第666話 出ない代わりに

「おは……あれ? 朝から学校にいるなんて珍しいじゃん!」

3人連れ立って教室に入ると、挨拶を返すクラスメイトにそんなことを言われてしまった。

「珍しくないよ! オレだってちゃんと学校来てるよ」

むっと頬を膨らませて反論したものの、正直なところ朝から登校するのは久々かもしれない。

「ユータは課題を先にクリアしちゃってるもんね~」

そういうラキだって、最近先回りクリアをしていることが多いって聞いた。彼は加工師だもの、冒険者向けの授業もあまり取っていないらしいし、今後は加工に専念していくんだろうか。

「……お、俺は実技が優秀だからいいんだよ!!」

なんとなく集まった視線に、タクトが大汗をかいて言い訳している。どんなに実技が優秀でも、試験がクリアできないと4年生になれないよ?


「いや、タクトお前はおかしくない! こいつらがおかしいんだよ! 依頼もこなしてんだろ? それでランクも上げていてなおかつ勉強できるって、絶対に裏があると思う!」

「そうだろ?! そう思うよな?! 俺が間違ってんじゃねえよな!!」

なぜか周囲のクラスメイトまでウンウンと頷くのを見て、タクトがここぞとばかりに身を乗り出して意気投合している。

うーん、確かにオレが勉強できるのは裏がある。何せ一度人生の途中までは経験したからね。記憶は薄れても、やれば思い出すし理解も早い。ラキが勉強できるのはちょっとおかしいのかもしれないけど。


「そう言うけど~、みんなだってランク上がってるでしょ~? 何せ、『ドラゴン世代』なんだし~?」

そう言って目を細めると、周囲のみんなはどこか得意げだ。その呼び名、オレは恥ずかしいと思うけどそうでもないんだろうか。

「まーな、順調だぜ! 積極的に魔物を狩るせいなんだろうな、俺たち結構強いんだぜ!」

むふんと力一杯披露した自慢げな顔は、まだまだ幼い。だけど、もう立派に『仕事』をこなす大人の一面を持った子どもだ。

「みんな、討伐系が好きなんだね」

冒険者の花形と言えばそうだけど、何もこんな幼い子たちまで討伐を選ばなくてもと思うのに。眉尻を下げた時、一斉にその首が振られてキョトンとした。


「討伐系の依頼はまだ受けられないヤツも多いだろ。そうじゃないって、獲物! 採取にしても調査にしても、外は獲物を狩るところだろ!!」

にんまりと舌なめずりした彼を見て、大体の所を察してしまう。

「あ~あ、ユータのせいでみんなが戦闘狂になっちゃった~」

「お前がドラゴン世代を作ったんだもんな?」

お……オレのせいじゃないよ、きっと!! ぶんぶんと首を振ったところで、メリーメリー先生の元気な声が教室に飛び込んで来た。

「おはよ……ああっ?! 今日は朝からユータくんがいるっ!! あれあれっ、先生何か予定忘れてる?」

先生は不安いっぱいの顔でなぜかラキを見る。意味が分からずオレもラキを見る。


「……先生の予定は知らないけど~、特に授業や学校の予定に特別なものはないよ~。ユータはたまたま時間があるから朝から来ただけ~」

ラキのあんまり優しくはない笑顔にも関わらず、メリーメリー先生は安堵してにっこり笑った。

「そっかっ! 良かった、先生実地訓練とか忘れちゃってるのかと思った!」

それ忘れていたら大問題だ。だけど先生ならやるかもしれない。

「あ、そうだユータくんいるからちょうどいいね! 急がないけど、練習が必要だし魔の祭典で何やるか考えておいてねっ!」

「えっ?」

さっさと教卓についた先生を尻目に、当たり前のように告げられたワードに心当たりがなさすぎて首を捻る。魔の祭典? 聞いたこと……ない、だろうか。それってどこかで聞いたような……。

そもそも、オレがいるからちょうどいいってどういうこと?


「お前、覚えてねーの? 言ったろ、若手の魔法使いが集まって腕前を披露するお祭りがあるって。フツーは4年生が出るんだけどなー?」

聞いた、ような気がする。薄ぼんやりとそんな記憶もある。

「じゃあ、まだまだ先だね。練習は今からするの?」

もしかして、魔法使いのひみつ特訓みたいにオレが主導で練習しておいてねってことだろうか。それにしたってなんでオレが。

「覚えてる~? 1年生を迎えた時のこと~。どうして僕たちがやることになったんだっけ~?」

ラキがにっこりと胸のざわつく笑みを浮かべた。

「それは覚えてるよ! だって4年生が少ないから、代わりにって……こと、で……?」

おや? それってもしや。

顔色の変わったオレを見て、ラキの笑みがますます深くなる。


「そう。だから、今年は僕たちのクラスが出ることになるよね~」

「えーっ?! そうなの?! わあ、大変だね……確か大魔法って言ってたよね? どんなことするの?」

まあ、オレは出ないんですけどね。さすがにそんな目立つことしたくないし、オレは魔力がきっと飛び抜けてしまう。オレが入ると色々マズくなっちゃうと思う。

「それがさ、普通の大魔法じゃ面白くねえからお前に任せようかなって!」

あっけらかんと言うタクトが、にっと笑う。そして、耳をそばだてていた周囲がにっこりと圧力のある微笑みを向けてくる。

任せ……?! いや任せないで?! 咄嗟に反論しようとした口がぱしりと塞がれ、淡い色の瞳が間近でオレを覗き込んだ。


「ユータ、出ないつもりなんでしょ~? じゃあ、それぐらい協力してくれるよね~? クラスメイトだもんね~?」

サラサラと流れた髪がオレの頬に触れそうな距離で、その瞳がすうっと細められた。それ、絶対笑顔って言わないと思う。

念を押すように、ね? と促され、オレは口を塞がれたままコクコクと頷くほかなかったのだった。



「も~! こんなことなら朝から学校行くんじゃなかったよ!」

オレはプリプリしながら秘密基地でおやつを作っている。

「そう言うなって。今聞いとけて良かっただろ? どうせ後から聞くんだからさ」

タクトが無意味にオレの周りをうろうろしながら、苦笑した。まだ何も食べられるものはないよ!

「だけど、後からだったら他の誰かがいいアイディア出してくれたかも!」

「そうそう魔法のアイディアなんて出てくるわけないよ~。呪文ありきなんだからね~? ほら、いつもみたいにユータの故郷のアレソレって言えばいいから~」

それって、確実にオレの言い訳だって気付いている言い分だよね。ラキだからいいけども!

 怒りにまかせてじゃがいもモドキを高速で細切りにしつつ、唇を尖らせる。


「だって、責任重大だよ。みんなの将来がかかってるんでしょう? オレ、大魔法なんて知らないのに」

魔の祭典は、登竜門だって聞いた。優秀なら王様に召し抱えられることも夢じゃないとか……と考えたところでバルケリオス様やガウロ様、ミックたちが浮かぶ。あれ? なんか、お城の仕事って割と身近な気がしてきた。

「大体は普通に大魔法を修めてくるんだから、そうじゃないって時点で十分なんだよ~」

「なんかさー、普通じゃつまんねえだろ? せっかくの『ドラゴン世代』なんだからさ!!」

オレは、普通の道を行きたいですけども。

いいか、オレが参加しないってのを許してもらえるんなら、みんなには派手に活躍してもらえば。だって目立ちたいんでしょう? なら、何をしたって怒られはしないだろう。


細切りにした芋に塩コショウをした時点でつまみ食いをねだりそうだったタクトが、振り入れた小麦粉にガッカリした顔をする。そもそも、まだ生だから。

「だけど、オレだって大魔法なんて授業で聞いた分しか知らないよ」

熱したフライパンにしっかり油を入れ、諸々を混ぜた芋を広げて押さえる。たっぷりの油がバチバチと鳴って徐々に香ばしい香りが漂ってきた。

ちらちらと視線を感じるけど、これは出来上がらないとつまみ食いはできません!!

ぎゅうっと押さえつつしばし焼いて、せーのでひっくり返す。途端に大きくじゅわっと音が響いた。

「美味そう! 色が美味そう!」

「あれ~? 塩コショウしかしてないよね~?」


美味そう、と目を輝かせるタクトの横で、美味しいの? と訝しげなラキ。さすがちゃんと見ている、今回は塩コショウと小麦粉くらいしか入れてないもんね。

「素朴な味で美味しいよ?」

にこっと微笑んで出来上がったガレットを皿へ滑らせた。平べったく丸いこれは、じゃがいものガレット! こんがり、まるで日焼けしたきつね色だ。次はチーズやハムを入れてみようかな。

「うまっ! ただの芋なのに、なんか色々な料理になるんだなー!」

「これ好き~! ほんとだ、シンプルだけど美味しい~!」

しっかりと押さえながら焼いた生地は、材料が同じなのにポテトフライともまた違う食感になる。熱々のそれを口へ運ぶと、ざくり、サクサクと顎が楽しい。

各々お気に入りのソースをかけていただきますした頃には、オレのご機嫌もすっかり直ってしまったのだった。



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12月になりましたね!!もふしら13巻、12月9日発売ですよ!!

メイメイちゃんめっちゃかわいいですね?!

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