第684話 必要な魔石
「このくらいの大きさで20個も選べば、十分のはず!」
うちのクラスは元々19人いたけれど、少し減って今は14人。それでも例年に比べるとかなり在籍数は多いらしい。
ラピスが持ってきた魔石はそれどころじゃない数があるので、似通った大きさを選ぶのも難しくないだろう。あからさまに大きいのはともかく、大体がゴブリンのはずなんだけど、その大きさや色は案外ばらつくもんだね。
ちょろちょろと簡易テーブルの上を走り回るチュー助とアゲハは、どうやら魔石の仕分けをしてくれているらしい。
となると、きっとやりたがるのが……
『スオー、手伝う!』
紫のお目々をきらきらさせながら、案の定やってきた。
うん、蘇芳に任せておけば、じっくり懇切丁寧に分別してくれることだろう。
『だけど主ぃ、ゴブリンの魔石じゃ指輪は作れないんだろ?』
「うん、だからちょっと細工するんだ!」
ひとつ手にとって、ぱふんと漆黒のソファーにもたれかかると、胡乱げな金の瞳を見上げて笑う。
「見ててね!」
さあお立ち会い! 何の変哲もないこのゴブリンの魔石が――?
「――はいっ!!」
ほら、ちゃんとできた! 得意満面で金の瞳の前へ突きだしてみせる。
魔族の国でイリオンに教えてもらった消却加工。オレはできなかったけど、その代わり覚えたこの方法。この方法なら、イチから生命の魔石を作るよりずっと楽だ。
「生命の魔石……か?」
じっと見つめる瞳が、ちょっと細くなって瞬いた。
「そう! だけど、少し質が悪いでしょう? この大きさでこの質なら、万が一見つかっても大事にはならないかなって」
だってクラスみんなのお揃いなんだよ? 普通に作るのじゃあつまらない。
だから、生命の魔石も指輪に埋め込んでもらおうと思ったんだ。
だってオレ、絶対にラキもやりすぎると思う。
だからきっと、今回の指輪は特別なものになる。きっと、みんなが一生身につけるものになる。
それなら、ちょっとしたお守りにできればと思って。
そりゃあ、ミックに渡したお守りほどは無理だけど、多少の祈りは込められるはず。
『これで、20個』
いそいそと蘇芳が選んでくれた魔石を手に取り、よし、と気合いを入れる。
生命の魔石を20個、あとカモフラージュというかメインの魔石を20個用意すればいいよね!
ぬくぬくする背中を楽しみつつ、ひとつひとつ、丁寧に生命の魔力を込めていく。たまにやる単純作業って、なんだか楽しい。コツコツと内職をしている気分だ。
「それ全部、生命の魔石にするつもりか?」
「そう。クラスのみんなの分だもの」
にこっとしてみせたものの、獣のお顔は渋面だ。
「どんな大きさだろうが質だろうが、そこまで大量に生命の魔石を揃えることなど、普通の人間には無理だ」
「で、でも元はゴブリンだし……このくらいなら!」
「どのくらいだろうが、生命の魔石自体が貴重だと言ったはずだ」
鼻であしらわれ、しょんぼりと肩を落とした。
せっかくいいアイディアだと思ったのに、使えないんだろうか。
――問題ないの! こっそりやればいいの!
元気に言い放ったラピスは、もしかして色々とこっそりやっているってことかな?!
――ち、違うの! ラピスは……ラピスは……そんなに悪いことはしてないの!
きりりと締まった顔できゅっと鳴く。そう……ちょっと悪いことはしているんだね。
だけど、ラピスの言うことも一理あるよね! オレがやろうとしているのは別に悪いことじゃない。悪いのは生命の魔石を見て悪事を働こうとするやつらだもの。
「そっか、見つからなければそれでいいよね!」
それなら、今回は加工師がラキだもの。きっとナイショで見えないように埋め込む、なんてこともできるに違いない。きっとできる。
オレはそう結論づけて止まった手を再び動かし始めたのだった。
「これで……20!」
ふう、と息を吐いてルーにすり寄った。ああ、ルーのぬくもりと魔力と毛並みが心地いい。触れる全てが最高だなんて、罪な神獣だ。
「よーし、あとはメインの魔石だけど、大きさが揃っているものがあればいいかな」
欠片から作ろうかと思っていたんだけど、ラピスが持ってきた魔石は割と大きいのもあったから、これで事足りるかもしれない。
「あるのならこれで――あ、そうだ!」
オレは収納からとある魔石を取り出した。
「消却加工はできなかったけど、生命の魔力は込められたんだし……」
ものは試しだ、魔石はまだまだあるから。
手に取った魔石を握り込み、分かりやすいだろう火の魔素を集めてイメージをかためる。これはね、イリオンに消却加工してもらった、空になった魔石。
そこへきちんと魔素が内包されるには……そうだ、毛糸玉を作るように。
集めた魔素をくるくるとまとめて一塊にして、魔石へ――。
「……光ってない、よね? 熱くもない。これ、できたんじゃない?! 成功じゃない?!」
ぼんやりとした半透明だった魔石は、ほんのり橙色になっていた。
「ねえ、ルー見て! これちゃんと成功してる?!」
「知らねー」
もう! ちゃんと見てよ!
だけど失敗していたらきっと鼻で笑うだろうから、これは成功しているってことだ!
よし、空の魔石はたくさんあるから、これに色んな属性の魔素を込めていけば……!
たくさん作って、みんなに好きな魔石を選んでもらったらどうだろうか。自分のものを選ぶってすごく楽しいよね! それに、いろんな魔素を込めると魔石もカラフルになって楽しい。
うん、これすごく楽しい。
自分の手の中でふわっと色を変える魔石が嬉しくて、つい夢中になっていたけれど、色とりどりの魔石に目をやってふと疑問が浮かんだ。
「――あれ? でもこれって指輪に使えるのかな?」
魔石っていうのは、基本的に魔物から採れるもの。
魔物によって属性で分けられることが多いものの、ノイズというのか、邪の魔素も含めいろんな魔素が混じり合った『魔物の魂』みたいなものだ。オレが作った魔石みたいに、純粋な属性のみにはならない。
『えー? 主、いっぱい作ったのに使えないのか?』
「つ、使える……と思うんだけど」
魔素はそれぞれ属性によって向き不向きがあるけれど、どの魔素でも魔法は使える。だからこそひとつの杖にひとつの魔石で事足りる。でも――
「どうしよう……もし、そのノイズ部分こそが大事だったら……」
ちら、と出来上がった魔石の小山に目をやった。
も、もし万が一ダメだったら、イリオンに頼んでこの魔石と空の魔石を交換してもらおうかな? それならWin-Winだよね?!
「よし、まずはこの魔石が使えるのかどうか聞いてこよう!」
直接イリオンに聞いた方が早いよね!
いてもたってもいられなくなったオレは、おざなりにルーを撫でてぎゅっと抱きしめると、素早く立ち上がった。
「ルー、ちょっと魔族の国に行ってくるね! オレの指輪できたら見せてあげるね!」
言うが早いか転移しようとした瞬間、風にさらわれくるくると空中で回転した。
「な、な、何事?! ちょっと、ルーでしょう! 何するの!」
ぱふっとルーの上に着地したらしいけれど、オレの中身が追いついていない。自分で回転する分には平気なのに……。
やっと平衡感覚が戻ったところで、じとりとルーを睨み付けた。
「そんな目をされるいわれはねー。むしろ礼を寄越せ」
思わぬ台詞にキョトンと首を傾げると、フン、と眇めた目で見下ろされた。
「てめー、その格好で行くつもりか」
その格好って、別にいつもと変わりない――
「あっ!! そうだった! ラピス!」
「きゅっ!」
へーんしん! くるっと回ってカラーチェンジだ。
そう、魔族の国へ行くなら白ユータにならなくちゃ。だけどオレ、いつかやらかす気しかしない。
まあ、イリオンたちはオレを知っているから大丈夫だけど。
「ルー、ありがとう! じゃあ行ってくるね」
今度こそ手を振り、そう言えばショクラも仕入れなきゃいけないんだったと思い出した。
『食べ物のことはちゃんと思い出すのねえ』
モモのそんな呟きを残して、オレはしばらくぶりの魔族の国へと転移したのだった。
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