へのコメント投稿、お気に入り動画を集めた再生リストを作るのに必要なYouTubeの機能だ。動画を投稿する人は必ずこのチャンネルを作っている。そして僕のようにお気に入りの動画投稿者がいる人は、このチャンネルを『チャンネル登録』する。そうすることで新しい動画が投稿されると通知を受け取れたり、YouTubeのトップ画面から目的のチャンネルへの移動をスムーズに行えるようになるのだ。


 このようにYouTubeを観るということについてなら僕は、YouTubeに割と詳しいほうなのかもしれない。

 そして、この知識を周りの友人知人にも広めがちだ。こんなに便利なのに意外と知らない人が多く、YouTubeを観ることについての布教活動について僕は留まるところを知らない。


 したがって良周よしちかの「YouTubeを観るのは好きだろう?」という問いに、僕はこう答えるしかない。


「まあ、観るのが好きなことは否定できないね」

「そうだろう。だから、YouTuberになりたい! って思わない?」


 良周よしちかはまた同じ質問を繰り返した。


「なんでそうなるんだよ。観るのが好きなだけで、動画なんて撮ったこともないのに」

「確かに、動画を撮るのは素人だ。でも、どういう動画が人気が出るかとかはある程度判るんじゃないか?」


 良周よしちかが食い下がってくる。


「人気が出そうな動画? ……そりゃあ、面白そうな動画を探すのは好きだけど」


 人気が出そうかどうかは判らないが、それなりに数は観てきた。初めの数分を観れば面白いか、そうでないかの判断はある程度つけることが出来るかもしれない。


「思い当るところがあるだろ? お前が教えてくれる動画は視聴回数が少なくても面白いものが多いからな」


 僕の表情をうかがいながら良周よしちかはニヤリと笑い、畳み掛ける。


「面白いものを見つけるのが上手いってことは、自分で作るときもその基準で動画を撮ることができると思わないか?」


 そう言うと良周よしちかは一枚の書類を僕に渡してきた。僕は思わず受け取ってしまう。


「何だい、これは? ……えっと、サークル加入届?」


 書類から目を離し、僕は良周よしちかめ付けた。なるほど、そういうことか。


良周よしちか。お前は僕をYouTuberにさせたいんじゃなくて、サークルに誘いたいのか?」

「まあね、実はそうなんだ。動画を作ってYouTubeに投稿するサークルなんだよ」


 僕の問いかけに、良周よしちかは頷いて言った。


「悪いけど、僕は夕方は忙しいんだ。今日もこれからスーパーで買い出しをして、腹を空かせて帰ってくる妹弟きょうだいに夕飯を食べさせないと……」


 僕は急に時間が気になり、講義室の壁かけ時計に目をやる。


「わかってるよ。お前の家は両親共働きで、平日は家事全般を子どもたちでやってるんだったよな」


 良周よしちかは僕の肩に手を置き、うんうんとうなずくと「だから、大学も家から近いところを選んだんだよな」と言った。


 そうなのだ、我が家は両親ときょうだい3人の5人家族。僕が長男で、下に高校3年の妹、高校1年の弟がいる。

 両親はどちらも会社員で、子どもたち全員を大学まで卒業させたいと思っている。だが子どもを3人も大学に行かせようとすると、学費が多額になるのは明々白々めいめいはくはくな事実だ。そんなわけで僕らの学費を稼ぐため、両親は毎日忙しく働いていて、平日はきょうだい3人で協力して家事を分担しているのだ。

 高校までの教育無償化の声も高まってきているようだが、残念ながら我が家には間に合いそうもない。是非とも何とかしてほしいものだ。


良周よしちか、僕の事情を良くわかってるじゃないか。じゃあ、サークルなんてやる暇がないのも知っているだろ?」

「わかっているよ。でもメンバーを5人集めないと、サークルとしての活動費やサークル室の割り当てがもらえないんだ」


 そう言った良周よしちかは「頼むよ!」と続け、僕を拝むポーズをした。


「待てよ。動画を作るっていうのは、映画研究会とか既存のサークルでじゃないのか?」

「映画研究会には行ってみたんだ。でもYouTube動画を作りたいって話したら追い返された。だから僕は新しいサークルを作りたいんだ。名づけて『画研究会』!」


 良周よしちかは自信満々に胸を張った。


「動画研究会って……、映画研究会と一文字しか違わないじゃないか。怒られないかい?」


 僕は少し不安になった。行動力には感服するが、トラブルの予感がする。


「大丈夫だよ。映画とYouTubeじゃあ、全然違うだろ?」


 まあ、確かに全然違う。クラシックとJ-POPくらい違う。だが、僕が言いたいのはそういう事ではない。

 問題は名前なのだ。とんでもなく紛らわしい。


「それにさ。もしYouTuberとして人気が出たら、広告収入を得ることも出来るんだ。お前、家事が忙しくてバイトとか出来ないんだろ? お前が作った動画が人気になれば、お前が家事をしてる間に動画が稼いでくれるようになるかもしれないんだ。それに有名にもなれるかも……」


 良周よしちかが作るというサークルに興味が持てずにいた僕だったが、良周よしちかの『収入を得られる』という言葉には興味をかきたてられた。

 先ほど我が家の状況を説明したとおり、うちの家族は少しでも収入を増やす必要があるのだ。


 良周よしちかが言った通り、YouTubeにはある一定の条件をクリアすると動画投稿者が広告収入を得る仕組みがある。しかも、僕の知るYouTuberの中には動画投稿だけで生計を立てている人もいる。そして生計を立てられるほど稼いでいるYoutuberは、大抵の場合かなりの有名人だ。

 生計を立てるのは無理でも、月に数万円でも収入が増えれば家計が少しは楽になる。

 それに有名になりたいなんて考えたこともなかったが、有名になれるかもと聞いて悪い気はしない。


 動画を作るには、どんなことをすれば良いのだろう?


 僕はYouTuberに少し興味が湧いてきた。今までただの娯楽だと思っていたYouTubeが、にわかにアルバイトのツールに見えてきたのだ。

 動画研究会なんていうサークルを立ち上げようというのだから、良周よしちかは動画投稿にある程度精通しているに違いない。彼に教えてもらえば僕も広告収入を得られるようになるかも。

 それに大好きなYouTubeの動画がどのように作られているのかにも興味が無いわけではない。

 僕は良周よしちかの作ろうとしているサークルに少し興味が湧いてきた。


「僕は本当に動画の作り方なんて知らないぞ。やり方は教えてくれるのか?」


 僕が訊ねると、良周よしちかは「もちろん!」と言って頷いた。


「5人集めるって言ってたけど、僕の他にも当てがあるのか? まさかまだ君と僕だけってことはないよな?」

「僕と史一ふみかずの他に二人、加入してくれる予定なんだ」

「へえ、すごいじゃないか。僕が加入すれば、あと1人なのか」と僕。


 1人くらいなら良周よしちかの行動力があれば、すぐに見つけられるかも。

 他のメンバーがどんな人たちかはわからないが、案外YouTubeに動画を投稿してみたいと思っている人間は世の中に多くいるのかも。


 良周よしちかの言葉で動画作りにも興味が湧いてきていたが、サークルに入れば交友関係も広がり、大学生活は今以上に充実するかもしれない。


「わかったよ。家事もあってあまり参加できないかもしれないけど、それで良いなら加入するよ」


 僕のその言葉を聞いた良周よしちかは「やった!」と小さくガッツポーズをした。


 話はまとまったな。


 そう感じた僕は、おもむろに良周よしちかに話しかける。


「それでさ、良周よしちか。今日のところはスーパーの特売に間に合わなくなりそうだから、もう帰っても良いかな?」


 お忘れかもしれないが、僕は急いでいる。

 今日のスーパーの特売で、今日から3日間分の家族の食料を買い込まなければならない。今日は食料品が全品5%オフなのだ。


「ああ。引き留めて悪かったな。詳しいことは明日以降に話すよ。ちなみに、今日の夕飯のメニューは何にするか決めてるのか?」


 良周よしちかがその質問をしたときには、僕はもう講義室の引き戸の辺りにいた。

 僕は引き戸の取っ手に手をかけて、良周よしちかのほうへ振り返る。


「今日はシーフードカレーだ!」


 僕はそう言うと、急いで大学を後にした。


 いざ、スーパーへ買い出しに出発だッ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る